6、乙女の祈り(2)
「さぁあ、行こう!」
眠い目を擦りながらついて行く。
勝手口を抜けて納屋へ。その影へ手を伸ばして、空間を掴む。
『隠匿の布』が剥がれる。
空間に出現した物体に目を奪われる。
でっぷりとした厚さと丸みのある楕円の板のような物にポールが3本それを繋ぐ様にコレまた輪を描いて手摺りのような物がついてる。
その輪の一部を開いて乗り込むと私に手を差し伸べた。
乗り物?
「ごめん、コレまだ試作機なんだ。大丈夫。ちょっと出力が不安定になる事があるけど……大丈夫ッ」
不安で彼にひっついて立ってる。
「急ぐからコレで、敵地に行こう」
「え? 敵地?」
「あの塔。コレを設置しに」
ふわぁんと浮いた。
神父さんが勝手口から現れた。
「行くんですね。あの人たちは神子さまのお母さんの里へ向かった。応援も呼ぶとか。ここからずっと遠い。人手は裂けたんじゃないかな」
手を振る神父さんが眼下に小さくなる。
飛んでる。
「コレは、『星の神子』に成る物です。始まりは乙女の『守りたい想い』が一人の天才を動かし、『星の神子』を作り出してしまった。人がその力を持ち、その力を増幅させる力を存在させてしまった。その天才は力を持つ血族にその荷を負わせる物を創ってしまった。彼は、自責の念に駆られ研究にのめり込んだ。そして、賛同した者たちが集まり、出来たのがコレなんです」
足元のトランクの中にアレがある。
「コレを増幅器の塔に仕掛け、祈りの力を込めれば、彗星の欠片を撃ち落とす装置が完成する」
「彗星の欠片?」
「君には見えるんだろ? あの空で流れる光の軌跡が」
彼が指を指す方を見上げた。
遥か、ずっと遥か上空に大きな塊が見える。そこから溢れるカケラ達。
降ってくる。
流れ星になる。
「あの塊は落ちて来るんですか?」
「落ちはしない。落とさない方法を模索してる。最終目標はあれとの軌道交差を問題なく行なう事。それもあと少しかかる。もう一息なんだが、俺ひとりなんでね。今は並走しながら降り注ぐカケラをやり過ごす事にしたんだ。運悪くこの国がカケラが降り注ぐ地点だったんだ」
「星と星の話?」
「そうなるかな? どうかした?」
「話が大き過ぎて、想像出来ない…。私はここで暮らす人たちを守りたいと思うだけだもの」
「始まりの『星の神子』も故郷を守りたい。風景を残したいという想いだったらしいよ」
何代も続いた神子たちの事。あの古びた本の事。途方もない時間の流れを想った。
これからも続くであろう膨大な時間を想う。
「見えて来た。これも見えにくくなってるはず。あの布と同じ作用起こしてるけど、あそこまでの精度はないんだ。ーーーー塔の……あった。あそこに内部に入れる通路の扉があるんだ」
前から謎の出っ張りがあるなぁとは思っていたが、そこに着陸する事になるとは。
神子の部屋の隠し扉と同じ感じで通路への扉のスイッチを押した。
内部は暗かったが、一歩踏み込めば柔らかい光が次々と点って行く。
後ろは閉じたが、前は開かれている。
手提げトランクを片手に私の手を取って、彼は進んだ。
壁の向こうで微かに物音がする。
部屋や廊下の隙間が通路になってるようだ。
扉に行き着いた。
「ここだ。ちょっと目眩が起きるかも。俺の手をしっかり掴んで」
指と指を絡めてしっかり握った。
『血』と『知』が出会い、創造された物がこの奥に。
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