第四章 楠葵先輩はお酒が飲める
第30話 勉強会で分からないことがあったらなんでも聞いてね。私、先輩だから
楽しかったゴールデンウィークが終わり、月日は六月に移る。
六月になると教室の雰囲気も変わる。
「今日から夏服だね中村さん」
「そうだね。最近暑くなってきたからね」
今日から六月。
つまり今日から衣替えが始まる。
藤ヶ崎高校の衣替えは男女ともブレザーを羽織らなくなりワイシャツ、ブラウス姿になる。
夏服になったことにより、全体的に爽やかな感じになる。
「みんなが昨日と違う服装を来て教室にいるとなんだか変な感じがするよね」
「分かる。昨日まではみんなブレザー羽織ってたのに今日からワイシャツ姿だもんね」
実乃里と優は衣替え初日ということもあり、衣替えの話で盛り上がる。
「おっは~中村、実乃里。今日から夏服だね~。最近暑かったから超良いわ~」
軽いあいさつをしながら愛音が優たちの元へとやってくる。
ブラウスの第二ボタンまで開けているせいで、かなり色っぽい。
ちなみに優と実乃里は第一ボタンまで開けている。
「梅雨が終わると夏だもんね」
「高校生初めての夏休みだから満喫したいよね~」
「それな~。実乃里は彼女いるから夏休みは一緒に泊まりで旅行とか行く感じ?」
「まぁ……泊まりで旅行に行きたいとは考えてるかな」
「きゃ~マジ可愛いんだけど~」
彼女がいる実乃里は夏休み、二人で泊りがけの旅行に行く予定らしい。
まさにリア充である。
泊まりということは実乃里もそういうことを意識しているらしい。
頬が赤くなっている。
そんな実乃里が可愛いのか愛音がニヤニヤしながらからかっている。
「木村さんは彼氏とかいないの?」
「あ、あたし? 残念ながらいないよ」
偏見かもしれないが、ギャルの愛音だから彼氏ぐらいもういると思ったがいないらしい。
優にとって予想外だった。
彼氏の有無を聞かれた愛音は物凄く動揺し、歯切れが悪かった。
「中村さんも愛音ちゃんはどう? 中間テストの状況は」
「私はボチボチかな。でも文系の教科は少しヤバいかも」
「げっ……あははは……全然ダメです。全教科ダメです」
「私も初めての高校のテストで不安だからみんなで勉強会しない」
「それ良いねっ、やろうみんなで勉強会」
「私も良いと思うよ。私もテスト不安だったし」
二学期制の高校だと六月に中間テストが行われる。
その現実を知った愛音は絶望に打ちひしがれる。
見た目通りと言えば見た目通りだが、愛音は勉強が苦手らしい。
そんな愛音に実乃里は救いの手を差し伸べる。
勉強会。
優自身もあまり勉強は好きではないが、みんなで集まってする勉強会は好きである。
「決まりね~。勉強は嫌いだけど勉強会は好き」
「愛音ちゃん。勉強会なんだからちゃんと勉強するんだよ」
「モチのロン。赤点取らないように頑張ります」
勉強は嫌いだが勉強会は好きな愛音はかなり盛り上がり、浮かれている愛音に実乃里は釘を刺す。
「勉強会楽しみだな~」
優も顔をほころばせる。
一人で勉強するよりもみんなで勉強する方が楽しいのはなんでだろう。
不思議である。
梅雨や中間テストはあるのに祝日がない六月。
そんな憂鬱な六月にも楽しみができた優だった。
お昼休み。
中庭。
「そろそろ中間テストよね~」
高校三年生の葵も中間テストは意識しているらしく、話題は中間テストの話になる。
むしろ高校三年生だからこそ中間テストを意識しているのだろう。
受験までもう一年もない。
「中村さんと実乃里ちゃんはちゃんとテスト勉強してる?」
「毎日コツコツやってます」
「私も瞳ちゃんとしてるので大丈夫だと思います」
さすが実乃里。
これも年上の彼女がいる特権だろう。
彼女が年上だからこそ勉強を教えてもらえる。
本当にこの二人はラブラブである。
「でも初めての中間テストで不安だから友達と一緒に今度勉強会の予定を立ててます」
「勉強会、良いわねそれ。それなら私も参加して良いかしら。私、学年一位で先輩だから分からないところがあったらいろいろと教えられるわよ」
葵たちに一年生だけで勉強会することを伝えると、勉強に自信があるのか自分も参加をしたいと申しである。
その申し出は嬉しいが優一人の一存では決めることができない。
実乃里と愛音の意見も聞かないといけない。
「葵、一年生で勉強会するんだから三年生の葵が行ったら気をつかって勉強会どころじゃないだろ」
「なら気をつかわなくても良いと伝えるわ。これなら一年生も気をつかわなくて済むでしょ」
「そういう問題じゃないんだよな~。先輩が後輩の輪に入ったら先輩が気をつかわなくて良いと言っても気をつかうものなんだよ」
これは瞳の言うとおりである。
一年生同士でいる時にいきなり三年生が来たら、いくら気をつかわなくても良いって言われても気をつかう。
しかし葵は納得していない様子だ。
「私は楠先輩が来てくれて嬉しいですけど、倉木さんともう一人のクラスメイトに聞かないとなんとも言えないです」
「私は大丈夫ですよ。楠先輩といるのは楽しいですから」
「ありがとう中村さん、実乃里ちゃん」
「それならあたしも行く。あたしも行って良いか、中村さん」
「別に大丈夫ですよ。でももう少し待ってくださいね。もう一人のクラスメイトにルインで聞いてますから」
実乃里なら反対することはないと思ったが案の定、賛成してくれた。
葵が行くなら自分もということで瞳も参加の意を伝える。
最初は実乃里たちに気をつかって参加の意を示さなかった瞳だが、葵が行くなら自分も行って問題ないと思ったのだろう。
本当にこのカップルはラブラブである。
『楠先輩と西条先輩も参加してくれるのっ。サイコーじゃん。もちろんオッケーに決まってるじゃん』
『ありがとう。そう伝えておくね』
社交的な愛音のことだから大丈夫だと思ったが、まさかこんなにノリノリだとは思わなかった。
優はソッとスマホの電源を切る。
「もう一人のクラスメイトも大丈夫だと言ってました。むしろ、二人が勉強会に参加することを知ってテンション上がってましたよ」
優は愛音とのやり取りの結果を三人に伝える。
「もうお昼休みも終わりなのね。勉強会の日程や場所は、五人で話し合って決めましょう」
予鈴が鳴り、優たちは自分たちの教室へと戻る準備をする。
葵の言うとおり、それぞれの予定もあるので五人で話し合ってから決める方が良いだろう。
三人から五人に増えた勉強会。
「勉強会で分からないことがあったらなんでも聞いてね。私、先輩だから」
優に近づき、葵は耳元で優しく囁く。
葵の息が耳に当たる。
「あっ……はい、ありがとうございます」
優しくも甘美な葵の声に優は心拍数を上げる。
こんなに綺麗な先輩の顔が近くにあったら誰でもドキッとしてしまうだろう。
そんな優の気持ちも知らずに葵はニコニコ笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます