第2話朝食のブルーベリー

朝食に出たブルーベリーはよく冷えていてすごく甘かった。

「朝どれのブルーベリーです。」

Yは朝が苦手なので ぼんやりとしていた。頭を下げて軽く会釈をしたと思ったけれどよく覚えていなかった。なおみは旅慣れているのか、パールグレーのスウェット をうまく着こなしていた。なおみはお洒落ではなかったけれど、お値打ちに買った服を上手に着こなしていた。いつもそつがないと言うか、目立たないけれど 嫌味がなくて似合っていた。おしゃれにはすごく興味がある年頃なのに、お金をかけずにうまく着こなしている。

きっと 頭がいいんだろう。なおみは何をするにもそつがなかった。どんなことでもうまくやっていけるだけの器用さがあった。これはなおみが持って生まれた才能なのかもしれない。なおみがすることは、全て大げさでなくそつがなく気が利いていた。きっと職場でもそうなんだろう。直美のように若くて気が利いていて仕事もできる子はどこの職場へ行っても重宝されるだろう。特に 資格や経験がなくても若いというだけで 大事にされるし、就職のできる職場も多いんだろう。そして何年かするうちに結婚をしたりしてその職場からいなくなって、職場の循環と言うか社会の循環と言うか に役立っているんだろう。そういう人間をこの国の社会は必要としているんだ。若い子が必要なのは 何も時間をかけて育てるため ばかりではない。ただ若いというだけで世の中が必要としている部分がある。



朝食にはいつも ブルーベリーがいいね。

美味しかったね。目にもいいって言う しね。

僕たちは お土産にブルーベリーを買おうと思って店に出かけた。ブルーベリーはだいたい の店で売っていた。小さな瓶に入ったジャムでそれなりに高かった。ブルーベリーは夏の高原 ならどこででも売っている感じだった。はちみつはブルーベリーよりもっと高かった。土産物屋 だから かもしれない。はちみつもブルーベリー もお土産として買うのはやめにした。いつもと同じ蕎麦にしようと思った。信州に旅行してそばを土産に買う。実に何でもなくてよかった。

信州に来ても何も買いたいものはなかった。この風景と空気と水と白樺と何一つ持って帰ることはできなかった。お土産はもらったら それなりに 嬉しいけれどそれ以上のものではなかった。


「私 お土産 なんか買わなくていいと思ってる。」

「そうだね お土産 なんか買わなくていいよ。」

よく晴れた夏の1日のこの美しさ を、どうやっても持ち帰ることはできなかった。

日差しはどこまでも 透明で透き通っていた。よく晴れた夏の 日でなければお目にかかることはできない 1日だった。隣にいるのがなおみであることはもちろん 幸運であることには違いなかった。だがそれ以上でもそれ以下でもない、そんなものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る