金色の瞳

あやかね

本文

 トリあえず猫をえます。と師匠が言うのでたいへん驚いた。


「鳥和えないんですか!? もう混ぜちゃいましたよ!?」


 大鍋の中で緑色のスープがグツグツと煮立っている。これが完成間近である事は言うまでも無いだろう。私は師匠に教わりながら新しい魔法薬の調合に挑戦しているところだった。


 なんでも空を飛ぶ秘薬を作るとのことだ。


 師匠は長い爪でとんとん叩いて呆れたように言った。


「バカだなぁ。魔術書の163ページ。ここ。鳥を和えると別の魔法薬になってしまうから」


「あうぅ……ごめんなさい」


「まあいいよ。魔女見習いが飛翔薬に挑戦するというだけで偉業なんだから。私たちの言語は人間には判別しがたいと聞くし」


「……私、そんなにすごくないです」


「すごいんだよ。その目。金色の目はたぐいまれなる天才の証だからね」


 と師匠は言って、私の目を見つめてきた。師匠の目はとても綺麗な金色の目。私はいつも恥ずかしくなって顔をそらしてしまう。


「人類史に残る限りで金色の目を持った魔法使いはたったの2人らしいよ。いまもその名を語られる大魔法使いマーリンと、この私。やったね、君も私に師事すれば偉大な魔法使いになれるよ」


 私にはよく分からないのだけれど、目の色が魔女の才能を表しているらしい。黒が人間。青が一般的な魔女。赤だと国に仕えたりするらしくって、金色は歴史に名を遺すくらいすごいらしい。「じゃあ、私も厄介者ってことですかぁ?」


 師匠もマーリンさんも、稀代のいたずら好きとして有名であった。


「だったら君は世のため人のためにつまらない善行を為すと良い。……まぁ、ホムンクルスの脳漿のうしょうさえ入れなければ薬は完成しないから―――」


「あ、いれちゃいました………」


「はぁ!?」


 と師匠が驚いた時、不運にも鍋の中身が跳ねて師匠にかかってしまった。


 ボムンと爆発したような音と煙があたりに立ち込める。


 どうやらこの薬は塗って効果を発揮するものだったらしい。たった一滴。しかし師匠いわく私の才能はすごいらしくって……


「けほ……けほ……うぅ、あれほどきをつけろっていったのにぃ!」


 煙が晴れると、そこには5歳くらいに見える女の子がいた。


「魔鳥のトサカは若返りの薬なんだよぉ!」


「……師匠? 師匠ですか?」


「あうぅ、こんなに若返って……このばかでしぃ!」


「かわ……かわいい………」


「どぉにかしろーーー!」


 師匠を抱き上げるとローブがずるずるとついてきて重かった。「可愛いですよ!」と言って慰めるが、師匠はぽかぽか叩いてきた。


「うるさいうるさい! こんな体になってしまってどうするんだぁ!」


「私が責任をもって育ててあげます! こんどは良い子になるように、しっかり面倒見てあげますからね!」


「いらんわーーー! ばかーーー!」


 金色の目を持つ魔女はロクな事をしないというのは、どうやら本当らしかった。


 ちなみに師匠は3日後に元に戻った。


 しこたま怒られて悲しかった。


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