第3話セックスするのは

なおみはほとんど声を出さない子だった。恥ずかしいのか なおみが喘ぎ声のようなものを出すのは聞いたことがない。一度だけ 気持ちいいと言ったことがあった。それだけだった。その後は一度も何も聞いたことがなかった。なおみはセックスには興味がないのかなぁ。だけど会うだけで 何日もホテルに行かずに帰すと、なおみは不満を漏らした。

「なんで何もしないの?」

「会うたびにしてたら躰が目当てなのかなと思われると嫌だなと思って。」

「そのつもりで来てるんだからちゃんとしてよ。」

よくわからなかった。

正直 セックスするのはそんなに楽しいものでも、いいものでもないと思っていた。結婚したら義務的なものになるのもよくわかった。

付き合い始めた頃は会うだけで楽しかった。なのに 今はどうだ 完全にマンネリだ。セックスなんてこんなもんさ始めがいいだけで慣れちゃったらもう何でもなくなる。連れて歩けば街ゆく人が振り返るほど可愛い娘が相手でもそうだ。

どんなに可愛い子や綺麗な子が相手でも同じことだろう。恋愛はすぐに終わってしまう。そして お互いに 次の相手を探すことになる。おそらくその繰り返しだろう。人間ってしょうがないものだ。


恋をして 夢中になっているか 恋に飽きて 次を探しているかどっちかしかないのだろうか。

一度驚いたことがあった。ベッドに腹ばいに寝ていた なおみがお尻のあたりまでベタベタに濡れていた。

「どうしたのなおちゃん。」

なおみは少し笑いながら

「あなたがいけないのよ。」 と言った。

なおみはどうやら久しぶりのバックが気持ちよかったらしい。なおみがあそこまで濡らしたのはあの 一度だけだった。

楽しいこともあった。なおみは可愛い顔をしていたので 何を着てもよく似合った。特に似合っていたのはお気に入りのツイード風の生地で作ったジャケットだった。

そのジャケットを着るとなおみはちょっとしたドラマに出ているアイドルみたいに見えた。

品があって可愛らしい ちょっとした 売れっ子アイドル。

雑誌のグラビア写真にあってもおかしくない感じだった。

なおみは照れ屋で笑ったりするのも苦手な方だった。可愛い顔してるのに、それをうまく使えていないかんじだった。

帽子もよく似合った。女優なんかがよくかぶるヘリの広い大きな帽子ではなくて、ヘリの小さなおしゃれな帽子がよく似合っていた。その帽子をかぶるとなおみはより一層 垢抜けて凛々しく見えた。なおみはいつも大きくくっきりした二重でまつ毛も長く、いつ見てもしっかりメイクしたばかりのようなそんな目だった。それがなおみの目だった。二重でくっきりしていた 目が 寝起きの ぼんやりした 一重になってしまったり腫れぼったく見えたことなど一度もなかった。

いつのまにか 助手席で眠っていたなおみが起き上がった時 僕は驚いた。いつもくっきりした二重だとばかり思っていた 直美の目が 半ばひとえになりかけていた。別人に見えた。そんな目をしたなおみを見るのは初めてだった。だが左右の目が非対称になった半ば一重のなおみは返って色っぽく 艶めかしく見えた。


「なおみちゃん、片方が一重になっているよ。」


「ごめん。今ちょっと寝ちゃったからよ。」

なおみは何でもない事のようにそういった。

「なおちゃん左目が二重じゃないよ。」

「そうだよ。寝起きだからよ。」

僕はめちゃくちゃ 驚いた。なおみはいつだってパッチリとした目をしてるとばっかり思っていた。

そうじゃない時もあるんだ。なおみはいつだって くっきりとした二重だとばかり思っていた。

「知らなかった?」

「何言ってんだか。」

なおみは半ば 呆れたようにそう言った。

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