とりあえず嫁探し
さくらみお
第1話
そのまま座敷へと上がり、五作の前に座ると、与平はあからさまに大きな溜め息をついた。
「なんでえ与平、大きな溜め息吐きやがって。辛気臭えな」
「まーた、おっ母の『よめよめ病』が始まってさ」
「『よめよめ病』?……ああ、お前のおっ母、病気で目が見えねえからなぁ。でえ? 何を読めって? お前が隠し持っている春画かい?」
「そっちの読めじゃねえ。嫁っこの方の嫁だ」
「ああ、嫁っこの。『嫁嫁病』って訳か」
「そうだ。俺ももうすぐ三十だろ? なのに「嫁の一人も来やしない、嫁を連れて来い、嫁を連れて来い」って毎朝、毎昼、毎晩、呪いの様に言いやがる」
「へえー、そんなに嫁嫁言っているのかい! お前のおっ母はよっぽど嫁が好きなんだなあ! でえ? お前のおっ母は嫁が何人欲しいんだい?」
「とりあえず、一人で良いと思う」
「へえ、そんなに言っといて、たった一人で良いのかい!」
「ああ、そんなに言っといて、たった一人で良いんだと。俺もあのうるさい嫁嫁攻撃が収まるなら、たった一人で良いから欲しい」
「じゃあ簡単だ。俺に心当たりがある」
「なんだと? どこの誰だ?」
「おっ母の口うるさい攻撃が止まれば良いんだろう?」
「ああ、とりあえず、止まればいい」
「とりあえず、俺を嫁にしろ」
「………………お前、天才か?」
「ああ、都合が良いことに、お前のおっ母は目が見えねえ。俺だとバレないだろう」
「よし、善は急げだ。とりあえず、おっ母にお前を会わせたい」
「良し来た! とりあえず、会ってみよう」
二人は村はずれにある与平の家に向かった。
「おっ母、ただいま~!」
「おかえり与平。嫁は来たかい?」
「おっ母、待たせたな。ついに嫁が来たぞ!」
「初めまして、嫁です」
「おおおお! 嫁が、正真正銘の嫁が来たああ! 与平、でかしたぞ!!」
おっ母はサムズアップして二人を祝福した。
「ささ、二人とも、こっち来い。祝いの餅と酒を用意するからな!」
与平と五作は
「それで与作や、嫁の名前はなんて言うんだい?」
「ご……とりあえず、ツウだ」
「とりあえずツウ?」
「ああ、とりあえずツウだ」
「とりあえずツウです」
「変わった名前だな。おれは目が見えねえ。とりあえずツウは、背丈はどんくらいだ?」
「六尺(約180㎝)です」
「ろ、六尺!? こりゃあ、おったまげたあ~!」
おっ母は両手を挙げて驚いた。
「芸能人に例えれば、どんな顔か?」
「とりあえず……梅◯辰夫かな」
「とりあえず、辰夫です」
「へええ! 漬け物が美味そうな嫁が来たもんだ!……で、祝言はいつ行う? 明日か? それとも明日か?」
「とりあえず、明日で」
「そうか、祝言の後には、ハネムーンにも行くのか?」
「とりあえず、熱海に」
「そうか、熱海では子ども何人こさえるんだ?」
「とりあえず、努力義務で」
「そうか、そうか、そうか! 良かった、良かった! ほら、酒を飲め。餅も食え。餅を食って、丈夫な体にならねえと、子どもも産めねえからな!」
「おっ母、とりあえずツウのボディは俺よりも頑強だ」
「とりあえず、ムキムキのマッチョです」
「そうか、そうか! とりあえず、ムキムキマッチョか! 果てしなく強そうだ。これで我が家も安泰だ!!」
「とりあえず、安泰だ!!」
「とりあえず、安泰です」
――こうして、とりあえず嫁を貰った与平。
とりあえず、嫁になった五作。
とりあえず、嫁が来て喜ぶおっ母。
とりあえず、全員幸せです。
とりあえず嫁探し さくらみお @Yukimidaihuku
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