第6話
鷲星が式鬼となってからひと月と半分が経過した。
鷲星がなにを考えているのかわからなくなってしまったあの朝から、鷲星とはずっと気まずいままだ。五日ごとに大鷲団に通い、血液の補給をさせる義務を果たしては、ろくに言葉も交わさずにさっさと立ち去ることが数回、続いた。
そんな折、織風の元に永盛城から呼び出しがあった。
呼び出しを知らせてくれたのは頻羽だ。そして伝言を頼んだ主は愛鸞帝だった。六面を討伐した天人と式鬼に直接礼を言いたいのだという。
当代王朝の詔帝に仕事ぶりを認められた。鷲星との仲がこじれ、このところふさいでいた織風の心がわずかにゆるむ。
織風は渋る鷲星を説得し、なんとか永盛城まで引っ張ってきた。鷲星はひたすら面倒くさそうにしていたが「まあ、おまえが血を飲ませないと脅したら、俺は従うしかないからな」とぶつくさ言いながら最後は従ってくれた。餌となる血を盾に鷲星を脅すつもりなどない。そういう姑息な手段もあるのだな、と織風はそこではじめて気がついた。だれかを出し抜いたりだましたりなどと考えもしない。根っから、純朴なのだ。
呼び出されたのはちょうど、朝議が終わったあとの時刻のことだった。黄瑠璃に塗られた屋根の堂々たる殿で、永盛城の城主にして凌雲王朝第六代目の詔帝である愛鸞帝に、はじめてお目見えした。
愛鸞帝は朝議のあと、そのまま
織風と鷲星、頻羽と剛毅、それからあと二人、見慣れない人たち――二人とも髪の毛が鮮やかな緑色なので、天人で間違いない――が、愛鸞帝のまえに居並んだ。
十五歳で即位し、この秋に即位四十周年の式典を迎える愛鸞帝は髪を高く結い上げ、たくさんのかんざしで飾っている。髪の毛は黒髪よりも白髪の分量が多く、ほとんど銀髪に見えた。顔は年相応にしわが刻まれ、頬の線が加齢でゆるやかになってはいるものの、はるか遠い未来を見つめているかのような眼光は力強く、背筋を伸ばして座る姿は威厳に満ちており、老衰などという言葉とはまだまだ無縁だ。愛鸞帝は艶のある黒い生地に、龍の刺繍が施された着物を召している。糸の厚みで刺繍が浮き上がり、詔帝の証である五指の金の龍が、いまにも布地から飛び上がりそうな躍動感だった。
「六面は人の姿や声を真似る能力があったのだとか。織風に鷲星、このたびはご苦労であった。被害者が出るまえに討伐できてなにより」
織風は恐縮して頭を下げた。鷲星は詔帝を目のまえにしながら、頭の後ろで手を組んで鼻歌でも歌い出しそうな気楽な態度だ。詔帝のまえで不敬ではないかと、織風は肝が冷えた。
「織風は長らく、翠藍さまの秘蔵っ子だったそうね。地上にはもう慣れたかしら?」
愛鸞帝は軽くほほえんで織風に問いかける。
「まだ慣れないこともあります。ですがこちらの風習も、徐々にわかってきたように思います」
言葉を交わしてみてすぐに、愛鸞帝が気さくな人だとわかった。節度は保ちつつも、口調や態度をほどよく崩して、かしこまらない。
「愛鸞という名前は自ら命名したの。天人たちを率いる蓮花天の王に、乙女ながらに憧れてね。響きが似ているでしょう? あやからせてもらった」
若き女帝の誕生を国は歓迎したが、その後も愛鸞帝がずっと支持されているのはひとえに、その輝かしい功績と人徳によるものだろう。
「珠翡、樹雫」
愛鸞帝は楽しそうにしていた顔を引き締めて、織風の左隣にいた二人組を呼んだ。
この人達が、以前、頻羽の話していた兄弟の天人。妖魔対策の分析官だ。地上での暮らしが長かったのだろう。ずっと蓮花天にいた織風が直接、お目にかかるのははじめてだ。二人は、そろって一歩まえに進み出る。
「このところ、魔の者の動きはどうかしら? 珠翡?」
「はい、陛下」
珠翡と呼ばれた天人が返事をする。背が低く、見た目は十五歳くらいの少年にしか見えない。若くして見た目の成長が止まる天人のなかでも、もっとも若い部類に入るだろう。瞳は赤みがかった茶色だ。
「妖魔は、我々の予想をはるかに上まわる勢いで出現しています。それもなぜか、復活して即座に強大な力を得ている。またその異能について、対策を練りづらいものが多く、苦戦しております」
「妖魔の出現頻度が増えている原因は突き止められたかしら?」
「……いえ、それはまだ。出現地点の分布から樹雫に分析させていますが、法則性がないようなのです。ただ織風天人からもたらされた情報によると、七曜山の封印は経年劣化ではなく、わざと破られたようなのです。さらに術を込めた楔を打って、妖魔を復活させたことを検知できないようにしていた。だれかが強力な魔の者が封じられてきた史跡の封印を破り、力が回復するまで検知できないように覆い隠しているのではないかと。そのために、はじめから大きな力を得た妖魔が復活しているように見えるのです。いま、そちらの線で樹雫が調査をやりなおしています」
