9.「ネームプレイトをぶら下げるだけの傀儡部長に未来(あす)はあるのか」

 春と秋の年二回開催された関東リーグは、関東の大学囲碁部が集まる大きな大会です。

 強さ順に一部から五部まで分かれており、上智は真ん中の三部にいました。春季大会は三日間(連続)で計七局。体力的にも精神的にもなかなかにハードなスケジュールです。

 

 一年の時、私は春季大会では補欠、秋季大会では春よりもメンバーが減ったために五将で参加しました。

 春の大会は、経験のために途中二局ほど打たせてもらうも、あまりにも手合い違いで惨敗(主将のKさんと交代で出たためやたら強いお相手と打たされました)、秋の大会は五将のためそれなりに拮抗きっこうした実力の相手との勝負でしたが、七局中、二局ほどしか白星を得られなかった記憶があります。

 ただ、当時の棋力が東洋囲碁三段から二段に落とされるくらいでしたので、その程度の棋力にも関わらず全体的にハイレベルな関東リーグで二勝もできればむしろ良いほうなのかなと思ったりもします。


 二年次の春季大会では四将でした。

 後輩二名のうち、Iくんは副将、級位者のAさんは不参加でした(五将には、初段程度の将棋部の先輩がヘルプで入ってくれていました)。


 当時は東洋囲碁三段で奮闘しており、まだまだ全然弱い部類ではあるのですが、大学一年の頃よりは格段にレベルアップしていました。定石や布石の基礎的な勉強に力を入れていたこともあり、小目の一間バサミ定石ひとつ知らなかった頃とは比べ物にならないほどに――特に知識面においては――成長していたと自負しています。

 また前話で記したように、この頃はいろいろな打ち方を試している時期でしたので、本大会でも様々な打ち方を試しました。

 星と目外しを組み合わせた布石や、二連星など。特にこの大会の前は武宮正樹先生の棋書で勉強をしていたこともあり、それまであまり積極的に試してこなかった星打ちの比重は高めだったように思います。


 それなりに意気込んで臨んだ大会でしたが、私は初戦から四連敗しました。

 比較的自信を持って打っていた初戦で半目負けを喫したことで動揺が強まり、以降の三局は実力を出し切れずに――わりとあっさりめに――敗れた記憶があります。


 将棋部の助けを借りなければ団体戦の参加もおぼつかないほど緩い囲碁部ですから、たとえ負けようが責め立てる人は誰もいません。

 しかし、誰からも非難されないということに、かえって私は失望しました。積極的に難詰されたかったわけではないにせよ、仮にも部長を務める自分が全敗しようが誰も気にも留めないというその事実に、自身の部長という肩書きがまことにただのネームプレートに過ぎず、お飾りあるいは傀儡かいらいでしかないのだということを痛感したのです。

 いくぶん飛躍しすぎともいえるその発想は、しかし私という人間の性質にかんがみれば自然なものだったように思います。瑣末さまつでくだらないことを理由にすぐ憂鬱がり、他者との関わりに臆病になりがちな、実に面倒で扱いづらい男ですから。


 残すは三局。すでに個人での負け越しは確定していますが、もはや問題ではありませんでした。

 このまま負け続け、“お飾り部長”の称号を手にして惨めに終わるか、泥臭い足掻あがきを見せ、この先の囲碁ライフに一筋の光を灯すか。単なる勝敗を超えた自分との闘いがそこにありました。

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