幼なじみの親友からの手紙
どこかのサトウ
幼なじみの親友からの手紙
もうすぐ午後の授業が始まる。教科書を取り出そうとしたら机の中から何かが落ちた。
「手紙?」
折り畳まれたルーズリーフを広げてみる。差出人の名前は書かれていないけれども幼なじみだとすぐに分かった。
私の親友から手紙を預かったわ
同じクラスで幼なじみの私から渡して欲しいとのことよ
こういうのは直接渡すべきだと私は言ったんだけれど
私から貴方に直接渡して欲しいんだって
正直貴方が私より早く、異性と付き合うことが気に食わないの
だから私は貴方に意地悪をすることにしました
放課後、図書室に来てください
幼なじみの顔色を伺う。普段と同じようにクラス内で振る舞ってはいるが、視線を感じたのかこちらを見て、不機嫌ですと言わんばかりに顔を背けられた。
放課後、手紙に書かれていた通りに図書室へと向かった。
そこには誰もいなかった。どうやら一番乗りだったようで、少し遅れて幼なじみがやってきた。
「早すぎ! そんなに気になるの!?」
「そりゃ、気になるに決まってるだろ。なんでお前が怒ってるんだよ」
「……準備するから、向こう行ってて」
俺は追いやられた。
「準備ができたわ」
彼女が立っている場所には封筒と小型の金庫が置かれていた。
3桁の数字を合わせれば鍵が開くようだ。
「封筒の中身を確認しても良いか?」
「どうぞ」
中に入っていた紙には5つの文字が鉛筆で書かれていた。
「『ト』、『り』、『あ』、『え』、『ず』、トりあえず……」
彼女は悪戯が成功したと意味深に笑う。
「どう、この謎が解けるかしら探偵さん?」
正直に言えば、解けると思う。
文字から数字を導き出すなら、あいうえお表と相場は決まっている。行と列の数値化すると『あ』なら一行一列にある11。同じく『え』なら41。『り』も同じ考えで29で良いだろう。
だがここで壁にぶち当たった。
カタカナの『ト』と『ず』はどう考えるかだ。『と』は54で、『す』は33だ。
ひとまず、全ての数字を足して計算し168と入力する。
結果はハズレ。
「ヒントはいるかしら?」
「もう少し考えるよ」
「そう来なくっちゃ!」
今日初めて彼女が笑った気がした。
もしかしてカタカナは数字の位をひっくり返して、濁点は引くのではないだろうか。手直しした数字がこれだ。
『ト』=45
『り』=29
『あ』=11
『え』=41
『ず』=33
『ず』の33を引くと、合計は93。だがこの数字でも金庫は開かなかった。
「これも違うのか?」
彼女は何も答えない。”トりあえず”の五文字が書かれた紙をじっと眺める。そしてあることに気がついた。
「もしかしてこの『り』って、カタカナの『リ』なのか?」
その一言に、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「ご、ごめん……ごめん。私、最低だ」
「おい!」
教室を出ていく彼女を見て、これはただ事ではないと追いかけた。
運動が得意という奴ではないので、すぐに追いつくことができた。
彼女は涙を拭って無理に笑った。
「購買、行こっか……迷惑かけちゃったし、私が奢るね」
彼女がお金を入れて自販機のボタンを押した。がちゃんと落ちたそれを手渡された。俺がいつも飲んでいるおしるこだった。
「親友と仲良くね……」
「あの金庫に入っているのはラブレターってことか?」
「うん。あんな良い子いないよ? 可愛いし、性格も良し。私なら付き合っていっぱい愛でる。手をつないで、抱きしめて、いっぱいキスをする!」
「ふーん。でもお前らって類友じゃね?」
「何、私を口説いてるの?」
ケラケラと笑っているけど、ただの空笑いだ。幼稚園からずっと付き合いのある幼なじみだ。それくらい分かる。
「お前も同じくらい可愛いし性格も悪くないだろ。なら、先に付き合うか?」
「それはちょっと、ずるい気がする」
「告白は直接するべきなんだろ? 大切なことを人任せにするのは良くない。それに今、俺はお前を愛しいと思っている」
「……そ、そっか。じゃぁとりあえず、私たちは今、恋仲と、いうことで……?」
「おう」
「そっか……恋仲か」
「おう、手をつないで、抱きしめて、いっぱいキスをするんだっけ?」
「——○ね!」
グーパンで殴られた。可愛い。
誰もいない夕暮れの購買で、自然と俺たちは惹かれ合うように指を絡めると、身を寄せ合ってキスをした。
図書室に戻る道中、二人の距離が恥ずかしさで比例していた。
図書室に戻れば、二人の距離は時間と共に反比例していく。
椅子に座った彼女は鉛筆を手に取った。前に流れてしまった髪を耳にかけ上げると、紙に解答を書き始めた。
『ト』=5行4列の「と」を逆転して45
『リ』=2行9列の「り」を逆転して92
『あ』=1行1列で11
『え』=4行1列で41
『ず』=3行3列の「す」濁点があるため、33を引く
暗号の解は、45+92+11+41−33=156
彼女は『156』と番号を合わせて金庫を開けた。
「……はい」
親友を裏切ったという、後ろめたい気持ちが優っているのだろう。元気が無い。
「確かに、見た感じラブレターだな……」
可愛らしい封筒にハートのシールが貼られていた。差出人には彼女の親友の名前が書かれている。
封を開けて手触りの良い便箋を取り出す。綺麗な字で力強く、デカデカと走り書きされていた。最後は力が入りすぎたのか、鉛筆の芯の折れたあとが残っている。
『もう付き合っちゃえよ!』
幼なじみの親友からの手紙 どこかのサトウ @sahiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます