第31話 お世辞だろ
勉強会当日。
五人で話し合った結果、日付はテスト前の最後の土曜日、場所は優の部屋に決まった。
理由は優の部屋が学生寮で一番集まりやすい距離だったからだ。
学生寮は学校に近い。
つまり、学校に通学する感覚で行けるということだ。
ちなみに、実乃里の部屋ではなく優の部屋になった理由は瞳が反対したからだ。
「別に私の部屋でも良かったんだけど」
「ダメだ。実乃里の部屋に他の女が入るのは抵抗がある」
実乃里自身、なにも気にしていなかったのだが、彼女の瞳が他の女を彼氏の家に入れるのを強く拒んだのだ。
いくら友達でも彼氏の部屋に他の女を入れるのは抵抗があるらしい。
さすがにそれは束縛が激しいのではないかと優は思った。
「それじゃー午後二時に瞳と木村さんを乗せて向かうわね」
ということで葵が他の二人を乗せて学生寮まで来るらしい。
「もう~瞳ちゃんったら~。ごめんね中村さん」
「別に私の部屋で勉強会するのは大丈夫だけど、五人も入れるかな~。それにテーブルとか間に合うかな~」
「多分、大丈夫じゃない。二人でいても窮屈に感じないし、私の部屋からテーブルも持って来たし」
先に優の部屋に集まっていた優と実乃里は他愛もない雑談をする。
瞳が実乃里の部屋で勉強会することを反対したことを実乃里が謝るが別に実乃里が悪いわけではない。
それよりも優は一人暮らしを想定して作られている学生寮で五人で勉強会ができるかどうかの方が不安である。
スペース的に。
そんな時、玄関のチャイムが鳴る。
「来たね」
部屋主である優は立ち上がり、到着した葵を迎い入れる。
みんな今日は勉強をすることを目的としているので服装もカジュアルである。
「「「お邪魔しま~す」」」
優の部屋に到着した葵たちはぞろぞろと中に入ってくる。
手にはコンビニで買ったと思しきチョコやスナック菓子やジュースが入った袋を携えていた。
「ジュースとか買ってきたから、冷蔵庫に入れておいても良いかしら」
「はい、大丈夫ですよ」
葵は慣れた手際で優の冷蔵庫にジュースを入れていく。
「実乃里は先に来てたのか」
「隣だからね」
瞳は真っ先に実乃里に話しかける。
さすがカップルである。
「この先輩が実乃里の彼女」
「そうだよ。西条瞳ちゃん、私の彼女で幼馴染」
初めて自分の彼女にあった愛音に実乃里は自分の彼女を紹介する。
「高校三年生だから凄く大人っぽいですね。実乃里とお似合いです」
「実乃里の友達か。いつも実乃里がお世話になっている」
「いやいやこちらこそ。実乃里はあたしよりも勉強とかできるのであたしの方こそお世話になってますよ~」
「良かったわ~。瞳と木村さん、初対面で車の中ではお互い様子を伺ってたから。瞳ってこう見えても人見知りだからね~」
「うっせっ。人には向き不向きがあるんだよ」
葵の言っているのはなんとなく想像できる。
愛音は社交的だが、瞳はどちらかというと内向的である。
それに加えて瞳は愛音の先輩だ。
だから愛音も瞳には話しかけづらかったのだろう。
葵にからかわれた瞳は文句を言っているが葵は適当に受け流す。
「初めて直接お話ししましたけど楠先輩ってめっちゃ可愛いですよね~」
「ありがとう、木村さん」
「お世辞だろ」
「ひどいわ瞳」
「そうですよ。楠先輩が可愛くないならほとんどの女子は可愛くないになりますよ」
これは葵と愛音の言うとおりである。
葵のレベルで可愛くなかったらほとんどの女子が可愛くないになる。
先輩二人と対等に話している愛音を見て、改めて愛音のコミュ力に驚く。
優なら絶対にできない芸当である。
「凄いよね木村さん。先輩相手にすぐ打ち解けられるなんて」
「愛音ちゃんは人付き合いが上手いから。あの、人とすぐに仲良くなれる能力は本当に尊敬するな~」
実乃里も愛音の社交的に舌を巻いていた。
「木村さんって凄い社交的な女の子ね。驚いちゃったわ」
「みんなに言われますね。ただ人と話すことが好きで話して仲良くなるだけなのに、みんな凄いって言いますよね~」
「それが凄いのよ。なかなかできることじゃないと思うわ」
「そうなんですかね~?」
葵の言うとおり、愛音の社交的は凄いと思う。
本人は全く自覚していないが、話すことが好きで話しているうちに仲良くなれるのは一種の才能だと思う。
「……中村さん、木村さんのコミュ力凄いわね。さすがギャルだわ」
「……私もそう思います。木村さんのコミュ力は本当に凄いです」
「私、木村さんほどコミュ力が高い人会ったことがないかも」
「でも楠先輩も十分、コミュ力が高いので私からすれば楠先輩も凄いですよ」
「っ……あ、ありがとう」
葵の言うとおり、優もギャルはコミュ力が高いと思う。
葵は愛音のコミョ力のことを絶賛していたが、優からすると葵も相当コミュ力はあると思う。
葵は友達も多いし、生徒会長もこなしている。
コミュ力がなければ、人望なんて集まらないだろう。
不意に褒められた葵は、照れくさそうな顔をした。
「それじゃー勉強会始めましょうか。あたし馬鹿なんでみなさんには色々と聞くと思うんですけどよろしくお願いします。赤点だけは取りたくないんで」
見た目がチャラい愛音が、一番意欲的だった。
最低でも赤点だけは取りたくない。
「そうね。分からないところがあったらみんなで教え合いましょう。一年生の三人で分からない問題があったら遠慮なく三年生に聞いて大丈夫だからね」
葵は生徒会長ということもあり、みんなを仕切るのが上手い。
葵の号令と共に、勉強会が始まった。
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