アニキを追って

鷹野ツミ

アニキを追って

「えーっと、とりあえずビール。あと唐揚げとポテトください」


 カウンター席に座る男がいつもと同じ注文をした。男はここの常連客であり、オレの最終目的地である。


 最終目的地である理由は、昨日あの男が食べた唐揚げの中に、オレのアニキが居たからだ。


 既に解体されているオレたちは、魂で言葉を交わしていた。産まれた時からずっと一緒で、人間の中でタンパク質になる時も一緒に居られると思っていた。

 まさかオレだけ生肉のまま残るなんて思わないじゃないか。オレも揚げてくれ!と必死に店員に向かって叫んでも、人間に聞こえる訳がなかった。

『先にいってるぜ』アニキの最期の言葉を思い出す。カラッと揚がった姿で口の中へ消えていき、艶やかな肉汁を滴らせ、ねちゃねちゃと咀嚼されたアニキ。オレは厨房で咽び泣くしかなかった。


 今日、あの男がいつもと同じ注文をしてくれて良かった。オレはツイてる!

 アニキ、今から会いにいくぞ……!


 オレは面識のない鶏たちと一緒に皿に盛られ、店員に雑に運ばれた。


「お待たせしましたー」

 店員の雑な言葉と共に雑にカウンター席に置かれ、危うく皿から落ちそうになった。

「どうもー」

「ごゆっくりどうぞー」


 男はビールをぐびぐび流し込み、唐揚げをつつく。早く!オレを早く食べてくれ!早くアニキに会いたい!うずうずしているうちに、皿に残ったのはオレだけになった。

 こいつわざとか?と思うくらいオレを口に入れる気配がない。もうビールは三杯目になる。

 おい!オレを箸でつんつんするな!早く口の中に入れろ!

「……っ、くふ……」

 男が急に吹き出したかと思えば、にやけた顔でオレを見ている。なんだコイツ?

「……お前唐揚げのくせにうるせーなあ」

 なん……だと……!オレの声が聞こえているのか!それならば話は早い、オレをさっさと食べてくれ!

「やーだよ」

 そう言いながらも、男はオレを掴んで口元に持っていった。これでオレはアニキの元へいける。ほっと胸を撫で下ろすと、変な感覚に襲われた。

 アルコールの臭いをたっぷり含んだ息がかかる。ねっとりと濡れた舌でオレの表面が撫でられている。

 ひい!あっ、やっ、やめろ!やめてくれ!

「おいおい、気色悪い声出すなってえ」

 男はオレを弄んで愉しそうだ。腹立たしいが、オレには何も出来ない。


 不意に居酒屋の扉が開いたと思えば、入って来た客を男が手招きした。どうやら連れのようだ。

「あ、いいこと思いついた」

 オレを皿に戻し、ビールをひと口。そして隣に来た連れの口の中にオレは放り込まれた。



「あー、おもしろかったあ。あ、アニメの次回予告風に言うとあれだな『次回!鶏 会えず』だな」




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