第33話 ぷはっー、風呂上がりのビールは最高だわ
「チョコって一度食べると止まらなくなるのよね~」
葵はそう言ってさらに五個チョコレートを食べる。
優はこの苦みを調べるために成分表を見る。
「……これってウイスキーボンボンじゃないですかー」
苦みの正体を知り、優は大きな声を上げる。
「ウイスキーボンボン?」
優の声を聞いた瞳が優の方を向く。
その顔はあきらかにしかめっ面だった。
「葵、このチョコ何個食べた」
「う~ん、数えてない」
「……これアルコール入ってるから帰り運転できないだろ」
瞳は頭を抱える。
ウイスキーボンボンには少量のアルコールが含まれている。
それを何個食べたか分からないとなると、仮に勉強会が終わった後アルコールが抜き切れていなかったとすると法律的に運転ができない。
「それならお泊り会でもしない? そうしたらもっと勉強もできるし勉強が終わったら友達とも遊べるし。それに電車で帰って次の日車取りに来るのも面倒だし」
「はぁ~あ」
少しだけ酔っている葵は陽気な顔でとんでもないことを提案する。
その提案に瞳は開いた口が塞がらないようだった。
「さすがに男女で寝泊りはダメだろ」
「別に男子は中村さんの部屋、女子は実乃里ちゃんの部屋に泊まれば問題ないでしょ」
「そっか……」
「もしかして瞳、男女で寝ること想像してたの~。瞳もお盛んな年頃だね~」
「てめ~表に出ろやごら~」
男女で優の部屋に寝ることを想像していたことを葵に図星された瞳は顔を真っ赤にして怒鳴る。
葵のからかう顔はウザくも可愛かった。
「もう瞳ちゃんったら……」
彼氏の実乃里は瞳の言動に頭を抱えていた。
「ということで急遽お泊り会になったけど、大丈夫かな」
「私は大丈夫です」
「私も」
「別に大丈夫ですよ」
「みんな大丈夫ということで、今日はお泊り会よ。あっ、ちゃんと親御さんには今日お泊りすることは連絡しておいてね」
誰からも否定意見が出なかったので、急遽お泊り会が決定した。
「おい、あたしはまだなにも言ってないんだけど」
一人瞳だけは賛成も反対もしていなかったが、葵はそんな瞳を無視する。
「木村さんは先輩たち二人とだけど、全然気をつかわなくても大丈夫だからね。フレンドリー大歓迎よ」
「ありがとうございます。あたしも先輩たちともっと仲良くなりたいです」
葵は後輩の愛音への気づかいも忘れない。
確かに三年生二人に一年生が一人泊まりのは気をつかうだろう。
優がもし、三年生二人と一緒にお泊り会したら間違いなく遠慮するし、気をつかう。
だが愛音は元から社交的な性格ということもあり、先輩相手にも臆することなく関係を築いている。
「中村さんとお泊り楽しみだな」
「そうだね。私も友達とお泊りしたことがなかったから楽しみかも」
「それじゃー今夜は二人で楽しもうね」
そう言って微笑み実乃里はとても可愛らしく、もし優が女だったら間違いなく惚れていただろう。
そのぐらい実乃里の笑顔は天使のスマイルように可愛らしかった。
人生で一度も友達とお泊り会をしたことがなかった優は胸を躍らせる。
「それじゃーこの後も勉強頑張るわよー」
「「「おぉ―――」」」
葵が拳を突き上げ、それにならい他の四人も拳を突き上げる。
なんかみんなで一致団結している感じがして、気持ちが良かった。
その後の勉強会も有意義な勉強会になり、赤点への不安はどこかに消えてしまった。
その後、お泊り会をするということで近所で女子は着替えや追加のお菓子を買いに行き、優と実乃里は晩御飯の用意をする。
実乃里も一人暮らしをしているということもあり、料理の手際は良かった。
「中村さんの包丁さばき凄くない?」
「料理作るのが好きだからね。自然とできるようになっただけだよ」
料理中、実乃里に包丁さばきを褒められた優は少しだけはにかむ。
その後、買い物から帰って来た女子たち晩御飯を食べる。
「カレーの良い匂いがするわね。中村さんと実乃里ちゃんが作ったカレーだもの、間違いなくおいしいに決まってるわ」
優が作ったカレーということもあり、葵はかなり高揚していた。
その後、五人で優たちが作ったカレーを食べ、ジャンケンで負けた葵が皿洗いをし、部屋主の優から風呂に入る。
「それじゃーお泊り会ということでここからは寝るまで遊ぶわよー。みんな飲み物は持ったかしら。それじゃーかんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
全員がお風呂を入り終えた後、葵が缶ビールを片手に音頭を取る。
本日二回目の乾杯である。
成人年齢が十八歳に引き下がった影響により、十八歳からタバコやお酒を飲むことができるようになった。
「ぷはっー、風呂上がりのビールは最高だわ」
十八歳の葵はおじさん臭いこと言いながら、おいしそうにビールを飲む。
まだ十五歳の優にとっては未知の味だ。
ビールをおいしそうに飲む葵を見て、十八歳になったらお酒を飲んでみたいと思う優だった。
「瞳はまだ十七歳だからお酒が飲めないのよね~。おこちゃま~」
「うっせ。少し早く生まれたからって調子に乗りやがって」
「私、もう大人だから。子供の瞳君とは違うのだよ」
「ヤバい、マジでウザい」
十八歳の葵が十七歳の瞳をからかっている。
瞳の言うとおり、確かにあれはウザい。
いつもは大人っぽい葵の子供っぽい姿も、それはそれで新鮮だった。
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