珠翡の隣に立つ天人が樹雫だ。珠翡と同じ髪と目の色をしており、片側に寄せた長い髪の毛を、中腹からゆるく三つ編みにして胸元に垂らしている。背は樹雫のほうがだいぶ高い。目測では鷲星と同じくらいだろうか。
報告を受けてふむ、と軽く呻吟したのち、愛鸞帝は織風に話を持ちかけた。
「織風はまだ地上でのお役目が決まっていないと聞いているわ。それならば……。しばらく妖魔討伐を手伝ってもらえないかしら?」
織風はおどろき目を瞠った。詔帝直々にお役目をくれるなんて。
人の世を正しく導くために、織風になにができるか。まだ答えは見つかっていない。でも、穂楽の人たちとかかわったことで、だれかの不安を取り除くことにこそ天人としての生きる意味があるのではないかと思えた。妖魔討伐に協力していれば、いずれお役目への道が見えてくるかもしれない。織風としてはぜひとも、検討したいところだった。
「ことわります。陛下」
織風が返事をするまえに、鷲星が申し出を一蹴した。
「じ、鷲星っ……」
織風はあわてて静止しようとしたが、鷲星はまっすぐに愛鸞帝を見つめて言い放つ。
「俺は、しがない金貸しです。特別な訓練を受けているわけじゃないから、妖魔討伐には向いていない。それは織風も同じです」
愛鸞帝はなにも答えず、ただ試すように片眉をつり上げただけだった。勝手に意思を代弁されたことが不本意で、織風はやや語勢強く挑みかかる。
「鷲星。まだお役目がない以上、私はできることに協力したいと思っているんだ。勝手に返事をされるのは、困る」
「粗忽な天人さんよ。いかに不死身になったからって、痛みはこれまでどおり感じるんだぜ。おまえさんが妖魔討伐なんか行ってみろ。きっと目も当てられない事態になる」
「それは……やってみないとわからないだろう」
「ああそう? なら、おまえさん一人で行け。俺は協力しない」
鷲星はぷいっと顔をそむける。態度がやけにつっけんどんだ。これまでに見たことがないような鷲星の冷たい態度に、心がひるみつつも織風は反駁する。
「……妖魔討伐は、天人と式鬼がともに向かわなければならない。それが翠藍さまの定めた掟だから」
「じゃあ俺は行かない。俺が行かないなら、おまえも行けない。この話は以上だ」
話の雲行きがあやしくなってきた。凌雲国の女王の眼前での口論を、頻羽がはらはらとした顔をしながら見つめてくる視線が痛い。愛鸞帝は凪の表情で、目のまえのやりとりを見守っていた。
鷲星が頭ごなしに拒絶するのにむっとして、つい口調に熱がこもる。
「きみは、私の式鬼になったのは不本意かもしれないが……。対となった以上、ともにこの国に尽くす義務があるのではないだろうか」
義務と言われて腹が立ったらしい。それまで織風を軽くいなしていた鷲星が、とたんにむっとした顔をする。
「人を勝手に式鬼にしておいて、なーにが義務だ! 俺はだれかのために自分を犠牲にするのが、この世で一番大っ嫌いなんだ!」
「勝手にだと……! そんなつもりでは、ない……」
「じゃあどういうつもりだったんだ? 式鬼にしてくださいと俺が頼んだか?」
「それは……」
反論が思い浮かばず、かといって認めることもできずに織風は口ごもった。あのときは悠長に言葉を交わしている余裕などなかった。そうだとしても、鷲星の意志を尊重しなくても許されるという考えは間違っている。
「どうせ、あのときあの場にいたのが俺じゃなくても、おまえさんは式鬼にしたんだろう? この、考えなしの粗忽者が!」
鷲星がふん、と鼻から憤然とした息を吐き不満そうに放ったひと言に、織風は怒りで頭が真っ白になった。
「……一方的に話を決めつけるな……! 私は……!」
「ああもう、いい加減にしろーっ……!」
織風がなおも言い返そうとするまえに、苛立ちをあらわに叫んだのは珠翡だった。
「さきほどから見苦しい! 陛下の御前だぞ! 二人とも自重しろ!」
叱られて、織風はしゅんとなった。珠翡の言うとおりだ。陛下のまえで口論するなど、無礼なことをしてしまったのが恥ずかしい。珠翡は腕を組み、かかとを支点に足を上げ下げして、たしたしっと床を軽く踏みつけながら、織風をにらみつける。
「まったく。言われっぱなしでなんと情けない。式鬼一人、思うとおりに動かせないなど、きさま、それでも天人か?」
子どものような形をした珠翡は、腕を腰に当て、胸を突っ張り織風を責める。
