姫芝アサリは昼休みに説明する
「一言で言えば、お姉ちゃんが全部悪かったんです。ええ、全部ですよ、全部」
聞かれる事が多すぎて休み時間ではとても足りない、だから昼休みに説明する。
アサリはそう時間を稼ぎ、授業中の内容はほぼ無視して必死でつじつまを考えていた。
同じように質問されてる篤飛露を見ると『秘密』の一言で済ませていた。
男子はあれでいいんだと思いまねをしてみたが、女子には通じなかったらしく、逆に立場になったら納得するのかと聞かれたら、それはそうだと思うしかない。
だから昼休みになり友美と紗月と三人でお弁当を囲むとアサリは、これなら納得するだろう、と自信のある説明を始めた。
「いや、何でお姉さん?」
言い終わると、予想通りの言葉が帰ってきた。
そこでアサリは、用意した説明を答える。
あの日一人で下校していると篤飛露と偶然遭遇した。学校ではないの大人の目もあり、ケンカはしないように気を付けながら、勉強会には行かなかったのにどうしてこんな所に居るんだと問いただした。
結局説明はしてくれなかったが、問い詰めていたら遅くなってしまったため、篤飛露が家まで送ってくれる事になった。
家につくと烈火のごとく怒っている姉が篤飛露を見ることで頂点に達し、さらに勉強会には参加しないくせにこんな所で歩いていてさらに家まで送ってくれるぐらい暇な篤飛露に急に怒りがわいてきて、アサリも加わり姉妹で一斉に水を浴びせた。
この時にアサリの制服に少し水にかかったので、夏服に衣替えをする事にした。
篤飛露が帰ってから冷静に考えると、さすがに悪かったかもしれないと思い直し、次の日謝ろうと思っただ篤飛露は風邪で休んでいた。
先週ずっと休んだままだったのでお見舞いに行かなきゃと思ったが住所は分からず、その代わりに親が働いている神社は分かったのでそこに行くと、篤飛露のお父さんに出会った。
その人に謝ったらあっさりと許してくれて、寝込んでいるが月曜日には登校するから心配いらないと教えてくれたが、言葉だけでは不安であり、顔を見るまでずっと心配していた。
「だから、今日会ってようやく私は篤飛露を殺していないんだと安心したんですよ」
口を挟まずに最後まで聞いていた二人だが、話が終わるとすぐそこに立っている当事者に尋ねる。
「あのお姉さんが水をかけるね。確かにアサリが絡んだらしてもおかしくはないかも。紋常時君、アサリの説明は本当の事?」
「まあ、大体合ってるかな」
アサリたちのすぐ横にいる篤飛露はパンを口にしながら答えた。アサリがちゃんと本当の事を説明したのか、確認するためだけに連れて来たのだ。
逃げられないように夏志と国江もそこに居るが、二人は単なる野次馬であり、弁当を食べながら楽しそうに聞いている。
「じゃあ、大体合ってた以外の部分って?」
「日曜寝てたのは夜更かししてたから寝てただけで、あのお姉さんのせいで風邪をひいて無いから。もしそうなら、さすがに保護者が文句を言ってるよ」
アサリが姉ににどう説明したのか、篤飛露はそれを知らない。あの日は濡れたままにされていたので、春菜が自分の責任だと思ったかもしれない。
だからアサリにそれを聞きたかったのだが、なかなかその機会が訪れない。
友美たちは納得したのか、それとも聞きたいことが他にもたくさんあったのか、回答者に篤飛露も加え質問を開始した。
「じゃあ、二人は待ち合わせはしてたんじゃないんだ」
「そう、偶然。用事の都合で歩いてたらアサリに見られたらしくて、何故か俺を後ろから追いかけて来たらしいんだよな」
篤飛露がそう言うと、今度は全員の顔がアサリに向けられる。
アサリは今度はしっかりごまかそうと気を付けながら、しかし顔にはおくびにも見せずに返事をする。
「篤飛露は勉強会に参加しなくて先に帰ったくせに、そんなところに居たんですよ。ちょっと文句を言おうと私も走ったんですけどなかなか追いつけなくて、結局私は森水公園まで走ったんですからね」
「あれはびっくりしな、誰かと思ったらアサリがいたから」
嘘はついていない。妖怪の事など、言わないことが多いだけだ。
