常紋時篤飛露の親戚はみんないい人

 厚典は毎週月曜日は当番なので家を早く出るらしい。

 だからアサリとは関係ないと言われたが、それが本当なのか、最初はどうしても疑われずにはいられなかった。

 しかし幼児二人もそれが当たり前のように起きてきた事で、ようやくアサリは納得できた。

 六人での朝食はさすがにアサリも初めての事だった。

 アサリが五人家族な事もあるが、最近は拓南の高校は少し遠いため朝が早い。揃って食べる事はほとんど無くなっていた。

 春菜も今は遅い日もあるが高校生だった頃は同じように早かったので、家族全員で朝食をとったのはもう三年以上前になる。

 そして休日は朝寝坊がしたいと男性陣が我がままを言っており、それを許可しつつ女性陣もちゃっかり朝寝坊をしている。なので休日は起きた人から自由に朝食をとっている。

 しかし今日の篤飛露たちの家族を見て、せめて月に一度ぐらいはみんなで朝食を食べるようにした方が良いかも知れない。そう思った。

(それにしても、二人はスーパーグレートかわいかったですね)

 アサリは歩きながら朝食の風景を思いだし、反芻する。

 二人とも並んで椅子に座るとパンを食べようとするのだが、香奈実がいちごジャムを取ろうとしたら突然紅山が止めた。

 紅山はチョコレートジャムを食べたかったのだが、同時に姉と同じものを食べたかったらしい。二人は数度の会話をし、最終的に仲よくブルーベリージャムを食べ始めた。

 紅山は同じジャムを食べるためにチョコレートを諦め、香奈実はいちごジャムを諦める。

 ブルーベリージャムをパンに塗りながら「これが『さんぽーいちろーぞん』だからね」と香奈実は言っていたが、三方一両損をどこで知ったのだろうか。

 少なくともアサリは知らず、篤飛露に教えてもらって初めて知った。常紋時家ではそれを知っている事が普通なのだろうか。

 それにしても、使い方が間違っていると教わったのだが、何故二人にはその事を教えなかったのだろうか。

 その後朝食を食べ終えると、アサリにとっての至福の時間が待っていた。

 昨日お風呂に入っている間に寝てしまっていたせいか、幼児達はアサリに興味津々であった。

 アサリに抱きつき、アサリに笑い、アサリに登る。

 惜しむのはそこまで時間が無かった事だ。まずはアサリの家に帰るので二人と遊んだ時間はあまり無く、断腸の思いで分かれてきた。

 二人と遊ぶために何日か泊まってしまおうか、そう思ってしまうほどに、とてもとてもかわいかった。

「……篤飛露がいない時に遊んであげてと頼まれたと言えば、あの家に泊まっても問題ないのでは……!」

「お前はそんな顔をして何を言っているんだ」

 アサリの顔と考えが危険な物になりそうなので、呆れた声で篤飛露が修正した。

 それを聞いてアサリは自然と顔は戻ったが、言われた言葉には承服しなかった。

「でも帰る時に二人とも、また遊ぼうって言ってました。あの歳なら社交辞令は言いません。つまり心の底から私と遊びたいと言ってきたのです。篤飛露がそれを邪魔するなら、これはもう虐待ですよ、虐待!」

