5、乙女の祈り(1)
『出来た』と言ってたけど、動いてるようにないし、何も変化しないけど?
じっと見つめてしまった。
不思議だと顔に出ていたのだろう。
笑いながら、解説に入ってくれた。私に理解できるかしら。
「コレ単体では動かないよ。心臓部といえば心臓部だ。コレは、」
「カイッ! すまないが奥の荷物を片付けてくれないか。中途半端になってて。頼むよ」
神父さんの声で彼の言葉が途切れた。礼拝堂の方から聞こえる。
さっき誰かが訪ねて来たようで、教会の扉が叩かれた。その対応に向かったのだったが。
「分かったッ! すぐ終わらせるよ」
私に向かって『静かに』と唇に人差し指を当て、神父さんに向かって声を張った。
膝の上の機械を素早く包み、小振りの手提げトランクに入れる。どういった仕掛けなんだろう。さっきの小箱といい、空間と物が合わない。
私の手を引いて勝手口に向かおうとして立ち止まる。
私にも分かる。外に気配がある。
私が出て行けば、全て終わる気がする。
手を解こうとすると固く掴まれた。痛い。
彼を見ると首を横に振ってる。
でも…。
彼の手を解こうと手を重ねる。
引き寄せられて、抱きしめられた。温もりにホッとしてしまう。
どこにもやらないと言われてるようだ。
あっ!
テーブルの隅にある包みを思い出した。
『いい事を思いついたわ』そっと囁いた。
腕が緩んだ。
手早く引き寄せて秘密道具を取り出す。
これを被れば…。
彼はコレが何なのか知ってるようだった。
手を引かれて、隣の小部屋へ。神父さんの私室のようだ。箱がいくつか積んであった。本当に荷物はあった。その影に入ると布を被った。
「荷物なんてどこにあるんだ?」
ドヤドヤと人が何人か入ってくる音がする。
勝手口が開き、外にいた人と口論になっている。私を逃したかとかだろうか。
「ここにありますよ。カイは何処かなぁ? 大勢入って来てびっくりして隠れちゃった? 大丈夫だよ?」
私をぎゅっと『安心して』と抱きしめ、布から出て行った。
「ここにいるよ。隙間に…コレが……取れたッ」
「そんなところにいたのかい」
「荷物を運んでたら、隙間にコレを挟んでしまって…」
紗の向こうで私が忘れてたと思ってた布を彼が振ってる。
私が居る箱の影を覗き込んでくる人が…。
「あちらでお茶でも、さっきまでカイの友人も一緒だったんで散らかってますが」
神父さんが訪問者達を誘導しようとしてる。
「俺たちが散らかしたみたいに言わないでくれよ。元々だろ?」
戯けた声で賑やかしてる。
「神父としての尊厳に関係してくるから、いい加減な事を言わないでくれよ」
二人は笑ってる。訪問者もその様子に当惑しながらも部屋から出て行った。
「神子さま? ここに? 神子さまは王都でしょ?」
向こうで神父さんがお茶を準備しながら話してる。
私が城外に出たとしたら、向かうのはここしかないと思われてる。ここしか私は知らないんだから仕方がないけど…。
遠くで男達の声を聞きながら、彼の残して行った鞄を抱えてる内に、その鞄に凭れて眠ってしまった。
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