『獣臭』
苺香
第1話
隣接した駐車場に車を停め、扉を開けたとたんわずかな動物臭が漂う。
今日は、最近家族の一員となった仔猫の尻尾の毛が抜けたため、いつもの動物病院を訪れた。
先生は相変わらず、動物の味方で、真菌による猫の疾病には関心を示すものの、私にうつった赤みのあるまあるい傷には見向きもされない。
数か月前、犬を連れて来た時もそうだった。
食べる事が好きで、太り過ぎてしまったポメラニアンを診て頂いた時、叱られたのは、勿論、飼い主である私であって、ガツガツと餌を食べ過ぎた犬ではない。
その動物病院の待合室は、獣臭の中、犬や猫は勿論、小鳥を連れた方、亀を連れた方などでいつも満員。
順番が来て、名前が呼ばれるまでの時間は、お互いの連れている動物の具合について尋ね合い、心配な気持ちを語り合い、経験者による助言などが飛び交う。
何処のどなたかも存じないし、社会的なバックグラウンドなどもそれぞれで、いつもの生活範囲ではおそらく出会うことのない方々。
けれども、その空間では共通した想いがあって、解かりあうことが出来る。
動物の最大の味方である先生と、動物を家族の一員として大切にする飼い主さんたち。
「ここに来れば、その動物たちは、元気を取り戻す」
という絶対的信頼のもと、今日も待合室で言葉を交わす。
知らないもの同士の、暖かく居心地の良い待合室は、獣臭とともに、
心に希望という、灯をともし続けている。
……希望の香りが漂うのです。
『獣臭』 苺香 @mochabooks
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