「……お前がよく口に出せるな、その言葉」

 確かに昨日あった事を考えたら、普通はショックを受けていてそんな事は言えないかもしれない。

 しかしアサリは二人の幼児に包まれて心の傷は癒えていた。むしろもう会えなくなってしまったら、新しい心の傷を作ってしまう。

「まあ、もう昔の話ですから。……だから一人でも大丈夫ですよ、二人とも我慢してましたよね」

 用意を済ませて篤飛露と家を出たのは五時半になってからだった。

 車で送ると言われたが、そこは遠慮をすると言ったらあっさりと承諾された。

 多分だが、心の準備をするためにもう少し時間が欲しいのが、きっと分かっていたのだろう。

「どうせ俺も教科書や制服があっちの家にあるんだ、準備も考えたら早めに帰るに越したことはない」

「じゃああの子たちはどうなるんですか、きっと今頃お兄ちゃんが居なくて泣いてますよ!」

「さすがにそれは無い。もう幼稚園に通ってるんだ、そのくらい我慢できる」

「ひどいお兄ちゃんですね、篤飛露は」

「妹や弟に理不尽な現実を教えるのも、兄の役目の一つだ」

 そうくだらない話をしながら、しかし一歩ずつ確実にアサリの家へ近づいている。

 まだ心の準備はできていない、だからアサリはどうしても昨日あった話を続けようとする。

「そう言えば、何を書いたのか篤飛露も分からないんですよね?」

 昨日買ったノートとアサリの着替えなどが入ったカバンは篤飛露が持っているが、香奈実と紅山が書いたノートはアサリが持っている。

 何でもアサリがお風呂に入っている間に、全て描き切ってしまったらしい。書いている間は篤飛露も見ていたのだが、何を書いたのか全く分からなかった。

「今日聞いたらあいつらが好きなキャラじゃなかったし、ひらがなも時々間違えていたからな」

「まあ、幼稚園児ならあれだけ書ければ充分凄い事ですから」

 そう言いながらもう一度、ノートを開く。

 絵も描いてあるが、どちらかと言うと文字の方が多い。

 幼稚園児なのにもうここまで書けるとは、天才かも知れない。

「……持とうか?」

 眺めているとそんな事を言われた。確かに、これ以外の使っていないノートは篤飛露が持っている。

 しかしこれは渡せない。その理由があった。

「二人とも篤飛露が持とうとすると暴れたじゃないですか、おにいちゃんはまだ持ったらダメ、って。そう言われてからには篤飛露には渡せませんね」

「……そうか」

「それにしても何であんな事を言ったんでしょうか。使った後は篤飛露に渡してもいいとか、最後はおじいちゃんに渡してとも言ってましたが」

「分からないけど、俺が持って行ってそのおじいちゃんにも見せたいんじゃないのか?」

「なるほど、よく書けたからおじいちゃんにも見せたいから、篤飛露に渡してほしんですね」

「まあ、それはそこまで気にしなくてもいいよ。たまに家で書いてるから」

 それよりも篤飛露が持っている、中身は大体を察しているけど絶対に中を見てはいけないカバンは、アサリが持った方がいい気がするのだが、それを口に出したら何を言われるか分からない気がして、篤飛露は何も言えなかった。

 なので話はそこで終わってしまった。

 家に近づいたアサリのために篤飛露は何も言わなくなったのだろう、そうアサリは思っていた。

 しかしまだ考えたくなかったので、アサリは篤飛露の心遣いは無視をする事にした。

「所で昨日は聞いてませんけど、篤飛露は何であの家の養子になったんですか?」

 しかもそうそう気軽には聞けない重い話を、どこのスーパーで買い物しているのか、ぐらいの軽い調子でアサリは聞いた。

「……それ今聞く話か。……と言うか、何で急に言ったんだ?」

「何となくですね。……まあ、私の事情の大体を篤飛露に知られましたから、私も篤飛露の事情を聞いておきたいと思ってもおかしくないですよね」

 確かに、篤飛露だけが知っているのは不公平かもしてない。

「いや、知ろうと思って知ったわけじゃないんだけどな」

「それでも篤飛露が私の全てを知った事には違いありませんから」

 何故か最後に自慢げにそう言われて、篤飛露は肩を落とした。

 わざとじゃ無いのは分かっているが、それにしてもアサリの言葉使いは何とかならないだろうか。

 ならないだろうな。そう思い、どこまで言おうかと考えて、あの家に養子に入った経緯は大叔父の事から始めるのがいいだろうと話し始めた。

「……元々は別の人、今の大叔父の養子になる予定だったんだけどな」

「大叔父さんと言うのは前にも一度聞いた気がします。確か……、篤飛露にオムレツの作り方を教えてくれた人ですね」

 そう言うと、よく覚えているなと言われたが、アサリにとっては当然だった。

 何故かアサリはその人の事を、昔の偉人に登場するような髭を生やしたナイスミドルと思っており、そんなおじさんがオムレツの作り方を教えてくれたイメージがある。ギャップがすごすぎて忘れら寝ない。