「その程度の間柄なら、対の契約などさっさと解消してしまえ。そのために
場の空気がぴしっと凍りついた気がした。
「珠翡さま……。いま、なんと……?」
叱りつけていた相手から無邪気に質問を投げかけられた珠翡は、「こいつ、自分のお説教が響いていないんじゃないか」とむっとした顔をしつつも、律儀に質問に答える。
「だから、きさまのような能なし天人のために、対の契約解消の宝珠があるのだと言っている。翠藍さま自らその事実を明かしてくださることは決してないが、人並みの情報収集力があれば、教わらずとも自然とその存在にたどり着くものだ」
「あっ……」
まずい、とでも言うように、隣の頻羽がうめいてからあわてて口元を押さえた。
しーんとその場が静まり返る。だれもなにも言わず、珠翡に視線を注いでいる。
「なに? なんなの?」
どうやら自分は不用意な発言をしたらしく、それで皆の様子がおかしくなったのだと気づいた珠翡が、気味悪そうな顔をして全員を見渡す。
「対の契約は……永遠のものではなかったのですか……?」
織風はおそるおそる、言葉を絞り出す。
「契約を解除できる宝珠があるのですか……?」
織風は珠翡を見つめ、今度はすがるように頻羽を見つめる。
「頻羽さまも、知っていたのですか……?」
「……あのな、織風」
どう説明したらいいものかとためらいつつ、頻羽が口を開きかけたところで、鷲星が手で制した。
「織風にはなにも言うなと、俺が頻羽さんと剛毅さんを口止めしたんだ」
「それじゃあ……鷲星も知っていたのか……? まさか、あのとき……!」
織風ははっとして口元を覆う。李夫人の食堂で、鷲星に式鬼になったことを告げたあと、鷲星は頻羽と剛毅に声をかけ、三人はさきに店外に出た。きっとそのときに、契約解除の宝珠の件を織風にはだまっているように持ち掛けたのだろう。
「蓮花天には対の契約を解除する秘宝がある。でもおまえさんに教えちまったら、安易に俺を式鬼にしたことについて、ろくに反省もせずに解除しようとするだろ? だからしばらくだまっていようと思ったのさ」
ばれてしまったものは仕方がないと、手の内をさらして、鷲星は開きなおっている。
「鷲星殿が蓮花天の秘宝を知っていたことに、私もおどろいたのだが……。二人のことはまず二人に任せるべきかと思い、鷲星殿に協力してだまっていた。おどろかせてすまなかった、織風」
頻羽が心底申し訳なさそうに、織風を見つめて謝罪する。
対の契約は永遠のもの。天人か式鬼の、どちらか一方が死ななければ解除できないもの。
鷲星を式鬼にして、鷲星の一生を縛ってしまったことを、織風は激しく後悔していた。
あのとき、どうするのが正解だったのか。ただ鷲星が死ぬのを受け入れるしかなかったのか。相手が鷲星でなければどうしていたか。答えの出ない問いに、織風は頭を悩まされ続けた。
ところが鷲星はずっと知っていたのだ。どちらかが死ななくとも、対の契約を解消する方法はあると。知っていながら、織風に反省させるためにあえてだまっていた。なにも知らずに懊悩する織風を見ているのは、さぞや楽しかっただろう。
鷲星は、人の寿命が尽きるころに俺を殺せと言った。それで織風が、どれほど思い悩んだことか。
体が、怒りでわなわなと震えた。
なんて傲慢なのだろうと思った。なんて最低なのだろう、とも。
相手になんのことわりもなく、勝手に不老不死にする。行為そのものは、命をもてあそぶのに値する。だから織風が鷲星を式鬼にしたのは、倫理的には間違っていたのかもしれない。
それでも――。根底にあったのは、鷲星を大切に思う気持ちだ。鷲星を失いたくなかったからこそ織風は、とっさに対の契約を結んだのだ。それを反省しろなどと言われて、鷲星を真摯に思う気持ちごと間違っていると否定されたような気がする。気持ちがぐちゃぐちゃに乱れ、悲しくなった。
「……私が……どんな思いでいたと……」
呼吸が速くなり、涙が浮かんだ。鼻の奥がつーんと冷たくなる。
「私がしたことは……間違っていたかもしれない……。けど……、それでも……」
声が震えて上ずり、おかしな調子だ。でもいまは、自分のことを上手に制御できない。
「それでも式鬼にしたのはきみを、大切に思っていたからじゃないか!」
投げつけるように言葉を吐くと、必死にせき止めていた涙がぶわっとあふれてきた。
「鷲星に死んでほしくなかった……っ! 私は軽率だったかもしれないけど……。きみを大切に思う気持ちだけは……否定しないでくれ……っ!」
鷲星が大好きだったのに。
優しさを飄々とした態度で覆い隠して、織風が気を遣わなくてすむようにしてくれる優しさごと、織風は鷲星が好きだった。