「篤飛露は何で私に気が付かなかったんですか。考えたんですけど、早く気が付いていたら私は早く帰れましたよね」
「すごい事言ってるぞ。俺の方が足が速いんだから、はるか向こうから追いかけてられも気が付かないに決まっている」
そうからかうように言われて、アサリは怒ったように声を大きくする。
「いつ私に気が付かなくていいと言いましたか。篤飛露は私が少しでも近付いたら察知する義務があります。だから私が居るのが分かったらすぐに近付いて、挨拶をするべきなんです」
「さらにすごい事言ったな、こいつ」
気が付いたら周りを全く気にしなくなり、二人の時間を作りだしてくる。友美達はいつもなら放っておく所だが、今日はまだまだ聞きたい事が残っているのだ。
邪魔をしているような気分になったが、二人の言い合いに口をはさむ。
「じゃあ二人は森水公園でいたんだ、二人っきりで?」
「そりゃ、私は最初は一人で帰ってましたから。篤飛露が来てくれるまで、人間は私一人でしたし」
何かを含ませるように聞かれたが、慌てることなく返事をかえす。
「あの日は結構遅かったから、夕方ぐらいに、森水公園に、アサリちゃんと、紋常時君と……、二人でいた、と」
まるで確認するように聞かれたが、その意図をアサリは掴みあぐねていた。
「? 篤飛露も一人でしたから、二人でいました。……まさか実は、隠れた人が何処かにいたんですか!」
驚いた口調でアサリは叫ぶように言った。
まさか実はアサリが知らない、第三の人物があそこには居たのだろうか。
「いや、アサリは一人だったし、俺も一人だった。そこは安心していい」
そう言って篤飛露は安心させようとしたのだが、それは逆効果となってしまいかえってアサリを不安にさせてしまう。
「篤飛露は信用できません。つまり、あの時にまだいたという事なんですね、それも私に知らせては不都合な人が。一体どんな人が……、まさか、篤飛露の、か、か、彼とか」
「ちょっと待て。彼ってなんだ彼って」
予想外のアサリの声に反射的に否定した。せずには居られなかったのだ。
「篤飛露の彼はいなかったんですか?」
「いない。いなかったじゃなくて、存在自体が断じてない。普通そこは彼女だろ。……俺に彼女もいないけど」
「じゃあ誰が居たんですか?」
「誰もいなかったと言ってるんだよ」
気がついたら猫のじゃれあいのように二人は言い合いを始める。
「はいはい、ごまかそうとしない。それで、森水公園で二人で何してたの?」
昼休みに入って何度目だろうか。そう思いながら紗月は最初の話に戻ろうとする。。
「何してたって。……ケンカ、でいいんですよね?」
「ケンカだな。正直ちょっとむかついたし」
「やっぱりあれをしたの、怒ってたからなんですね。私はちゃんと謝ったじゃないですか、それなのにあんなことをするなんて、信じられません」
「心がこもってなかったからな。今なら言えるが、あれは正直スカッとした」
紗月が少し喋っただけで、又も二人の世界が作られる。
二人の世界の言葉を聞いて、二人の女子が聞きたかった事が姿を現れはじめた。
「ちょっと待って。ケンカって、紋常時君が怒って、アサリに何をしたの。あれをしたって、ひょっとして具体的には言えないような事とか?」
「あれって何、あれって。どれの事、それの事、それともまさか、これの事?」
「これって事は、これを二人でやったって事? ケンカの後でこれをするなんて、私には信じられない!」
勢いよく楽しそうに喋る女子たち。興奮した二人は自分の言った言葉でテンションを上げ、さらに興奮する。
それを見ていた他の四人は少し引いていた。
「二人とも、クラス全員から見られてる、ちょっと落ち着いてくれ。……で、俺も少し気になるけど、あれとかそれとか、結局篤飛露たちは何してたんだよ?」
さすがに騒ぎすぎてると思ったのか、夏志が止めようと横から口をはさんだ。
聞かれた事でアサリは、篤飛露から無理やり抱えられて湖に飛び込んだ事をどう説明しようかと考える。考えた末に無意識に篤飛露を見ると、何でもない事のように喋りだした。
「アサリを一回抱えてから地面に落としただけだよ」
