第28話 告白?


 遊園地の出口に到着するとすでに実乃里と瞳が待っていた。


「お待たせ~」

「おぉ」


 葵が手を振りながら瞳たちに近寄ると、瞳も手を振り返す。


「瞳~、ずいぶん実乃里ちゃんとラブラブだったじゃな~い」

「おまっ、もしかして二人で盗み見してたのかよ」

「ううん、観覧車に乗ってたらたまたま見つけただけ。それにしてもイチャイチャしてたわね」

「そういうことか。別に良いだろ、カップルなんだから。それにもしそんなところを目撃してもあたしに言うな。恥ずかしいだろ」


 実乃里とイチャイチャしていたことを葵にからかわれた瞳も恥ずかしそうに声を荒げる。


「お前も彼氏ができて人目を憚らずイチャイチャしてたらからかってやるから覚えておけよ」

「はいはい」


 恨めしそうに見つめる瞳を葵は適当に受け流す。


「倉木さんって本当に西条先輩のことが好きだんね」

「えっ、当たり前だよ。だって私の彼女だから。だから瞳ちゃんともっとイチャイチャしたいし」

「……可愛い~……」


 照れながら惚気る実乃里を見て、その可愛さに思わず優は見とれてしまう。

 照れている実乃里を見ていると、本気で瞳のことが好きなんだと伝わってくる。


「瞳はもっと実乃里ちゃんとイチャイチャしたくないの~」

「お前には関係ないだろ」

「もう~素直じゃないんだから~」

「あぁ~、マジで覚えておけよ葵」


 素直じゃない瞳をからかう葵に、瞳はまた声を荒げる。


「倉木さん、あの二人止めなくて大丈夫?」

「うん。いつものことだから大丈夫。もし本気だったら今頃絶交してると思うし」


 言い争いをしている二人を見て優は心配になるが、実乃里が言うには日常茶飯事の光景らしい。


 軽口を叩けるほど葵と瞳はお互いを信頼しているのだろう。


「それよりも中村さんの方はどうだったの。なんかあった」

「えっ、なにもないよ」

「本当に? 告白とかされなかった」

「告白っ」


 実乃里の突拍子もない質問に優は思わず大声を上げる。


「告白?」

「なんの話をしてるんだ実乃里」

「ううん。こっちの話、瞳ちゃんたちは気にしないで」


 いきなり大声を上げた優に葵と瞳は注目を向ける。

 葵と瞳に話を聞かれたくなかった実乃里は適当に誤魔化す。


「……告白ってどういうこと?」


 質問の意図が分からない優は実乃里に耳打ちをする。


「だって中村さんと楠先輩、良い雰囲気じゃん。両想いじゃないの?」

「両想いっ」


 また突拍子もない言葉に優は大声を上げる。


「両想い?」

「実乃里、だから一体なんの話をしてるんだ」

「秘密」


 再び、優は葵と瞳から注目を向けられるものの、実乃里は強引に誤魔化す。


「……どうして私と楠先輩が両想いって発想が出てくるの」

「だって二人とも凄く良い雰囲気だし、スキンシップも多いし」


 今まで意識したことがなかったが確かに葵はスキンシップが多い。


 だから優は葵のことをスキンシップが多い先輩だと思っていた。


 別に優も葵からのスキンシップは嫌ではなかったため、特段意識していなかった。


「スキンシップなら倉木さんや木村さんともするけど」

「まぁ……それはそうだけど」


 確かに葵にもスキンシップをされるが、それは葵だけではない。

 実乃里や愛音ともスキンシップはする。


 それを指摘された実乃里は言葉を詰まらせる。


「ごめんね、私の勘違いかも。変なこと言ってごめんね」

「ううん、別に大丈夫だよ。それに楠先輩が私を好きになるなんてあり得ないよ。楠先輩は学校一の人気者で私はモブだから。全然釣り合わないよ」


 別に自虐ではなく優は本心でそう思っている。


 葵は学校一の人気者である。


 勉強もできて運動もでき、顔も良くて性格も良い。


 それに胸も大きい。


 天は二物を与えずということわざがあるが、全てを与えられてしまった女の子、それが楠葵である。


 それに比べて優はなにも誇れるところがない、普通の男子高校生である。


 葵から好かれる要素なんてどこにもない。


「中村さん、実乃里ちゃん。それそろ帰るわよ」


 葵に声をかけられてこの話は一旦中断される。


「はーい」


 葵に呼ばれた優は葵の元へと向かう。


 実乃里はなぜか釈然としない顔をしていたが、追及できる雰囲気ではなかった。

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