千々に乱れた気持ちがもう、扱いきれない。織風は衝動的に、朝堂殿を飛び出していた。
「織風!」
背後から頻羽が呼び止める声にもかまわず、門扉から走り去った。
永盛城内を駆け抜けるうちに、朝堂殿から遠く離れ、どこだかわからない場所にたどり着いていた。大きな湖のほとりだ。城内に湖がある。天然の地形ではありえない。人工的に作られた湖なのだろう。
ここはどこだろう。迷ってしまったが、いざとなれば杼把を呼び出して上空から俯瞰すれば、城の出口がわかるはず。もういいやと気力が萎えて、織風は湖のほとりに座り込んだ。
さあっと風に髪がなぶられる。徐々に頭が冷えて、気分が落ち着いてきた。
鷲星にひどいことを言ってしまった。隠し事をして織風に反省をうながすなど、上から目線な鷲星のやり方が傲慢だと憤ったものの、深く考えないまま鷲星を式鬼にしたことについて、反省しなければいけないのは事実だ。それなのに逆上して、鷲星に対して怒りを爆発させてしまった。
戻って、鷲星に謝ろうか。決心がつかないままぼうっと座っていたところで、
「隣、いいかしら?」
ふいに声がして、織風の左隣に愛鸞帝が腰かけた。
「陛下……」
詔帝はお付きの者も伴わずに、一人だ。
「さきほどはまだ話がじゅうぶん飲み込めず、とっさに場を制することができなかったの。それであなたを傷つけてしまったようで申し訳なかったわ。それを謝りたくて」
織風に謝るために、たった一人であとを追いかけてきてくれたらしい。詔帝に気を遣わせてしまったと、織風は下を向いてひたすら恐縮した。
「珠翡のこと、どうか許してやってね。珠翡は、天人と式鬼の絆は絶対であるべきだと信じている天人だから。あなたと鷲星の仲が危ういのを見て、つい頭に血が昇ってしまったのでしょう」
織風は顔を上げて愛鸞帝を見つめた。
「ということは、きっと珠翡さまにも式鬼がいるのですよね。あの場にはいらっしゃらないようでしたが」
「樹雫よ。彼が珠翡の式鬼なのよ」
樹雫は珠翡の実兄であり、式鬼でもあるらしい。天人が式鬼となる前例を、織風は知らなかった。
「そうでしたか。天人が式鬼になることがあるのですね」
「そうね。あとにもさきにも、樹雫だけではないかしら?」
愛鸞帝も同意を示す。
「樹雫はね、過去に天人としてではなく人として生きることを選択したの。それで
「そうだったのですか」
珠翡はどうして、兄の樹雫を追いかけたのか。言われずとも、織風にはわかる気がした。
八年をかけて、珠翡は兄を探した。樹雫を追いかけ式鬼にしたのはきっと、人になってしまった兄と、寿命が離れるのが寂しかったからだ。そして兄は弟の思いを受け入れて、人間としての生をまっとうする道を捨てて式鬼となり、ひとつの命を分かち合う存在になった。
だれかを大切に思うあまり、永遠の命を分かつ式鬼にする。ひょっとしたら珠翡にも、樹雫を式鬼にすることの葛藤があったのかもしれない。
「陛下。私は……ずっと考えていたのです」
愛鸞帝のおだやかな態度は不思議と、人に口を開かせてしまう力がある。織風は着物の袖をもみながら、おずおずと切り出した。
「頻羽さまに問われました。もし相手が鷲星でなかったとしても、私は対の契約を結んだのかと」
織風の視界の端で、風に吹かれた湖がさざ波を立てた。
「考えて、考えて。――でも、何度考えても答えは同じなのです。私はたぶん、相手がだれでも式鬼にしたと思います」
ずっと胸に溜まっていた澱を、織風はため息に混ぜて吐き出した。
頻羽の問いに、答えが出ないことで悩んでいたのではない。考えるうちに答えにはたどり着いた。でもその答えは織風の望むものではなかった。鷲星にとっても同じく受け入れがたいものだろうと思い、それで悩んでいた。
「六面との戦いで鷲星は私をかばい、命を落としかけました。だから私は鷲星を式鬼に変えたのです。鷲星が大切だったから。死んでほしくないと思ったから。でも、相手が鷲星だったから特別にそうしたわけではない。相手がだれでも私は、自分のせいでだれかの命が失われることに耐えられないのです」
愛鸞帝から慈愛に満ちた視線が注がれるのを、織風は頬で受け止める。たとえあいづちがなくとも、愛鸞帝が真摯に話を受け止めてくれていることが、よくわかる。
「鷲星はずっと私に優しくしてくれて、私を守ってくれたのに。私は鷲星のことが好きなのに。鷲星だけが特別だと言ってやれないことに、ものすごく罪悪感があったのです。それは私を思ってくれる鷲星に対して、あまりにも白状ではないかと。そして、鷲星を好きな私の気持ちは、その程度のものだったのかと落胆もしたのです」
不思議だな、と思った。織風の悩みはなにも解決していないのに、ずっと苦しかった胸中を吐き出すと、すこしだけ心が軽くなった。
「織風、あなた、いくつ?」
「……六十歳です」
話の流れをぶった切る質問を差し挟まれ、織風はきょとんとして答えた。
「六十か。わたくしとそう、変わらないのね」
愛鸞帝は顎先を天に突き出すようにして、突如として大笑いをはじめた。笑い茸でも食べたかのような、長い哄笑だった。
「陛下?」
「ごめんなさい。あなたたち天人は、本当にかわいらしいと思ったらつい、笑いが止まらなくなってしまった」
なにが愛鸞帝の笑いのツボに刺さったのかわからず、織風は、戻しても、戻しても巣からこぼれる子兎をひたすら巣箱に戻す作業を繰り返す飼育係のような、途方に暮れた顔をした。
「天人は長く蓮花天だけで生き、地上のお役目を見つけるころにはじめて人と交わる。そして人と交わることのあたたかさや、惑いを知って翻弄される。一丁前に年は食っているのに、その反応はまるで生まれたての赤子のような初々しさね」
「はあ」
愛鸞帝の言わんとしていることを、織風は必死に汲み取ろうとした。
「自分は鷲星に対して白状なのではないか、と言ったわね。その答えは、もうとっくに出ているではないの」
愛鸞帝は老いてなお皮膚がきりりとしたまぶたの奥の、思慮深げな瞳で織風を見つめる。
「あなたにとって、鷲星は特別な人よ。鷲星に好意を抱いている。だから鷲星に対して不誠実なことなど、なにもないわ」
「どうして……そう言い切れるのでしょうか」
愚問だ、とでも言うように、愛鸞帝は大げさに肩をすくめる。
「だって鷲星がどうでもいい人だったら、あなたこんなに悩まないじゃない。それに、あんなに怒らない。せいぜい、『うっかり対の契約を結んでしまったが、仕方がない。まあせいぜい、人の寿命ぶんくらいは生かしておいてやるか』と、五、六十年をやり過ごすだけよ。五十年は天人にとってもまあまあ長いけれど、人間に比べればたいしたことはないわ」
「陛下、それはいささか乱暴なお考えなのでは……」
ものすごく割り切った考え方をするお人なのだとおどろく一方で、これが決断力に優れた王たる人なのだな、と妙に納得する。
「目のまえで死にかけている人を救いたいという思いと、だれかを特別に思う気持ちはまったくの別物よ。だれかが死にそうになっていたら助けたいと思うのが当然の心理だし、相手への好意によって命の軽重をつけるのは間違っているわ」
愛鸞帝に諭されて、胸のつかえがすっと取れた。
たしかにそうだ。目のまえで死にそうな人がいれば、助けたいと思うのが当然だ。その人が織風にとって初対面の人だろうが、どれほど特別な人だろうが、関係ない。
命は等しく、尊いものだからだ。
「あなたにとって、鷲星はどんな人?」
「どんな……」
出会ってからこれまでにあった出来事を思い出す。
「鷲星は……。地上ではじめてできた、私の友人です。私がはじめて地上に降りたのは、半年ほどまえのことだったでしょうか。人さらいに連れ去られそうになった私を助けてくれたのが、出会ったきっかけで」
誘拐されそうになったなどと吐露するのはやや気まずく、織風は恥ずかしそうにほほえんだ。
「私は粗忽者だから。地上の貨幣の数え方がわからず、一人では買い物も満足にできなくて、つい先日は穂楽で迷子になりました。そんな私を、鷲星はいつも助けてくれたのです」
「鷲星が好き?」
愛鸞帝は、織風の反応を試すように唇を三日月型にゆがめて笑い、上目遣いに顔をのぞき込んでいる。
「……それは、もちろん好きです」
「なるほど。では、鷲星はあなたのことをどう思っているの?」
織風は湖を見つめ、しばし回答に迷った。
「わかりません。私は、鷲星のことがわからなくなってしまったのです」
織風はうつむき、頬にかぶさってきた黒髪を手でそっと梳いて顔から払った。
「鷲星は、私と過ごすのは楽しいと思ってくれていたようです。でも、式鬼になってからはずっと怒っていて、どうして怒っているのかちゃんとした理由は教えてくれない。先日ようやく本音を教えてくれた気がするのですが、私が彼を愛していないから怒っているのだと、謎かけのようなことを言うのです」
織風は手で芝をいじくった。艶々とした濃い緑で、粘り気のある芝が手に絡んでくる感触に、わけもなく癒やされる。
「私には愛のなんたるかがわかりません。人とは違い、天人はだれかを愛し、愛されることもないから」