そう言うと男子二人は打って変わって驚愕し、確認するように呟く。
「抱いて地面に……」
「……抱いて、置いた!」
言葉が微妙に変わっているのだが、よっぽどショックだったのか自分で気が付ていない。
アサリも気がついておらず、何を言ってるのかはよく分からないが、篤飛露に合わせた方がいのだろうと思い言葉を追随させる。
「思い出しました、篤飛露には私に謝ってませんよね。腰が痛かったんですよ、あれの後。篤飛露はその事について改めて謝ってください」
アサリがそう言うと、今度は女子二人が驚愕しすぎて何も言えなくなる。
しかしそれを気にしないのか、それとももっと興奮させたいのか、篤飛露はアサリとの不穏な会話を続ける。
「一応、痛くないように気を付けてたんだけどな。草があったし、ゆっくりだったろ」
「いーえ、打ったんですからね、そりゃ痛かったですよ。それに最初の方は力いっぱいだったじゃないですか」
アサリも驚いている二人を無視して文句を言い続ける。
無視された女子二人は聞こえた言葉について、何を聞けばいいのだろうかと悩みが尽きなくなってしまった。
悩みに悩んだ末ようやく一番に何を聞くかを決めると、恐る恐る二人は、喋っている女性に尋ねる事が出来た。
「力いっぱいで、あれの後に、……こ、こ、腰が……、い、痛かった、の?」
「痛くないように気を付けて、でも最初の方は、力いっぱい……!?」
からかいを含んでたさっきまでとは違い、二人の声が驚きの他にも聞いていいのかと迷いの声。聞いていいのだろうか、しかし聞かなければならない。
そう思っているのだが、友人がそう考えている事に全く気が付かないアサリは、無邪気な声で答える。
「? あんなことされたらそりゃ痛かったですよ。確かに最後は篤飛露も気を付けてたかもしれませんけど、やっぱり痛かったんですよね。友美さんや紗月さんも、あんなことされたら痛いと思うんですけど、された事はありますか?」
『無い、あるわけ無い』
そんな訳ないだろう、そう言わんばかりの大声で二人揃って否定する。
篤飛露がふと教室を見渡すと、他の女子たちも聞きたいのか近づいてきている。そして夏志と国江以外の男子たちは教室こそ出てないが、揃って逆の方へと集まっている。
「アサリ、教室で大声で、男子もいるのに、なんてこと言うの。紗月じゃないんだから!」
「私でも言わないからね、そんな事! そう言う事はもっと、部室とか誰かの家とか、男子がいない場所で話すものでしょ!」
二人とも顔を真っ赤にしてアサリに詰め寄ると、小声で叫ぶようにそう言った。アサリは驚いた顔をした後、不思議そうにこえをあげた。
「……何でそんな風にいうんですか。少し大げさに言いましたけど、言ってみればいつも篤飛露とやっている、ケンカの延長線じゃないですか。今まではしてないですけどこの前しましたから、今後は学校でもするかもしれませんね、篤飛露なら。体育館のマットの上とかなら痛くはないでしょうけど」
「学校で、マットの上で……!」
「おう、じーざす……!」
アサリは地面に落とされた事を言っているのだが、聞いていた他の人全ては違う。アサリとそれ以外ではとてつもない勘違いをしていた。
しかしそれはどっちが悪いのか、そこが図りかねているため、唯一全てを理解している篤飛露は何も言えなかった。
「……ひょっとして、すごい痛いと思ってませんか? そうだ、篤飛露なら痛くないようにもできるはずですし、一回やってもらいましょう。多分ですけど、痛くないようにしたらきっと楽しいですよ」
『おい!』
叫ぶ声に夏志と国江も加わり、四人がかりで一斉に言葉を浴びせる。
あまりにもなアサリの言葉に、叫ばずにはいられなかった。
「やるわけないでしょ、一回やろうって何を考えたらそうなるの!」
「痛いとか痛くないとかそういう問題じゃないでしょ。紋常時君がアサリちゃんじゃない人としてもいいの、そう言う事を!」
「篤飛露が弱みを握って命令されてるんだよな、だからそんな事言ってるんだよな?」
「篤飛露君がそんな人は思わなかったよ、一体どんなことをしたらこんな風に人を変えてしまうんだ!」
