12.贄
「贄の所有者……ってことはまぁ魔女なんだろうなとは思いましたが……」
いわゆる同族嫌悪だろうか。他の魔女に会ったことがないから分からないけど、この人より曲者の魔女もあんまりいない気がする。
「あ〜、すんなりモノだけ渡してくれないかなぁ〜、はぁぁ……」
心底嫌そうに顔をしかめる。が、ここで諦められてしまっては私が帰れない。
「嫌なのは分かりましたけど……。あ、でも待ってくださいよ。そんな重要なモノ簡単に渡してくれると思えないんですけど」
「そればっかりは会ってみないと」
「大丈夫かなぁ……」
普通に考えたらそう上手くいかなそうだが、もう信じるしかない。もしダメでも無理やりなんとかさせてやろう。
「というか、そんなに会うのが嫌なのってなんでですか?お知り合いでしょ?」
「まぁ、そうだね、前から有益な情報があったりしたら共有したりする仲なんだが……」
饒舌な彼女にしては珍しく、言葉を選ぶように口を開いた。
「なんだ、その。はっきり言って非常に……扱いづらいヤツなんだよ。何考えてるか分かりにくいし。魔女ってのはどうしてこう難がある奴ばっかりなんだかねぇ」
……ツッコミ待ちなんだろうか。
「不安だなぁ」
「ん〜……まっ、とりあえず目先のことから取り掛かるしかないさね。もしかしたら、君が居ることで有利に働くかもしれないし」
「何を根拠に言ってるんですか……」
私の心配をよそに、昨夜の戦いで大破して吹きさらしになっている窓辺に向かう彼女。
そよ風に揺らいだ銀髪が、優しい陽の光に当たって艶やかに光沢を帯びる。
……なんか癪に障るな。何しても絵になるんだから。
「ああ、そうそう。来たまえ月音ちゃん」
呼ばれてミェルさんの隣に並ぶ。
「ほらここ。花が並んでるだろう」
ほんとだ。窓の外、すぐ近くに花壇があり、薄紫の美しい花がその花弁を広げている。
「『月下花』といってね、希少性が高くて贄向きの花なんだ。魔力も溜め込みやすい性質みたいでね。本来ごく一部の地域でしか手に入らないんだが、私は量産に成功したんだよ」
言いながら、窓の傍のサイドテーブルから花と同色の編み込まれた紐を取り出した。
「……手、出してくれるかい」
「?はい」
言われるがまま手を出すと、その紐をミサンガのように手首に巻いて、結んだ。
「月下花を染料に使ったお守りだよ。魔術を施してあるから、飛び道具くらいなら弾くよ」
「ど、どうも……ありがとうございます」
「昨日の晩に作っておいたんだよ、気休めにはなるはずだから」
――ひょっとして昨晩徹夜してたのは、コレを作ってくれていたというのもあるのかな。そう思うとどこか愛着が湧く。
「ちゃんと守る気ではいてくれたんですね」
「さすがに疑り深すぎじゃない?」
不意に、柔らかく表情を崩す彼女。
差し込む日差しで作られたコントラストの中にいる彼女に不服ながら息を呑んでしまった。
断じて絆された訳じゃない。無駄に顔がいいから動揺しただけ。……でも、それはそれとして、ちょっとは信頼してもいいんじゃないかと思えている自分がいた。
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