第46話 居酒屋で語ることは何よりも楽しい


 

『村一番』


 駅前の居酒屋の名前。

 ここは2階建ての広い大衆居酒屋という感じだ。

 この近辺はある程度開拓されており、街並みとしてもかなり栄えているといってもいい。

 故に村ではなく街なのではないか。

 それであれば村一番でなく、街一番ではないか、そんな論争が巻き起こるのではなんて思ったりもするが、そもそもそんな言い争うほどここに通うものはいない。

 といってもいつも空いているわけでもなく混んでいるわけでもないからここは潰れずに営業できているのだろう。

 そんな俺も大学時代はよくこの居酒屋に来ていた。

 常連だった、つまりはそういう話だ。


「戸波さん、ちょっと早く着いちゃいましたね 」


「そうだな、入るか 」


 俺とヨウスケが店内に入ると、


「いらっしゃいませ! 本日ご予約はされているでしょうか? 」


 女子大生くらいか、俺が通っていた時にはいなかった店員さんだ。

 こんな可愛い子がいるならまた通い始めようかな。

 

「はい、戸波で予約していると思うんですけど 」


「4名様で予約の戸波様ですね。お席ご案内します 」


 彼女に案内されたのは、4人用テーブル席。

 紗夜さんはまだ来ていないようだ。

 先に着いた俺とヨウスケは向かい同士で座った。


「そういえばヒナさんは? 」


「あぁなんか駅前でやってた化粧品のアンケートモニター受けてましたよ。ただで化粧品試せるーって 」


「やっぱり女の人ってそういうの好きなんだな 」


「そうですね。なにも今日受けなくてもいいのに。せっかくの祝勝会が…… 」


 ヨウスケは肩を落とし、俯いている。


「いやいや、紗夜さんもまだなんだしそんな気にすることでもないって! そういえばさ、俺って明日からなにすんの? 」


 彼の気を紛らわすため、話題を変えてみた。

 実際気になることだし。

 するとヨウスケはふと顔を上げ、


「えっと明日は引き続き社内案内と同職業の人達との合同訓練、来週から本格的にダンジョン攻略を割り振られると思いますよ 」


 へぇ、そうなんだ。

 ってかなんで俺はそれを聞かされてないんだよ。

 知らない予定ばっかりなんだけど!?


「もしかして戸波さん、知りませんでした? たしか戸波さん宅宛に書類を送付したと思うんですが 」


 あ、そういえばなんか来てたような。

 あの紙どうしたっけ?

 丸めて捨てたような気もする。


「そ、そそそそそんなわけないじゃないか! 知ってるよ! 忘れてたゃだけだ 」


 まさかそんな大事な書類目を通してないなんて社会人として恥ずかしいっ!

 まだ2人でよかった。

 紗夜さんにそんなことバレたら怒られるぞ。


「ふふっ。海成くん、なに慌ててんの〜? やましい話でもしてたとか? 」


 いや、まさかの後ろで聞いている人がいたっ!

 あ、これはこれは紗夜さんではないですか、相変わらずお美しい。

 そんな彼女は俺の横の席に腰をかける。


「さ、紗夜さんっ! おひさしぶりゃデス 」


「ははっ! なんでまだ噛み噛みなのさ。もしかして私が隣に来て緊張してるとか? 」


「はいっ!! あまりにお美しいものでっ! 」


「もう、よくそんな恥ずかしい冗談いつも言えるわね。ヨウスケくん、海成くんは本部で上手くやれてる? おちゃらけてない? 」


「はい、戸波さんは一生懸命頑張っていますよ、今のところは 」


「おいなんだ今のところはって 」


 俺の返答を聞いた紗夜さんは、


「海成くん、まだタメ口使ってるの? ダメって言ったよね? 」


 ムスッとした顔を向けてくる。


「あぁ相羽さん、いいんですよ。僕たち友達ですから 」


「……まぁヨウスケくんがいいならいいんだけど。でもね海成くん、周りの目には気をつけてよ? 言葉遣いに厳しい人だっているんだから 」


 彼女が言うのはごもっとも。

 会社の後輩が先輩にタメ口をきく。

 それはあまり好まれた景色ではないだろう。


 なんかついついタメ口で話しちゃうんだよな。

 ヨウスケとヒナが受け入れてくれてるからだろうか。


「分かりました。気をつけます 」


「うわぁ、納得いってなさそうな顔〜 」


「元々こんな顔です〜! 紗夜さんこそ人の顔いじるなんてひど〜いっ!! 」


「えええっ!? そんなつもりじゃないんだよ? 」


 俺の一言に紗夜さんはあたふたしている。

 たまに冗談が通じなくなる、これも彼女の可愛いところのひとつだ。


「冗談ですよ。気にしてないです 」


「お待たせしました――っ!!!! 」


 会話が一区切りついたところで、ちょうどヒナさんが到着したみたいだ。

 あまりに大きな声、それにいくつもの化粧品ブランドの紙袋を両手に持っているため店内で変に目立っている。


 彼女はすぐさまヨウスケの隣に座り、大量の紙袋を足元に置いた。


「ヒナちゃん、紙袋いくつかこっちの席置こうか? せっかく買ったのに床に置いたら汚れちゃうよ? 」


 紗夜さんは気遣ってヒナに声をかける。

 さすができる女っ!


「いえ、大丈夫ですっ! 大事なのは中身なのでっ! 」


 ヒナは彼女に親指を立てて問題ないことを伝えた。


 ようやく人数が揃ったところで飲み会のスタートである。


 俺達はあの時の大型ダンジョンの話、お互いの趣味の話、ヨウスケ、ヒナの馴れ初めだったりとプライベートならではの話に花を咲かせた。


 それからお互いの家族の話題へと切り替わり、まずヒナが紗夜さんへ質問を投げかける。


「そういえば紗夜さん、気になってたんですけど本部で弟さん働かれてますか? 」


 それを聞いて、彼女の表情が一瞬曇った……気がした。 

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