39.新天地
「ここ傾斜キツイいので気を付けてください~!!」
「大丈夫かい月音ちゃん?ほら、手掴んで」
ミェルさんの手を掴んで、何とか先頭のスリールについていく。
歩き始めて数十分になるが、険しい道にも関わらず一向にスリールさんのペースは落ちることはなかった。
「あ、あと……どれくらいで……着きますか……?」
「もう目と鼻の先ですよ!!頑張って!!」
晴れやかな笑顔がなぜできるのか……。
こくこくと頷き返して、嫌がる足を無理やり動かし歩いていく。
――そして、数分後。
「あっ!!ほら、村が見えてきましたよ!!」
その声に俯きがちに歩いていた私は顔を上げる。
……私の視界の先に山々に囲まれた、一つの村落が現れた。
「わっ……!!圧巻ですね……!!すごい!!」
村とは名ばかりで実際には街のようにも見えるほどの規模。
「でしょう!!さ、村まであとひとふんばりですよ!!」
「……だそうだ。頑張ろう月音ちゃん」
震える足に鞭打って、なんとか歩き出した。
*
「お疲れ様です!ようこそ、私たちの村”ルぺルクス″へ!!」
――そして私たちは快活なスリールに導かれ、遂に村へと足を踏み入れた。
……遠目で見た時の何倍もの美しさが、そこにあった。
色鮮やかな装飾の家々が立ち並び、自然との美しい調和を遂げている。
昔見た西洋のお洒落な街並みをそのまま再現したような綺麗な景色だった。
並ぶ家の軒先に植えられた花たちが風に乗せて花びらを散らし、色鮮やかに空を舞う。
「すご……。山の中にこんなところが……」
「ああ、よくぞこんな立派な村を造り上げたものだ。感心だね」
直前までいたトリステスとは打って変わって、生活感と温かみのある風景だ。
道行く人々も活気に満ち溢れて、各々仕事を全うしている。
「おう、スリール!!今日はやけに戻んの遅かったな!!後ろの人らは客人か?」
「どうも~!!そうそう、ちょっとだけ散歩するつもりが景色が良くってついつい……そしたら怪我してるお二人に出会って、今から村長のお家に連れてくところ!!」
村人に軽快に挨拶を交わしながらスリールさんが自慢げに振り返る。
「どうですか、いい村でしょ?」
「ええ、すごく。素敵ですね」
眩しい笑顔を返して前向いた彼女はそのまま真っ直ぐと歩き出す。
「このご時世に少々警戒心が足りない気もするがね……なにか秘密があるのかも――むぐっ」
「こら、思ってても口に出さないでください!」
いきなり小さくぼやいたミェルさんの口を慌てて塞ぐ。幸い、賑やかな村のおかげでスリールさんには聞こえていなかった。
……でも、確かに。少しはリスルディアとの関係を疑ったり、そうでなくとも何かしら警戒はしそうなものだけど。
「あ、ほらあそこ!」
スリールさんの声に彼女の指さす方を向く。
やがてその行く手に、一際大きく豪奢な作りの屋敷が姿を現した。
優にその全貌は村の家々の数倍もあり、圧倒的な存在感と共に聳え立っている。
「ここが村長のお家です。部外者の方を村に入れる際は村長へのご報告が必須なので、お二人も着いてきてください。……ほんとは早く休んで頂きたいんですけどねっ」
そう前置きして、スリールさんは大きな玄関扉の横に備えられたベルを鳴らす。
涼やかな鐘の音が村の雑踏の中に響き、やがて扉の向こうから足音がこちらに向かってくる。
ギィィィ……と重い音を立てながら扉は開き、白黒のメイド服に身を包んだ若い女性が姿を現した。
「スリールさんでしたか。村長に何用でしょうか」
淡々とした口調のメイドは、一瞬こちらに視線を向けると綺麗にお辞儀する。
「このお二人が近くの山の中で怪我をしてて。村で手当てをして貰うために村長に許可が欲しいんです。……それにこの銀髪の方、村長と同じ魔女さんだからぜひ村長に会ってほしくて!」
「……分かりました、少々お待ちを。村長にお話をお通しします」
一瞬思案するように目を閉じたメイドは、そう言って踵を返して奥に見える幅の広い階段を昇って行った。
「どうなるかな。簡単に会わせてくれるものだろうか」
「ええ。村長から許可が下りました」
「……!?そ、そうか……仕事が早いね君は」
ついさっき昇って行ったばかりのような気がするのは、私の気のせいだったのかな。
……と思ったらしっかりミェルさんも驚いていた。
傍らのスリールはさも当然といった顔でにこにこしている。
「どうぞこちらへ。村長のお部屋にお連れします」
――ともかく、気を取り直して私たちは屋敷へと足を踏み入れる。
メイドの手によって、背後の大扉が閉ざされた。
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