「そうかしら? わたくしのまわりにいる天人たちはみな、愛にあふれているけれど。頻羽と剛毅しかり。珠翡と樹雫しかり」
愛鸞帝はわざととぼけたような声色を使い、首をかしげる。
「陛下は、愛とはどういうものだと思いますか?」
「そうねえ」
愛鸞帝はあごに手をやり、考える。
「正直、難しい。愛には、いろいろな形がある。恋人同士の愛。家族の愛。臣下から詔帝への愛もあれば、その逆もまたしかり。一概にこういうものだとは言えないけれど、出発点は相手を思いやる気持ちではないかしら? だれかを特別に思う気持ち。好きな気持ちが大きく育つと、愛になる」
かんざしがゆるんだのが気になったのか、愛鸞帝は手でうなじ近くの一本をぐい、と髪のなかに押しやる。半月形の飾り部分にほどこされた透かし彫りの見事さが目を引く一品だった。
「十五歳で詔帝となってから、わたくしは数多くの選択をしてきました」
まだ織風よりもだいぶ年若いころに、愛鸞帝は大国の王となったのだ。平然と語っているが、王となることに一体、どれほどの葛藤と覚悟があったのだろうか。
「たいていのことは結果が予測できたけれど、どう転がるかわからないこともたくさんあった。その経験からわたくしは、人間にできるのはせいぜい最善を尽くして選ぶことと、おのれの選んだ道が正解になるように全力を尽くすことだけだと知ったのです。自分の選ぶ道がより多くの人の助けになるかどうかという判断軸を、常におのれの指針として掲げながらね。それでどうにかこの年までやってこられた。頻羽にも多く助けられたわ」
「陛下はご立派です」
織風はうなずく。
「私は、穂楽の都をこの目で見ました。きれいに整備されて、食べ物がおいしくて、人々が生き生きとしていた。飢えや疫病とは無縁の世界だった。陛下の治世だからこその平和です」
「うん、ありがとう。そのわりに妖魔が跋扈してしまって、詔帝としての資質を疑いかけているけれど」
「いえ、それは……」
愛鸞帝の目が、好奇心旺盛な少女のようにくるくる動く。それで織風は、冗談を口にしたのだとわかった。
「言いたかったのはね、なにが正しい選択なのかは、あとから振り返ってみてはじめて決まることもあるということよ。あなたは鷲星を大切に思っている。だから式鬼にした。式鬼に変えたあとで、その選択が間違っていたのではないかと悩んでいる」
織風はうつむいた。
「でもまだ、あなたがどれほど鷲星を思っているのか、彼に直接伝えていない。伝えないままでは、あなたがどれほど彼を思っているのか、相手にはわからないわ。二人の思いがすれ違ったままでは、鷲星を式鬼にしたのが誤ちだったなんて、だれにも決める権利はない。まだ正解が決まっていないのなら、努力してみることはできるのではないかしら?」
愛鸞帝の言葉に心を打たれた織風は芝生に手を突くと、頭を下げた。愛鸞帝は、「やだ。礼は不要よ」と笑っていたが、織風はしばらく額を手の甲につけたまま感謝を捧げた。
まだ遅くはない。鷲星と仲直りができるのだと、勇気づけてくれている。一国の詔帝が織風の悩みに寄り添い、進むべき道を光で照らしてくれた。その慈悲にひたすら感謝した。
「鷲星と話をしてみます。私は仲違いをして、式鬼にしたことを後悔したまま、終わりたくはないから」
「そうなさい。ああ、ほら。ちょうどいいところに」
振り返り、愛鸞帝が指で示したさきを見る。ばつの悪そうな顔をした鷲星が立って、二人の様子をうかがっていた。
「では、邪魔者は消えるとしましょうか。わたくしが行きさきも告げずに消えたので、いまごろ朝廷でちょっとした騒ぎになっている気がするわ」
愛鸞帝は黄金の龍が刺繍された着物の裾を引きずりながら、湖とは反対方面へと歩み去った。
「鷲星……」
織風は立ち上がり、鷲星を出迎えた。
「あー……。その、悪かったよ」
鷲星は後頭部にまわした片手で髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、気まずそうに謝罪を切り出す。
「おまえさんを試すような真似なんかすべきじゃなかった。本当に、傷つけてすまなかった」
鷲星は真顔で頭を下げた。いつもの皮肉げな笑みはなく、心から申し訳なさそうな顔をしていた
「それから、さっきは怒鳴って悪かった。つい頭に血が昇った」
「……」
朝堂殿で口論になったとき、鷲星は面憎い相手に唾棄するように言葉を吐いたこともまた謝罪した。
「昔、ある人が自分の身をなげうって、俺を助けてくれたことがあったんだ。でも俺は、その人のことがなによりも大切だった。俺はその人に、俺なんかのために自分を犠牲にしてほしくなかった。だから自分を犠牲にするのはいやなんだ」
