第5話 後輩をあまり苛めないの
次の日のお昼休み。
優は昨日のお礼を込めてシュガーラクスを作ってきていた。
もちろん、葵に渡すためだ。
「楠先輩食べてくれるかな」
優は口をリボンで結び、ラッピングされたシュガーラクスを持ちながら三年生教室に向かう。
もちろん、このシュガーラクスは手づくりだ。
優はお菓子作りが趣味だった。
作り方は簡単だ。
材料はフランスパンと無塩バターとグラニュー糖の三つである。
まずフランスパンを一センチぐらいに切る。
その間にオーブンを百三十度まで温める。
その後、フランスパンを電子レンジで一分ぐらい温め水分を飛ばす。
この時、電子レンジのターンテーブルにオーブン用のシートを敷いておく。
電子レンジで水分を飛ばしたら、水分が飛んでいるか確認するため叩いてみる。
この時、コンコンと乾いた音がすればオッケーである。
その次はバターを耐熱容器に入れラップをかけ、電子レンジで溶かす。
そのバターを刷毛でフランスパンの表面全体に塗っていく。
その後、バターを塗った表面にグラニュー糖をまぶしていく。
オーブンの天板にグラニュー糖をまぶした面を上にしてフランスパンを並べる。
だいたい、百三十度ぐらいで十五分が焼く。
最後に薄く焼き色がつけば完成である。
優自身も一枚味見してみた。
焦げた苦味もなく、ちょうど良い感じで焼けているし、サクサクして甘くおいしかった。
優はそんな手づくりシュガーラクスを持ち、緊張しながら葵の教室に向かう。
学年は分かるのだが、組が分からない。
ここは虱潰しに探していくしかないだろう。
優は緊張しながら三年一組の教室から探していく。
やっぱり後輩一人で先輩の教室に行くのは緊張する。
「高校三年生って大人っぽく見えるな~」
たった二歳しか変わらないのに、高校一年生の優にとって高校三年生は大人に見える。
十八歳で成人だと思うと余計にそう思うのかもしれない。
そして三年二組の教室を覗いたとき、目的の人物を発見する。
葵は今から昼食を食べるところだったらしく、後ろの席の女子生徒と机を合わせて保冷バッグからお弁当を出しているところだった。
「し、失礼します」
優は緊張のあまり噛んでしまう。
むしろ緊張しない一年生の方が少ないだろう。
優が三年生の教室に入ると、それに気づいた先輩たちが視線を向ける。
好意的なものもあれば、無関心なものもある。
そして『なぜ、後輩が先輩の教室に来てるの?』というような視線が一番きつかった。
でもここには葵がいる。
もし他の先輩になにか言われても守ってくれるかもしれない。
そう思うと、勇気が湧いてくる。
それでも緊張はするもので、優の動きはカクカクとしてぎこちない。
そしてやっとの思いをして葵の目の前に着くと、葵も優の存在に気づいた。
葵は驚いたように目を見開いている。
その葵の反応を訝しく思った葵の友達も優の方を振り返る。
「どうしたの中村さん」
最初に口を開いたのは葵だった。
葵はご飯を食べていたため口を手で押さえながら言葉を話す。
「知り合い?」
葵の友達は首を傾げて葵に質問する。
突然やって来た後輩に少し警戒し困惑している。
「うん、昨日一緒に帰ったんだよ」
「葵が高校一年生の男の娘と……未成年に手を出すのは犯罪よ」
「手なんか出してませんー。それに同じ高校生だからセーフですー」
葵の同じ高校生だからセーフは良く分からないが、黙っておこう。
優自身もよく分からない。
「すみません、勝手に訪ねてしまって」
どう反応すれば良いか分からなかった優は二人に謝罪する。
「ううん、別に大丈夫よ」
優しい葵は別段気にしていないようだ。
「それよりも瞳は中村さんと初対面だよね」
「まぁー初対面だけど」
「二人ともせっかくだから自己紹介したら」
これは名案とばかりに手を叩く葵。
優はその葵の言動に困惑し、瞳と呼ばれた女子生徒の方を見る。
戸惑っていたのは雄二だけではないらしく、瞳の方を見た瞬間に目が合う。
そのまま視線を合わせること数秒、お互い気まずくなったためどちらともなく視線を逸らす。
これも人見知りの弊害である。
その後葵の勧めもあり、お互い自己紹介する。
葵の友達の名前は西条瞳(さいじょうひとみ)というらしい。
学年はこの教室にいることからも分かる通り三年生の女子である。
座っているので正確な身長は分からないがきっと、優よりは大きいだろう。
身長百六十六センチ。
黒髪のセミロングで肩よりも少し長い。
葵とは違って少しくせっ毛のせいか、毛先にかけてゆるくウェーブを描いている。
目は少し釣りあがっていて少し、きつそうな印象を与える。
肌も葵と負けないぐらい潤っていているが、唇は少し薄い。
胸の方は制服の上から分かる通り、凹凸がない。
きっとAぐらいしかないだろう。
優の第一印象は少し性格がきつそうだけど勉強できる女子生徒だった。
「それで中村さんは葵になにか用なの」
食事を中断されたことを怒っているのか、言葉に棘がある。
それだけでも、優は弱ってしまう。
先輩の女子生徒にすごまれたら、誰だって畏縮してしまう。
「こらっ、瞳。そんなに中村さんを睨んで。後輩をあまり苛めないの」
先輩にいびられている後輩を助けてくれようとしたのか、葵が優の味方になってくれる。
葵の優しさが身にしみる。
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