第26話 大型とか合同とかギルドとか
「大型ダンジョン? なんじゃそりゃ 」
俺が思ったことをそのまま口にすると、
「ごめん、海成くん。大型ダンジョンっていくつかの支部と合同で行うんだけど、難易度がD級以上だからまだ説明しなかったの 」
その問いに紗夜さんが答えてくれた。
そして彼女はそのままいつものデスクに座っている久後さんへ向き直し、
「久後さん、なんで私と海成くんなんですか? 彼はまだE級ですよ! それならC級のねるちゃんとD級の凛くんが適任だと思うんですけど? 」
「しゃーねーだろ! あいつらは別の任務があるんだしよ〜! しかもそれにはねるの力が必要らしいし? なぁ? 」
そう言ってねるさんに話を振っている。
「はぁ……。そうね。ダンジョン内モンスターの行動パターンを把握することが目的だから 」
彼女にしかできないことなのかそれを聞いた紗夜さんは肩を落とし、諦めムードを醸し出している。
そんな紗夜さんができないのなら今の俺にできるわけないもんな。
「じゃあ私達しかいないってわけね……。で、その難易度は? 」
「おー! 行ってくれるわけだね紗夜くんっ! まぁ大型ダンジョンっつってもD級だから心配すんな 」
「久後さん、大型ダンジョンなんだから、奥に行くと難易度が変わる可能性もある。その調査も含めているから合同で行うんですよ? そんなところに海成くんを連れて行くなんて心配です! 」
「ならお前がしっかり見ててやれ。いい経験になるぞ〜! なっ? 海成! 」
その一言で突然俺へと注目が集まった。
うん、まぁ実のところ話を初めに聞いた時からワクワクしていた。
他の支部の人にも会えるみたいだし、自分がどれほどの実力か知ってみたい。
あくまでマジックブレイカーを隠した状態でってわけだが。
ということで俺の考えはもうすでに決まっている。
「俺は、その大型ダンジョン行ってみたいです!! 」
その答えを聞いた久後さんは不意に椅子から立ち上がり、
「よっしゃ! 海成、お前ならそう言うと思ったぞ! ワハハッ! 」
天を仰ぎ、豪快に笑っている。
いや、何がおもろいねん。
「海成くん、D級はもちろんE級より遥かに危険なの。ましてや大型ダンジョンなんて何が起こるか分からない。だからあまり私から離れないでね? 怖かったら今回は見学だけでもいいし 」
紗夜さんは至近距離で俺を見つめながらそう口にした。
「は、はい…… 」
俺はこれ以上近いと心臓が潰れそうなので、少し体を仰け反って距離をとる。
心配してくれるのは嬉しいけど、緊張して話が頭に入ってこないっ!
この人、俺のこと子供だと思ってるんじゃないだろうか。
なんか一回りくらい歳下のような扱いをされている気がする。
彼女は責任感が強く、それでいて心配性。
それも過度に。
後輩としては嬉しいことこの上ないけれど、時々俺はそんな紗夜さんがむしろ心配になる。
無理してるんじゃないかって。
俺が彼女に心配をかけないくらい強くなればいいのかもしれないが……。
そんなのはまだまだ先の話だろう。
俺にできることは今のところ紗夜さんに心配をかけない、ではなく彼女の心身の変化をしっかり観察していくことだ。
心配しないで下さいって言ってもしちゃう人だろうし、それがベストだと思う。
「それで久後さん、大型ダンジョンってどこと合同なんですか? 」
「えっとなー、なんか聞いたことねぇギルド名だったわ 」
ギルド?
そんなの完全に異世界の話じゃねーか!
それは気持ちが昂るな。
「ギルド? 冒険者は本部と第2支部だけにいるんじゃないんですか? 」
つい気持ちが高揚して、話に割り込んでしまった。
「あーここ最近になって攻略に慣れてきた冒険者が独立し始めやがってな。そいつらが立ち上げたものをギルドってんだ。ったく龍のやつなんで独立なんて許可したんだよ! 」
いつもテキトーに喋っている久後さんが、心做しか声を荒らげている。
「龍? 」
俺がぼやいた一言に、
「
隣の紗夜さんが答えてくれた。
「しゃ、社長!? 社長ってあの…… 」
「あの? 」
「あ、いやぁ〜西奈さんから名前聞いたことあるなぁって 」
「あ、そうなのね? 」
俺の煮え切らない返事に紗夜さんが少し引っかかったようだがなんとか誤魔化せた?
危うくニューロヴォアのことポロッと言いそうだった。
口が滑りそうになるクセ直さないとな。
にしても龍一社長もといニューロヴォアがギルドの独立を許可した理由ってもしかして本部と比べて目立たず冒険者の脳を喰べられるからとかだったりするのかな。
うわ、ゾッとするわ。
というか久後さんはこの事……いや、知らないか。
親しげな感じだし。
「まぁとにかくだ、その大型ダンジョンは明日13時頃からの攻略になる! 紗夜と海成は今日ダンジョン無しでいいからゆっくり書類に目を通しとけ! 」
久後さんはそう言って、大型ダンジョンについての書類らしきもの二部をデスクに準備する。
「「はーい! 」」
紗夜さんと返事がハモってちっちゃなハッピーを味わった俺は、その後彼女と書類の情報を共有した。
そうしてやってきた次の日――
今日俺と紗夜さんは大型ダンジョンはもちろん、合同で行うことの怖さを知ることになる。
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