鷲星は唇を噛んだ。
「おまえさんはいつも、人の世のためになにができるか一生懸命探していた。だから対の契約を結んででも俺の命を助けることくらい、たいしたことじゃないって思うんだろうけど。でも俺は、俺を助けるためにおまえさんが契約に縛られることになったのが耐えられなかった。だからその……。事の重大さを思い知れって、どこか意地の悪い気持ちになっていたんだ」
鷲星は申し訳なさから、いまにも泣き出しそうな顔をしている。鷲星が謝ってくれた安堵と、彼を落ち込ませてしまったことの悲しさで、織風の大きな瞳に、じわりと涙が溜まっていく。
「俺の目の届く範囲にいてくれるなら、守ってやれる。けど、俺の見ていないところでいつまた、なにが起こるかわからない。だから自分のしたことの重大さを知って欲しくて、宝珠のことをだまって反応を試すような真似をしたんだ。織風はなにも悪くないのに。ただ俺の不安を解消するための、最低なやり方だった」
「鷲星」
織風は首を振る。
「鷲星は最低なんかじゃない。鷲星はいつも、いつも、私を思ってくれていたのだ」
織風が地上に降りると、毎度のように手を貸してくれた。身を挺して六面からかばってくれた。対の契約を解除する宝珠のことをあえてだまっていた。そして妖魔討伐には協力しないと、愛鸞帝の頼みをはねのけた。
鷲星の行動はいつも一貫していた。すべては織風を守ってやりたいという、思いやりの気持ちに裏打ちされたものだったのだ。
「宝珠のことをわざとだまっていたのだと知ったときは、悲しかったけれど……。いまはもう悲しくない。鷲星が私を大切に思ってくれていたとわかって安心したから、もういいのだ」
織風を傷つけてしまったと、自責の念に苛まれているらしい。鷲星がまだ沈んだ顔をしているのをなんとかしてやりたくて、織風は一歩まえに進み出て、両手で鷲星の手を包み込んだ。
「私も、鷲星に申し訳なく思っていたことがある。もしあのとき、死にかけていたのが鷲星でなくとも、私は式鬼にしてしまったのかどうか、頻羽さまに問われた。どれほど考えても答えは一緒だった。――鷲星でなくとも、式鬼にしていた」
まだ話の途中だが、こんなことを聞いて鷲星ががっかりしないだろうか……と反応をうかがいつつ、織風は言葉を継ぐ。
「自分のせいで目のまえのだれかが死にかけていたら、当然そうする。私は相手への好意によって、命の重みを変えたくはない。だからといって、鷲星のことを特別に思っていないわけではないのだ」
いましがたの、愛鸞帝との会話を振り返る。
「私は、鷲星だったから式鬼に変えたのだと断言できないことで、きみに申し訳なく思っていた。きみに対して不誠実ではないかと思い悩んだ。きみを特別だと言い切れないのは、私に優しくしてくれたきみへの裏切りではないかと」
織風ははじかれるようにして鷲星の顔を振り仰いだ。
「でも、陛下に諭されてようやくわかったのだ。命の重さときみに対する好意は、同じ秤に乗せて語ってはいけない事柄だと。そんなことにも気づかなかった私は、何度考えても答えが同じことに悩みに悩んだ。きみが特別だからこそ、思い悩んだのだ」
鷲星がほのかに口を開き、ふと詰めていた息を吐いた。
「鷲星、私は優しいきみが好きになった。私が気負わなくていいように、あえてその優しさに気づかせないような態度を取るところも好きなのだ。好きだからこそ、きみだったから対の契約を結んだと言えないことで思い悩んだ。好きだからこそ、式鬼に変えてしまったことを後悔した。……私の好意が、きみの望む愛なのかはわからない。でも、いずれこの気持ちがきみの欲する愛になるのならば、大切に守っていきたいのだ。そのためにこれからも、きみと一緒にいたいと思う。その、きみさえよければ、だが」
鷲星は笑った。いつも浮かべている皮肉げな笑みでも、織風をおびえさせた真意のわからない酷薄な笑みでもない。元の美丈夫ぶりが鮮烈に引き立つ、とろけそうに甘い笑みだった。
「俺を見つけてくれて……ありがとう」
「見つける……?」
発言に脈絡がない気がして、織風は首をかしげる。話の流れからするとたぶん、織風が地上に降りて鷲星と出会ってくれたことに、感謝しているのだと思った。
「むしろ見つけてもらったのは私のほうだ。きみは人買いから私を助けてくれた。私のほうこそ、見つけてくれてありがとう」
「そういう意味に受け取ったか」
鷲星は面白そうにうなずく。
「まあ、二人の運命が交差したことを指すなら、同じことか」
「鷲星?」
