7.「ネット碁初段じゃ基本のきの字が関の山?」

 大学時代は囲碁漬けの日々でした。

 上智大学に入学後、すぐに囲碁部――上智囲碁研究会という名称――に入部しましました。

 純粋に囲碁を再始動したくなったのか、あるいは大学のサークル活動というもの自体に興味があったのか、おそらくはその両方であったと思うのですが、ともかく本格的に囲碁を再開したわけです。


 それまでネット碁などいっさいやっておらず、段級位の基準が場所により大幅に異なることさえよく解っていなかった私は、子ども囲碁塾で獲得した四段というランクをそのまま自身の力だと思っていましたが、入部からほどなくして間違いであることに気づきました。

 上智の囲碁部は部員数が少なく、毎年春と秋に開催される五人一組の団体戦のメンバー集めすら苦労するほどだったため、お世辞にも活気があるとは言えませんでしたが、それでも強い方はいました。


 四月のある日。東洋囲碁五・六段程度の四年生――Kさん――に三子局で打ってもらい、惜しくも(?)敗北。

 対局後にKさんから「初段と二段の間くらいかな」というコメントをいただき、自分の棋力がとても四段には及ばないことを認識したのです。


 Kさんとの三子局で今でも憶えていることがひとつだけあります。

 https://24621.mitemin.net/i831394/

 白の初手小目に黒2と高くカカリ、白3と一間に低くハサまれたところ。

 この後の打ち方はいくつかあります。三々にツケるか五線にコスむのが一般的でしょうか。


 https://24621.mitemin.net/i831395/

 しかし、実戦で私はトビを打ちました。

 ……が、白5とツケられてはっとしたのです。ワタられてしまった、と。

 

 要するに、白3とハサまれた時の定石をひとつも知らなかったということです。

 白3の一間バサミは決して珍しい手ではありません。正真正銘のアマチュア四段なら、定石に詳しくなくとも二、三程度はその後の変化を――なんとなくでも――知っていて当然というところでしょう。

 この定石に関する知識をごうも持ち合わせていなかったという事実だけをみても、日本棋院の子ども囲碁塾で貰った四段の免状がハリボテであることがお分かりになるでしょう。


 悔しいと感じるべきなのかもしれませんが、それほど感じてはおらず冷静だったように思います。一間バサミ定石ひとつ知らないレベルですから当然ですね(笑)

 同時期にようやくネット碁――東洋囲碁のことを、当時の人たちはタイゼムと呼んでいました――を始め、五級で登録してから初段まではすんなりと上がったものの、初段から一級に降段する体たらくだったので、Kさんのコメントは至極妥当なものであったといえます。


 当時の碁を思い出してみると、まだ変則的な打ち方には手を出さず、真っ当な碁を打っていました。

 中学時代から引き続き小目中心の地に辛い打ち方をしていた一方、目外しも好きだったので、小目+目外しのような布石を時折――主に白番で――使っていました。とはいっても目外しの定石に詳しかったわけではなく、比較的打つ人が少ない着点だから打っていたという、ある種の逆張り精神のようなものが根底にあったのかもしれないと今では思います。


 この「逆張り精神」というのが私という人間を語る上では欠かせないファクターで、十数年前から現在に至るまで【儀式】にこだわっているのも、これが大きく影響しています。

 もっと言うと、私という人間は「他人ひとと違うことをやっている自分が恰好いいと思っている」ところがあります。世間一般的にみれば、わりと“イタい”奴なのだろうと思いますが、そういう性格なのだから仕方がない。囲碁以外に日頃から何かにつけて逆張りしているとすればたちが悪いですが、そういうわけではなくある程度わきまえているつもりなので大目に見ていただけたらと思います。


 閑話休題。囲碁部の人数が少なく、部室に行っても毎日誰かしら対局相手がいるとは限らなかったため、部室では打つ人がいればラッキーぐらいに考えており、主たる対局場所は東洋囲碁でした。

 ネット碁初段前後の人の碁を観ていて「まだまだ基本的なスキルが足りないな」と思ったりするわけですが、私とて例外ではなく、碁のあらゆる分野において基本となる知識が不足していました。そのため、この時期はネット碁で実戦を重ねつつ、部室に置かれていた定石書などを読んで知識を仕入れていく期間でした。一間バサミ定石に関してはこの時期にちょうどプロの間でも大流行していたため、しっかり勉強して多用していました(笑)


 大学一年の秋頃には東洋囲碁で三段まで上がることができたものの、その先を闘っていく力はまだなく、わりとあっさり降段していた記憶があります。

 降段後の二段戦でさえもそれなりに苦戦しており、一年の終わり頃にようやく三段に復帰したようなしていないような……といったところで大学生活最初の一年が終わりました。

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