第25話 咲宮ねるは天才科学者らしい



 今日は事務所で咲宮ねるさんと初めてお会いする日だ。


 現在10時40分を過ぎた頃。

 俺はゆっくり自転車を漕ぎ、事務所へ向かっている。


 それにしても昨日のお家デートは楽しかった。

 しかし瑠璃、可愛いんだが紗夜さんと電話している時すごい顔で俺のこと見てたな。

 まるでゴミでも見ているかのような冷たい目。


 もしかしてネクサリウスの人が皆、異性交遊に関して厳しかったり?

 地球人……特に日本人はあそこまで顕著に表情を出さないと思うんだけど。


 それとも恋愛をすると男も女もあーやって厳しくなるものなのか?

 いやいや、そもそも瑠璃は俺のことをそういう目で見てないわけで……。

 俺だってもちろん同僚というだけで他意はない……と思っている。


 まぁ俺に恋愛経験がほぼないため、いくら考えても堂々巡りというわけだが。


 そうやって戸波式脳内ソロ恋愛会議を行っていると、あっという間に職場到着だ。

 本当に近いというのはありがたい。


 自宅からものの数分で到着した俺は、いつも通り自転車を駐車して事務所へ向かった。


 ガチャッ――


「おはようございますー! 」


 俺の力強い挨拶に対して、


「おはよう、海成くん! 」

「海成さん、おざーっす! 」


 所定のデスクでパソコン業務をしている紗夜さんと、珍しくデスクに座っている凛太郎が返事を返してきた。


 久後さんは……珍しく留守か。


 あれ、凛太郎珍しいな。

 いつもソファで寝転がったりスマホ触ったりしてるのに。


 そう思って来客用ソファに目をやると、見知らぬ女性が足組み座りをして、本を読んでいる。


 もしかしてあの人が……?


 すると紗夜さんがデスクから立ち上がり、俺の元へやってきた。


「あ、紹介するねっ! こちら咲宮ねるちゃん。彼女、いつもは奥の実験室にいるけど今日は本部の方がねるちゃんの作った論文を取りにくるからここで待ってるの 」


 彼女がそう言って手を差した先には、綺麗な金髪の美少女がいた。

 如何にも研究者という白衣を着てメガネも付けているが、それにしては見た目が若すぎる。

 若いとは言っても20前後くらいだろうけど。


 そんな彼女は紗夜さんから紹介にあずかっているはずなのに相変わらず本を読んでおり、こちらに見向きもしない。


「ちょっとねるちゃん! 今日は海成くんを紹介するって言ったでしょ? 本置いてっ! 」


 その一言にねる先輩はようやく本を置き、


「はぁ……。ボクは咲宮ねる。好きに呼んでくれていい。紗夜、これでいいかい? 」


 そして確認をとるかのように無表情で紗夜さんを見る。


 一向に俺と目が合わないってどんだけ興味ないんだ。

 それでもこの人は職場の先輩だし、しっかり聞こえるよう挨拶させてもらうぞ。


「ねるさん、戸波 海成っていいます! よろしくお願いします!! 」


 あまりに大きな挨拶にビクッと体を震わせた彼女は座ったままゆっくり俺の顔を見上げると、突如凍ってしまったのかと思うほどに体を固めて目をぱちくりさせている。


「えっ!? なんですか!? 」


 彼女にそう問いかけるも相変わらず反応がないので、紗夜さんに目をやると、


「えーっと、ねるちゃんどうしたの? あなたがそんな長い間、人を見つめるなんて珍しいけど 」


 どうやらこれは珍しいらしい。

 ってじゃあ普段どんなコミュニケーションなんだよ。


「え〜海成さん、そんな見つめてもらってズルいっす〜! 俺が指導受ける時なんて、ねむセンパイ大抵、本読んでるか背中向けてるかっすもん! 」


 凛太郎は俺の服の裾を引っ張りながらゴネている。

 もちろん全然可愛くない。


「貴様…… 」


 あ、ねるさんやっと喋った……って貴様!?

 その呼び方現実で言う人いるんだ。

 聞いたことなさすぎてビビった。


「は、はい? 」

 

 一応俺の方を見て呼んでいるので返事をすると、


「職業はなんだ? 」


 無表情だった彼女はニヤケ顔をして俺にそう問うてきた。

 めっちゃ不気味なんだけどなぜかっ!


「えっと、武闘家ですけど? 」


 大丈夫だ、本当はマジックブレイカーだけど【 隠蔽 Lv 10】があるし、隠し通せてるはず。


「ほぉ〜そうか。武闘家ねぇ 」


 何その意味深な言い方!

 バレてる!? バレてるの!? ねぇ!


「ねるちゃん、あなたわざわざ聞かなくても【 鑑定 】持ってるんだから分かるでしょ? 私の後輩をいじめないでっ! 困ってるよ? 」


 【 鑑定 】!?

 そしてあの意味深なニヤケ顔、これはもしかしてもしかするかもしれない。


「あ〜そうだったそうだった。悪かったな戸波 海成 」


 口では謝っているが、表情は未だ不気味だ。


「ねるさん、ちなみに【 鑑定 】のレベルは? 」


「ん? 天才科学者なんだ、MAXの10に決まっとる 」


「そ、そうですか 」


 やっぱり!

 これじゃもうバレバレだ……。

 てかスキルレベル10同士じゃ見破られるのか。

 注意しないと。

 しようがないと言えばそれまでだが。


 というかこの人自分で天才って……。


 ガチャッ――


「よぉお前らっ! ダンジョン行ってるかい? 」


 このタイミングで事務所に入ってきたのはもちろん第2支部代表の久後さんだ。

 そしてなんだその挨拶は、行ってないから事務所にいるんだけど!?


「いやいや、ダンジョン行ってないからみんなここにいるんすよー久後さんっ! 」


 俺、凛太郎と脳みそ同じらしい。

 同じツッコミを心の中でしてしまった。


「おー行ってねぇならちょうどいい! 今から行ってもらおーかなぁっ! 」


 その行かざるを得ない問い方、ガラ悪い人じゃん。

 ちょうど久後さん見た目怖いし。

 

「はい、行きます!! 」

「はーい、行きますよ! 」

「で、ダンジョンの詳細は? 」

「………… 」


 それでも俺、凛太郎、紗夜さん、ねむさんはそれぞれ肯定的な姿勢を見せた。

 ねむさんは黙っているが、これは彼女の通常運転というやつなのだろう。


「よしっ! 大型ダンジョン見つかったから紗夜と海成、任せたぞー! 」 


 大型ダンジョン?

 誰からも聞いたことないんだけど……。  

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