13.小休止

 ミェルさんから「矢避け」のお守りをもらった後、私たちは大破した窓の修繕に取り掛かっていた。

 

 「分かってると思うけど、贄探しには君も同行して欲しい。私の不在中にまた変な連中がやって来たらまずいからね〜、なるべく目の届く所に居ておくれ」

 

 正直何が起きるか分からない心配はあるが、一人であの白ローブの人達をどうにか出来るわけがないし、今はミェルさんの近くに居るのが最たる安全策なはず。


「しかしまぁ、今回も派手にやってくれたなあいつらは。直すための贄は誰が出してると思ってるんだか」


 魔術を駆使して大破した窓を直しながら毒づくミェルさん。

 私も散らかりっぱなしだった家具や散乱したガラスを片付ける。


「……ところで、これから会いに行く魔女さんはどういう人なんです?」

 

 修復作業を終えたミェルさんは眉を顰め天を仰ぐ。


「あ〜、まぁ良いヤツだよ。私より社交的だし。気前よく研究材料も分けてくれたりね……ただ」


「……ただ?」


「気に入られると大変だぞ」


 どういう意味なんだろう。

 まぁ、異世界からの転移者という意味では目をつけられるだろうが、普通極まりない私に研究価値以外は見出さないだろう。


「ところで月音ちゃん」


「はい?」


「服、どうする?」


 ………!


 言われてみればそうだ。

 この世界に来てから、ラフなジャージのまんまずっと過ごしてしまっていた。


「それに風呂も入ってなかったろ?今沸かすから入るといいよ、昨日は汗もかいただろうしね」


「たしかに、汗びっしょりで寝ちゃってました。…お言葉に甘えちゃいますね」


 熱い湯船がたまらなく恋しい。

 彼女に先導されて、提言通りお風呂に入らせて貰うことにした。


「ココだよ、場所覚えといて」


 脱衣場を抜け、ガラリと浴槽の扉を開けると――


「綺麗……」


 そう一言口にしてしまうほど、素敵だった。

 日差しがすりガラス越しに美しく降り注ぎ、西洋風のバスタブが白磁器のようなタイルの上に鎮座している。


「〜〜〜♪」


 魔術を使用したであろうミェルさんは、その浴槽を一瞬にして水で満たし、続け様に指先ひとつで湯気が上がるほどの湯船に作り替える。


 忙しい現代社会での需要は凄まじいだろうな、なんて俗っぽい想像をしてしまう。


「ではごゆっくり。私は君の服を見繕っておくよ」


 ひらひらと手を振って出て行くミェルさん。


 脱衣場の扉が閉まるや否や、衝動のまま服を脱ぎさって、行儀悪くも勢いよく熱い湯船に飛び込んだ。


「あっつ〜!!はぁ〜〜〜……」


 全身を包む熱に疲れきった心が癒され、解れていく。

 生きてて良かった。今この瞬間、真っ直ぐそう思えた。

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