 普通はもっと、お父さんやお兄ちゃんは作るのはラーメンか炒飯か焼きそばを作るが、男の子らしい料理を教えるべきではないのだろうか。

 まだ会った事もない見知らぬ大叔父に、そんな事を心の中で呟いた。

「だけどその人は結婚してなくてな、独身の人が子供を養子にするのはどうかって親戚が言い出したらしい」

 アサリの心の呟きは当たり前だが聞こえていないので、篤飛露は話を続ける。

「親戚の言う事も少し分かりますが、そもそも何で養子になるっていう話になったんですか? ……これはさすがに言えない話でしょうか?」

「いや、詳しく話すと長くなるだけで、別に言えないわけではないんだけどな」

「じゃあ言ってください。篤飛露には私を楽しませる義務があるんですから、長くても言える範囲で言わなければなりません」

 微妙に篤飛露の事も考えながら断言されては、篤飛露には喋る事しかできなくなった。

 偉そうに言っているが、きっと断ったら悲しそうな顔をするだろう。そう思い、かすかに笑いながら話し始める。

「まあ、ざっくりで説明するか。俺は小学生の時から妖怪とかと戦っていたんだけど、引き取られたきっかけが大叔父と知り合っ事なんだ。と言うのも、俺の産んだ両親はその辺は全く関係無い人達なんだよ」

 つまり、オカルトはフィクションだと思っている人なわけだ。ついこの前まではアサリもそうだった。

「じゃあ、篤飛露が地球を守ったり妖怪と戦うのは、受け継いでやっている訳ではではないんですね」

「違うな。紋常時家は戦う能力が遺伝して、代々受け継いでやってるらしいけどな。で、産んだ親は俺がこっそり戦いに行くたびにケガをしたりで大事になるから、大叔父が俺を引き取るって言い出したんだよ」

「……それは、篤飛露が強いから身内にして使おうとしているみたいじゃないですか。実の両親が断るに決まってますよね!」

「それがな、俺はこっそり妖怪とかと戦いに行ってたから、親から見たら突然いなくなって帰ってきたらケガをしている。そんな子供は不気味に決まってるだろ」

「篤飛露は不気味じゃありません、それでも親ですか!」

 どこに居るかもわからない篤飛露の実の両親に対して、アサリは急に強く責めるように言った。

 篤飛露はアサリの頭を撫でたくなるような、何とも言えない気持ちになる。当然だがクラスメートの頭を撫でたりしないが。

「いや、我ながらあんな子供、不気味だと思って当然だよ。色々あって元親も疲れていたんだろ、母親のノイローゼも完全には治ってないしな。だから養子に行くのはすんなり決まったんだけど、さっきも言った通り、どこに養子に行くかでもめたんだ」

「確かに、そんな子供なら両親が揃っていた方が成長にもよさそうですし。……考えたんですけど、独身の人が養子にできるんですか?」

「さあ。でも大叔父は弁護士だから、できるんじゃないのか」

 何気なく言ったその言葉を、アサリは少し驚いて反応した。

「大叔父さんという人は神主じゃないんですか?」

 てっきり親戚全員が神主だと思っていたからだ。

 それを聞いて篤飛露もその勘違いに同意しながら訂正する。

「確かに、昔から神主の家系だから全員そうだって思うよな。でも当たり前だけど、神社と関係ない仕事をしている親族もいるんだよ。まあ、関係がある親族の方が多いけどな。大叔父は神主の資格も持ってるけど、今はそれを仕事にはしてないらしい。本業で本家の法律関係をやってるそうだ」

「神主をしている弁護士……、神主弁護士とかドラマでありそうです」

「ゲームでもな。……それでまあ、色々あって今の保護者に引き取られたんだ」

 そう言って篤飛露は終わったつもりだったが、当然アサリは納得しなかった。

「その色々が一番大事な部分じゃないですか。やっぱりどこも断られて、今のご両親が受け入れてくれるまで不安だったとかあったんじゃないんですか?」

「いや、逆だ。誰も引き取ろうとしなかったらすんなり大叔父に引き取られるはずだろ?」

 そう言われて、それもそうだと納得する。引き取ろうとしないなら大叔父の邪魔はしないはずだ。

「じゃあ、まるで親戚の人がみんな篤飛露を引き取ろうとしたみたいじゃないですか」

 からかうようにそう言ったが、アサリの予想に反して篤飛露は肯定した。

「そうなんだよ、ほぼ全員が引き取ろうとして、もめたんだ」

 普通は逆なのにな。

 そう言いながら昔の事なのに本気で不思議そうな顔をする。

「……分かりました、親戚の人達は、篤飛露を戦力、言ってみればラストウェポンとして欲しがっていたんですね。だけど今の両親は反対して、だからこそ篤飛露を迎える事が出来たんでしょう」

 言いながら自分の説を肯定する様に頷いているが、今度は否定された。

「それも逆なんだ。言ってみれば、多分神社の身内だからだと思うんだけど、いい人なんだよ、全員」

「全員いい人」

 予想外の言葉にアサリが思わず言い直してしまったが、篤飛露は気にせず話を続ける。

「それにしたって限度があるよな。だけど、もっと早く連れてこい、とか、小学生に戦わせるとか正気かお前は、とか、とりあえず一回この子のお祓いしよう、とか、大叔父はボロクソに言われたらしい」

「あ、その時篤飛露はどうしてたんですか。同調して一緒に文句を言ってたんですか?」

 すると篤飛露は何も言っていないと言う。

「俺はその場にいなかったんだよ。まあ小学生を自分がどこに引き取られるって話に参加させるわけが無いよな。で、結局は話がまとまらなくて、最終的には香奈実と紅山が決めたんだ」

「……なるほど、二人とももう喋れたんですね。さすが神主のかわいい子供です!」

「……まあ香奈実は喋れたと言うか声は出してたな、紅山はさすがに泣く以外はできなかったが。俺は別の所で待ってる時にあいつらをあやしてたんだけど、離れようとしたら二人とも泣き出して、俺にしがみつこうとするんだよ」

 それを聞いてアサリはショックを受ける。

「……あんなにかわいいのに、何で私にはそれをしてくれなかったんでしょうか……」

 その光景を考えて残念そうにしょんぼりとしているアサリ。それを見て篤飛露は、アサリもかわいいと言いそうになったが、さすがに口にはしなかった。

「……実際にやられたらアサリも困ると思うぞ。あの時は本当に困ったしな」

 そう言われたが、アサリは篤飛露を信じなかった。二人にしがみつかれて困る人など存在しない。そう思ったからだ。

 しかしそんな場所に、なぜあの子たちも居るのだろうか?

 そう思ったが、考えれば篤飛露の父親になる前の厚典も話し合いに参加していてもおかしくはない。ならばその家族が別室にいても、不自然ではないだろう。

「じゃあ、幼児が二人そろってなついたから決まったんですね。泣く子と地蔵には勝てぬと言いますから」

「それを言うなら地頭だ、地蔵と争うな。……で、正確には……、御母さんが決めたんだ。この子たちにとってはもうお兄ちゃんなので、家のお兄ちゃんにします、って。それでその日の内に連れていかれたんだよ」

