第27話 ……私も楠先輩のことは、先輩ですけど……と、友達とも思ってます」
最初は異性の先輩ということもあり緊張していた優だが、最後の方は緊張は全くなく、まるで同級生と遊んでいるかのように気兼ねなく遊んでいた。
「あっ、あそこに倉木さんと西条先輩がいます」
「えっ、どこどこ……あっ、ホントだわ。二人ともラブラブね」
観覧車に乗りながらふと下を見ると瞳と実乃里を見つける。
二人ともラブラブカップルで、実乃里が瞳の腕に抱き着いて笑っており、その実乃里の頭を瞳が優しい表情で撫でていた。
葵もラブラブな瞳たちを見たいのか、優の方に移動し優の顔に顔を近づけて下を覗き込み葵も瞳たちを見つめる。
葵のきめ細かい肌に、長いまつげ。
葵の髪から漂ってくるローズの香りが優の鼻腔をくすぐる。
本当に良い香りである。
こんなに可愛い女の子の顔が近くにあったら、男の娘なら全員意識して脈拍が上がる。
「あの~楠先輩」
「どうしたの中村さん」
「ちょっと顔が近いです」
「あっ……ごめんね」
これ以上、葵の顔が近くにあるのは精神衛生上良くないと判断した優はそれを指摘しようと葵に話しかけると、葵が優の方に振り向く。
振り向いたせいでさらに葵の顔がドアップになる。
優の顔に葵の吐息がかかる。
夕日が観覧車の中に差し込み、幻想的な雰囲気を作り出している。
一瞬、二人は見つめ合う。
その距離の近さに気づいた葵は気まずそうに離れる。
「いえ、別に嫌ではないです」
これは優の本心である。
ただドキドキして優の精神衛生上良くないだけである。
「高校最後のゴールデンウィークも終わっちゃうわね」
再び優の向かいに座った葵が名残惜しそうに呟く。
「楠先輩は高校三年生ですもんね。今年で高校生最後ですもんね」
「そうなのよ~。中村さんは高校一年生だから高校最初のゴールデンウィークだけど三年生の私にとってはこれが最後のゴールデンウィーク。早かったわ、高校三年間」
「ってまだ五月じゃないですか。まだ高校生活は終わってませんよ」
「中村さん、よく聞いて。高校三年生はあっという間よ。だってもう四月が終わって五月なのよ。体感的に一瞬で終わったのよ。高校三年生は本当に早いわよ」
高校一年生の優と高校三年生の葵では、今年のゴールデンウィークの重さが全然違う。
優はまだ二回残っているが葵は今年が高校最後のゴールデンウィークだったのだ。
名残惜しむ気持ちも分かる。
優も去年、中学最後のゴールデンウィークは名残惜しかった。
「それに受験もあるし。あまり遊べなくなるかも」
「確かに。大学に進学するなら受験は避けては通れない道ですからね。だから今のうちに遊んでおきましょう」
「中村さんの言うとおりね。遊べる時に遊ぶ。過ぎた時間を後悔するよりも未来の時間を大切にする。その方がきっと楽しいわ」
「ですです」
高校三年生ということは今年受験生ということでもある。
本格的に受験が始まるとなかなか遊べなくなるのは、去年受験生だった優も身に染みて分かる。
だから今は遊べる時に遊んで楽しい思い出を作る方が建設的である。
「それに来年も高校生じゃなくなるだけでゴールデンウィークはあるもの。来年も付き合ってくれるかしら、中村さん」
「楠先輩が卒業して私のことを忘れていなければぜひ、誘ってください」
「卒業しても忘れるわけがないわ。だって中村さんは友達だもの」
「……ありがとうございます。……私も楠先輩のことは、先輩ですけど……と、友達とも思ってます」
葵の言うとおり、高校を卒業したからと言ってゴールデンウィークがなくなるわけではない。
高校卒業した後も、また遊べば良い。
それに葵が優のことを友達だと思っていることが、とても嬉しかった。
優も葵のことを友達だと思っていたが、先輩ということもありなかなか言えなかったが葵が素直に『友達』だと言ってくれたおかげで、恥ずかしがりながらも優も葵に『友達』だと伝えることができた。
「……嬉しい」
葵は嬉しそうに頬に手を当てている。
照れる葵も可愛い。
その後も葵と他愛もない会話をしていると、いつの間にか係員が見えるぐらい観覧車が下に下りて来ていた。
「中村さん、下りる時足元に気を付けてね」
「はい」
「危ないから私が手を握ってあげるわ」
「……ありがとうございます」
観覧車を降りる時、葵が優に手を差し伸べる。
手を握って降りるのは少し恥ずかしかったが、葵の善意を無下にするわけにもいかずお言葉に甘えて葵の手を借りる。
そのおかげで無事、観覧車から降りることができた。
その様子を見ていた係員が、微笑ましそうな表情を浮かべていた。
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