なんだか発言が謎めいている。織風が煙に巻かれていることに気がつきつつも、鷲星はそれ以上、真意を補足することはしなかった。代わりに照れくさそうに鼻の下をこすり、織風が伝えた好意に対する返答をくれた。
「織風。俺も、おまえが好きだ」
好意を伝えた人から、同じように好意が返ってくることの幸福感で、織風は頬をゆるめた。
「おまえさんはいつも、だれかのために役に立ちたいと願っている。おまえさんの助けを必要としている人がいれば、すぐに立ち上がる。李おばさんの店であのあやしい術士に声を上げていたおまえさんを見て、そう確信した。だから俺は……おまえさんのことが変わらず、好きだと思った」
まるで織風がはじめて穂楽に降り立つ以前から、織風のことを知っていたような口ぶりだ。
「魄は記憶。魂はそいつの本質だ。人の本質は、なかなか変わらない。だから織風、約束してくれ。もうだれかを助けるために、自分の命をなげうつような真似はしないと」
「……ああ、約束する」
織風はしっかりとうなずいた。
「鷲星も、自分を盾にしてまで六面から私を助けてくれた。私は鷲星が大事だから、きみが死にかけて悲しかった。きみには同じ思いをしてほしくない。私はもう、自分を犠牲にするようなことはしないよ。決して鷲星を悲しませない」
鷲星は「なら、よし」と満足そうに笑った。
自分をすり減らしてまで、お役目探しに一生懸命にならなくてもいい。それは鷲星を悲しませてしまうことだから。好きな人が傷つくのは、悲しい。だから織風は、鷲星を悲しませるようなことはもうしない。
心からほっとした。織風ははじめて、ずっと背負ってきた肩の荷が下りた心地がした。もうお役目探しのためにあせる必要はないのだ。それよりももっと、大切にすべきことがある。そう気づいてから、自分には魄がないのだと知って以来、背負ってきた重圧がふっとなくなったのだ。
これからゆっくりと探せばいい。大切な鷲星を傷つけることなく、自分自身が心から人の世に尽くしたいと思えるようなお役目を。対の契約で永遠の命を得たことに甘えるつもりはないけれど、契約の解消さえしなければ時間は無限にある。契約によりせっかく時間を与えてもらえたのだ。自分の心とじっくりと向き合って、どのようにして地上の人々の役に立ちたいのか、納得する答えを出していきたい。
「ええと、じゃあ。対の契約は続行で、それから俺の伴侶になってくれるってことでいいんだよな?」
伴侶という言葉に、織風は首をかしげる。
「伴侶とは、夫婦ということだろうか?」
「まあ、そう言い換えてくれてもいいな」
織風の顔が真っ赤に染まった。
「鷲星は……恋人のように愛してほしいのだろうか?」
「友愛に家族愛も悪くない。けど、できればそうしてもらえたら嬉しいな」
ふいに鷲星がかがみ、織風に顔を近づけた。
「この気持ちが愛になるまで待ちたいと言ったな。なら、ときめきを感じるかどうかが大事な一歩だ。どうだ? 俺に近づいて、どきどきするか?」
鷲星は愛おしさを込めて、織風の顔をのぞき込む。
鷲星はずるい、と思った。皮肉げな笑みを消してほのかに口元をゆるめると、三千の美女が骨抜きにされる色男の顔になる。誘惑するような顔で見つめられると、心臓が高鳴り、そわそわする。でも決して、いやな気分ではない。
「いまはわからなくても、いいさ」
鷲星は近づけていた顔を離した。
「ゆっくり時間をかけて、俺を愛してくれ。なにせ、時間はたくさんあるんだから」
織風ははにかむと、首を小さく縦に振り、うなずいた。
友情を超えて、鷲星に恋をしている。そうはっきり自覚した。でもまだ、とっかかりをつかんだだけだ。
このあたたかな気持ちが、恋なのだ。だれかに恋する気持ちをかみしめて、じっくりと時間をかけて、理解したかった。そしていつか鷲星が望むように、彼を愛してあげたいと思った。
「戻るか。頻羽さんが心配してたぞ」
「そうだな。申し訳ない気分にさせてしまっただろうから、早く謝らなければ」
鷲星は朝堂殿への戻り道がきっちりわかっているらしい。迷いなく方向転換する。鷲星にうながされて歩き出したところで、
「あっ!」
なにもないところで織風はつまづき、転んだ。
「大丈夫か?」
差し伸べられる鷲星の手を取る。
「粗忽な天人さんよ。またこけると危ないから、手をつないでやろう」
「ああ、そうしてくれ……」
転んでしまったことが恥ずかしく、織風はふふ、と笑う。鷲星と手をつなぎ、歩き出す。大きな手で包まれて、握られた手があたたかくなった。
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