目の前でのやり取りを、篤飛露は言葉を出さず無表情で見守っていた。勘違いが酷すぎて、少しでも口を開いたら、笑いすぎて息が止まってしまうかもしれない。
勘違いをさせるつもりではあったが、ここまでとは思わなかった。
そしてアサリは良くわかないだろうに、ここまで勘違いさせるとは思っていなかった。おそらくよく分からなだからこそ、ここまでできるのだろう。
だからあんな顔をしている。叫んでる四人を見て、不思議そうに、キョトンとした顔を。
図らずもアサリに踊らされているクラスメート、それは近くに居る四人だけでは無い。いつの間にか誰もが口を閉ざし、あるいは堂々と、あるいはばれないように、アサリの声に聞き入っていた。
「だから、アサリはそうゆう事は紋常時君としかしたらダメでしょ!」
「ダメなんですか。確かに篤飛露としかしてませんけど、お兄ちゃんや、お姉ちゃんともするかもしれませんよ?」
「お兄さんやお姉さんと!? 何で!? しないと出られない部屋にでも入れられたとでも言うの!?」
「そんな事になったらそんな事をしてる場合では無いと思うんですけど」
「意外と冷静だ」
「じゃあどんな場合にするって言うの!」
「それは、友美さんや紗月さんが嫌なのにされそうな時とかですね」
「まさかの友達を救うために。友情に厚い、そしてお兄さんとお姉さんはそんな人なんだ! でも逃げて、そういう時は自分の身を一番に考えて逃げて」
「篤飛露が居たら任せるんですけどね」
「ここでなんで紋常時君が。まさか任せるの、任せられるの。まさか紋常時君はお兄さんともできるの!」
「任せて大丈夫と思いますよ、知らないかもしれませんけど、篤飛露は強いんですから。篤飛露がいれば、逆に篤飛露がする方になりますね。例え沢山人が居ても篤飛露がいれば大丈夫です」
急に興奮する紗月と、それに気づかないアサリ。
篤飛露はそれまではコントを見ているかのように楽しんでいたのだが、急に話が自分が巻き込まれたくない方向に向かっている。
それは嫌なので篤飛露はそろそろ修正することにした。
本当は昼休みが終わるまで続けてうやむやにするつもりだったが、この方向はよろしくない。
「逆にする、沢山、ね。ちょっとお兄さんと常時君君について、詳しく聞かせてもらいましょうか、具体的に。ひょっとして何人も行けたりする?」
「そこまでは聞いてみないと。……篤飛露、どのくらいできそうですか、篤飛露なら百人ぐらい大丈夫ですよね」
「百人!」
紗月が一人だけテンションが上がり切っているが、それと引き換えなのか他のクラスメートはさすがにおかしいと思ったのか、少し冷静になったと言うか、紗月に引いている。
今が一番のタイミングだろう。
「アサリを守るためなら千人でも一万人でも大丈夫だけどな、それよりも話が食い違っている事に気がつこうか」
そう言われて、アサリは何を話しているかを考えようと動きを止めると。
「そう言えば、篤飛露の強さではないんですよね。何の話でしたっけ?」
そう言った。
その言葉に腰を砕けそうになりながら、他にも気が付いていたの国江がその質問に答える。
「結局、二人は実はばれないように付き合っていて学校の外では見つからないようにこっそりイチャイチャしていたのかどうか、を聞くため、でいいのかな?」
それを聞いて面々は、そう言えば、と言う顔をする。
「……じゃあ、紋常時君はアサリちゃんにあれをしてないなら、一体何をしてたの。人に言える事なの? それとも言えない事?」
国江の言葉に冷静さを取り戻したのか、さっきまでの口調をごまかそうと紗月がそう言うと、篤飛露はアサリの後ろに立った。
「アサリ、スカート抑えてろ。……こういう事をしたんだよ、っと」
何をするのだろうか。
そう考える暇もなく、アサリを一気に抱え上げ、さらに空中へと持ち上げる。
「ふにゃー!」
クラスメートが見ている中、アサリはそんな事を叫びながら空中へと舞い上がった。
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