第22話 これはお家デートとやらですか?
「先輩ってば〜!! 」
俺が他人のフリをしていると、瑠璃はさっきより大声で叫び始めた。
あ〜もう街の人みんなこっち見てるし。
ダンジョンという異空間は視えなくなっても、従業員がこれじゃ目立ってしょうがないぞ。
仕方ない、俺から出向くとするか。
これ以上目立ちたくないし。
そう思って、黒セダンの元へ足を運んだ。
「そんな叫ばなくても聞こえてるって! ちょっと注目浴びてるから、マジで! 」
そんな俺の言葉を気にもせず、
「先輩っ! 早く乗って! 」
瑠璃は後部座席を指差している。
「はぁ……。そうだな。とりあえず聞きたいこともある。特に2週間前のE級……え!? 」
「それはお家帰ってからにしよ? 」
そう言って瑠璃は人差し指を立てて、俺の唇に当ててきた。
これ以上は喋らないでと言わんばかりに。
この柔らかい人差し指の感触……。
こんな非常事態なのに、ったく心臓に悪いよ瑠璃さん。
「さっ! 行きましょっ? 」
「わ、わかったよ! 」
こうして、俺は半ば強制的に乗車することになった。
にしても久々に会ったが、やはり可愛い。
紗夜さんも可愛いが……。
うーん、どちらもタイプっ!
ということで俺の中で誰が1番可愛い選手権を行っている間に目的地へ到着したようだ。
にしても車内はずっと沈黙だった。
空気を読んで俺も黙ってはいたが、きっとこれには何かしら意味があるのだろう。
「じゃ、送ってくれてありがとっ! 」
俺と瑠璃は高層マンションの前で車を降り、黒服の運転手を見送る。
一応会社の人だろうし俺もしっかり頭を下げたが、無理やり連れてこられたので少し納得いっていない。
ちょうど車が去ったところで、
「先輩、私の部屋……行きましょ? 」
彼女は上目遣いで服の裾を引っ張ってくる。
久しぶりに瑠璃と会って、ただでさえ耐性が下がっているのにこんなことをされたら本当に身が持たないって。
「へ、部屋!? それって2人っきりじゃ…… 」
「え〜? 先輩なんかヤラシイこと考えてます? 」
「べ、べべ、別にそんなことないぞ? 」
「ふーん、そうなんですね? 」
ニヤニヤした表情で見つめてくる彼女の目を直視できず、俺はつい逸らしてしまう。
あぁ、こーゆーところが童貞なんだろうな……。
俺はされるがまま、 マンションの入口へ引っ張られていく。
にしても高級そうなマンションだ。
高層マンションに住んでる知り合い初めてできたわ。
真上を見上げながら中に入ったからか、
「ふふっ! そんなに珍しいですか? 」
瑠璃にそんなことを聞かれてしまった。
なんか田舎の貧乏人みたいで恥ずかしいんだけど。
「いや、こんないいとこ住んでる人の方が珍しいって! 」
「レベルアップコーポレーションは給与高いですからね。きっと先輩もすぐいいとこ住めますよ! 」
「まぁ俺自身そんないいとこ住みたいわけでもないけどな 」
「え、そうなんですか? 」
「うん、まぁ普通の暮らしでいいかな〜 」
前の会社は残業も多く、休みの日は仕事の疲れで死んだように寝る。
そんな生活を繰り返していたので、いざお金と時間を手に入れたとして何がしたいかなんてパッと出てこない。
まぁこれを機に考えてみるのもありか。
そんなたわいもない話をしながら、瑠璃は慣れた手つきでオートロックを解除し、マンション内へ誘導してくれる。
俺達はエレベーターに入り、瑠璃は22階のボタンを押した。
この時点で充分高層だということが分かる。
しかしボタンは40階まである。
最上階はさぞ高いことだろう。
どんなやつが住んでんのか一度拝んでみたいもんだ。
チンッ――
エレベーターの階層表示は22を示しており、ドアが開かれた。
結局俺は瑠璃に最後まで裾を引っ張られたまま部屋の中までやってきた。
俺そんな逃げそうにみえる?
「さぁ! 先輩、どうですか? 美女のお部屋に入った感想は? 」
瑠璃は大きく手を広げて俺の方を向く。
「美女って自分で言うもんなんだな。まぁそれは置いといて、めっちゃ広い……。そしてタワマンって感じだ 」
「何その感想っ! 」
瑠璃は俺の感想を聞いてクスクスと笑っている。
いや、だって広いリビングに壁は全面ガラス張り。
そこからの外の景色は絶景だ。
しかも部屋の中に螺旋階段があり、その上のロフト部分にまで繋がっている。
どうやら寝室になっているようだ。
てか俺の部屋さ、あのロフト部分よりちっちゃい気がするんだけど!?
「先輩! さぁ何から話します? 」
瑠璃はリビングの中央に置かれている巨大なL字ソファに腰をかけている。
ってさっきまで部屋の話してたのにもう切り替えてるし。
俺はちょうど彼女の斜め向かいにあたる場所に座る。
そして瑠璃と話すのはこちらも願ったり。
彼女には聞きたいことが多すぎるのだ。
しかし、俺はもうすでにまず何を聞くか決めている。
「そうだな、まずはネクサリウスについてだ! 」
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