第8話 ?またね?
「それじゃーせっかくだし中村さんの家まで送っていくね」
葵の感想も聞き終わり、これでお開きになると思った矢先の出来事だった。
葵が急に優の家まで送ってあげると言い出したのだ。
「べ、別に大丈夫ですよ」
優は申し訳なさそうに断る。
それに言っているセリフが男女逆な気がする。
「だって、また中村さんが危険な目に遇ったら大変でしょ。そばに私がいれば中村君のこと守って上げられるしね」
葵は可愛らしく優にウインクを飛ばす。
葵の言っていることは恥ずかしながら事実なので、否定できなかった。
そうして結局葵に送ってもらうことになった。
実乃里と帰り道が同じだったらしく、四人で帰路に着く。
「えっ、ここは中村さんのアパートなの」
「もしかして倉木さんも学生寮に住んでるの」
優の住んでいるアパートに着いた瞬間、二人して顔を見合わせて驚く。
優が住んでいるのは藤ヶ崎高校が管轄している学生寮である。
一階に六部屋、二階に六部屋、計十二部屋からなるアパートだ。
この学生寮は主に遠距離通学者のためのアパートである。
しかも驚くことに家賃、光熱費全て合わせて二万円。
破格の価格である。
この学生寮のほかにもあるらしく、中には下宿もあるらしい。
部屋はワンルームで、トイレお風呂付き。
学生寮とは言っているがほとんど一人暮らしに近く、男女一緒に住んでいるアパートだ。
「僕、二○一だけど」
「えっ、私二○二だけど」
まさかのお隣さん同士だった。
「同じクラスメイトが同じ学生寮のお隣さん同士。なんか運命を感じるわ」
葵が電波系な発言をする。
もしかして葵は夢見る少女なのかもしれない。
「あたしも実乃里の部屋に泊まりに来ているがまさか隣に中村さんが住んでいるなんて知らなかったな」
瞳がサラッと爆弾発言を落とす。
えっ、西条先輩って倉木さんと一緒に寝泊りしているの?
優は瞳の発言を聞いて変な妄想をしてしまう。
優だって年頃の男の娘だ。
異性が同じ部屋で泊まっているというシチュエーションを考えるとどうしてもエッチな想像をしてしまう。
「瞳。まさか実乃里ちゃんにエッチなことしてないでしょーね」
葵が冷たい目で瞳を睨んでいる。
きっと葵も生徒会長としてまた、親友として不純異性交遊をしてないか心配なのだろう。
「べ、別に実乃里とはなにもしてないぞ、ホントだぞ」
明らかに瞳の目が泳いでいる。
これは葵でなくても分かる。
誤魔化し方が下手だった。
すると、無言で瞳にお尻を蹴る実乃里。
きっと、そういうエッチなことしているって知られて怒っているのだろう。
見ている優ですら痛そうに思える。
案の定痛かったのか、瞳はお尻を押さえて蹲る。
「もうー瞳ちゃんなんて嫌い」
「ん……ちょっと待ってよ実乃里―」
実乃里はプンスカ怒りながら階段を上がっていく。
その後ろをみっともなく追いかけるのが瞳だ。
「まぁー、人様の迷惑ならなければこれ以上は私も注意はしないわ」
葵が頭を押さえて振っている。
葵の表情にも疲れが見える。
「ここまで送っていただきありがとうございます」
実乃里も瞳もいなくなったなのでここには優と葵しかいない。
そう思うと急に緊張してきた。
なので、無難に間を持たせるためにお礼を言う。
「いえいえ、今日はなにごともなくて良かったわね」
「はい。ありがとうございます楠先輩」
「うん、それじゃーまたね中村さん」
「はい、さようなら」
家まで送るというミッションは終わったので葵は手を振って家に帰っていく。
?またね?
優は葵の別れの言葉に違和感を抱く。
でも、夕日がまるでアイドルに降りかかるスポットライトのようにに照らされている葵の姿を見るとどうでも良くなってきた。
だってそれぐらい今の葵は魅力的だったからだ。
優も葵が見えなくなると自分の自室に戻っていく。
きっと今頃、隣の部屋では瞳が実乃里に平謝りをしているに違いない。
そう思うとおもしろおかしくてつい、顔がにやけてしまう。
葵たちの交友のおかげで雄二の学校生活にも変化があった。
それはいつも一人で昼食を食べていたのだがその時、実乃里に一緒にたべようと誘われたのだ。
その他にも実乃里と一緒に登校したり、実乃里の友達と仲良くなったりもした。
もう一つは葵たちと一緒にお昼を食べたり、下校の時間が合うと一緒に下校することになった。
葵との食事も楽しくて少し緊張するが、一人よりはかなりマシな状況になった。
帰り道も葵が送ってくれるおかげで話相手ができ、帰り道ですら楽しかった。
新しい学校生活が始まって一ヶ月。
最初はボッチの優も少しずつ友達ができ始めてきた。
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