14.日差し
「あ〜……はぁ〜……」
間の抜けた声が風呂場に反響する。熱に包まれてぼんやりする頭で、ゆっくりと今までを振り返った。
この世界に来てから、多分丸一日くらい過ぎたと思う。魔女に出会って、家に招かれて、魔術を知って。そして目の前で、人が死んだ。
「どうなっちゃうんだろうなぁ……これから」
差し込む日差しに目を細めて、天井の小さなシャンデリア状の照明をぼんやりと眺める。行ったことはないが、西洋の高級ホテルのお風呂場はきっとこんな感じなんだろう。
……なんて呑気に考えられるほど、慣れてしまっている自分が居た。
「上がるか……」
念入りに身体を洗って再度湯船に浸かった後、ガラガラと扉を引いて浴室を出ると。
「これ、着替えかな」
椅子の上に畳まれた服と下着が鎮座している。見た感じではどんな服か分からないけど……とりあえず着るしかない。
手早く身体と髪の毛を拭いてその洋服に袖を通し、脱衣場を後にした。
*
「う〜ん……月水晶の贄適性から鑑みるに貯蔵魔力を引き合わせて大規模転移を行使する場合、少なくともアレがコレしてソレがアレで…………」
「み、ミェルさん……上がりました」
「おお月音ちゃ……っと、似合ってるじゃないか〜!」
リビングに出てきた私を出迎えたのは、ミェルさんの喝采だった。
「そうですか??ありがとうございます、こんな綺麗なお洋服用意してもらっちゃって」
今私の身を包んでいるのは、シックな色のクラシカルワンピース。
デザインはシンプルながら、袖口がふわりと広めの白いシャツと、色が対比するように引き締まった印象を与える外側の黒いワンピースが綺麗なコントラストを演出している。首元についた黒いリボンも、アクセントとして可愛らしい。
「私にはかわいすぎません……?」
「い〜や、君はそれくらいがいいね!!」
勝手に顔が熱くなっていくのを感じる。このまま褒め殺しになるのは目に見えていたので、なんとか話を逸らそうと試みた。
「こ、この服は……ミェルさんが元々着てたものですか?」
「1から作ったものだよ。ほら、私は転移魔術を研究してきた訳だが」
そう言うと、壁際に積み上げられた木箱からボロボロの服をいくつか取り出す。どれも見覚えのあるデザイン……私の元いた世界で流通している服だった。
「まだ研究が始まったばかりの頃は失敗続きでねぇ、こういうガラクタみたいなモノしか持ってくることが出来なかった。最初のうちはそりゃあ興味津々で異世界の品々を調査してた訳だが、まぁそれもすぐに調べ尽くしてしまってね。結局は現地調査が一番なワケさ」
「話が逸れてません?」
「む……要するに、君のいた世界の衣服を元にして魔術で精製したのがその服ということだ。何重にも強化魔術を掛けておいたから、多少の刃だったら通さないよ」
「なるほど、流石ですね……」
見かけに反して、ちゃんと機能面でも有用なあたりこの人は抜け目がない。
「さてね、お着替えも済んだことだし。行くかい」
空気が変わる。正直、怖い。帰れる保証もなにもない、未知の世界での旅なんて、怯えずに居られるはずがない。
「……はい」
――それでも、最初から答えは決まっていた。
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