 保護者と言ったらどちらの頃を言ったのか分からない。だから御母さんと呼んだのか。

 それにしてもまだ二十代なのに、小学生の息子を持つ覚悟を決めるとは。

「……さすがですね」

 母親になればみんなここまで懐が深くなるものだろうか。

 そう考えて、そうはならないかと思い直す。

 全員が全員、そうなる方がおかしいのだろう。

「で、話し込んだりしたからもうすぐアサリの家に着きそうだけど、心の覚悟は決まったか?」

 そう言われてようやく、アサリは自宅の付近を歩いている事に気がついた。

 どうやら話に気を取られていたらしい。

 もしくは、よほど現実逃避としていたのか、だ。

「……どうせなら、もっと心の覚悟が決まるような話をしてくれればよかったと思っている所です」

 頼んだのはアサリなのにそんな事を言う。

 しかし言われた篤飛露は怒ろうとせず、逆に甘い囁きを呟いた。

「じゃあ、決まらなくても大丈夫にしてやろうか?」

「……?」

 そう言われたアサリは言葉では返さずに、何を言っているんだこいつは、的な顔をして返事をした。

 それは通じているのだろう、篤飛露は説明を始める。

「俺がアサリを誰もいない場所にさらうんだ。俺が無理やり連れて行くから、アサリに責任は全く無い。俺のせいだとずっと思って、文句をずっと言っていい。ずっと俺のそばにアサリを閉じ込めておく」

 そう言われて、少し心が惹かれてしまう。

 誰もいないならきっと、もう何も考えてよくなるのだろう。

「でも、誰もいないという事は、篤飛露と二人っきりという事ですか?」

 そう尋ねると、予想通り篤飛露は肯定する。

「アサリがもう考えなくてもいいように、家族はもちろん友達も、知り合いも、知らない人もいない、アサリと俺だけの世界だ」

 その世界の名前を聞いて、ついアサリは笑ってしまう。

 アサリと篤飛露の世界。笑わずにはいられなかった。

 そして笑っている間にも篤飛露は説明を続ける。

「アサリが誰とも会えないのに俺が誰かと会うのは不公平だと思うだろうから、当然俺も誰とも会えない世界を作ってやる。名前の通り、俺とお前しかいない場所だ」

「……じゃあもし行きたいって言ったら、心配しないように書置きでも残していくんですか?」

 まだおかしいので笑いながら何となくそう聞いてみると、意外な事に首を振られた。

「善は急げっていうだろ、気が変わらない内に今すぐ行くに決まってる。こんなに悩ませたんだ、あいつらが死ぬまで後悔して悩み続けても、それは仕方ない事だ」

 酷い事を言われた。しかし今はそれには触れず、さらに質問を続ける。

「じゃあ、私が会いたいって言ったらどうなります?」

「当然却下だ、何しろ俺はアサリを攫ったんだからな。攫われた人間が帰ると言って、帰すと思うか?」

「じゃあ、香奈実ちゃんと紅山君が会いたいって泣き出したらどうです?」

「悲しいけど、これって誘拐なのよ。誰かが会いたいって泣いたりしても、もう誰とも会えない。……二人で暮らして二人で年を取って、片方が亡くなったら世界が消えてもう一人もすぐに亡くなる。……心のか覚悟が決まらなかったら、そんな場所にアサリをさらって行く」

 篤飛露は、本当に酷い事をを言っている。

 あんなにかわいい子達が言っても、そんな事を言うなんて。

 だからアサリは、一つの事を決めた。

「篤飛露、私は決めました」

 少し足を大きく出して、歩く速さを上げる。

 しかしそうする事でようやくいつもの速さになっていると気づく。

 自分でも気がつかない内に、少しづつ小さくなっていたと気がついた。

「心の覚悟が決まったのか?」

 少し前を歩いているアサリはそう問いかけられたが、篤飛露の顔を見ないまま否定する。

「心の覚悟は決まりません、と言いますか、多分会わないと決まりません。決めたのは別の事です」

 自分でも意外な事に明るい声で、アサリは楽しそうに言った。

「何が決まったんだ?」

 そう聞かれるとアサリは後ろを向いて、篤飛露をいたずらっぽく笑った。

「酷い事を言う篤飛露には、さらわれるわけにはいきません」

 その顔を見た篤飛露は、満足そうに笑い返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る