第3話 三年も離れているとますます楠先輩が大人っぽく感じます
「どうして私のオススメなんか聞きたいですか。だって今日初めて話したばかりですし」
優の素朴な疑問だった。
そもそもどうして葵は、今日話したばかりの後輩のオススメなんか聞きたいのだろうか。
優には理解できない。
葵はしばらくの間考え込むと、ゆっくりと話し出す。
「う~ん……中村さんのことが気になるからかな。休み時間会った時の中村さんはなにか思い詰めている顔をしてたから」
そんなに顔に出ていただろうか。
優は思わず自分の顔を触る。
それを見た葵は自分の考えが正しかったことを確信する。
「中村さんはまだ入学したばかりだから不安もたくさんあるだろうと思って。例えば友達とか勉強とかかな。私も高校一年生の頃は勉強についていけるかとか、友達ができるかなとか悩んでたから」
「えっ、楠先輩も悩んでいたんですか」
「私も入学した頃はね。でも今は友達もできたし、勉強も付いていけてるからあの時の悩みは杞憂だったんだけどね」
葵も入学当初は優と同じことに悩んでいたことに、優は驚きの声を上げる。
生徒会長でみんなから憧れている楠葵。
今の葵しか知らない優は全く想像できなかった。
そんな葵は今、罰の悪そうな顔を浮かべている。
「だから中村さんも大丈夫よ。もし、友達ができなくても勉強が分からなくても先輩の私がちゃんと教えてあげるわ。先輩の私を頼ってちょうだい。それに私、生徒会長だから」
自信満々に胸を叩く葵。
入学式の時、あんなにも凛々しく話していた葵だったが実際話してみるとかなりフレンドリーな先輩だ。
「ありがとうございます楠先輩」
「いえいえ、お気になさらず。それじゃー中村さんのオススメでも教えてもらおうかしら」
葵の言葉に優の肩の荷が下りる。
「私のオススメは―――」
その後、優は葵に自分が好きな漫画やアニメ、ラノベなどを話していく。
今はあまりアニメとか見ていないと言っていたが、別に嫌いになったわけではなく自然と見なくなっただけで優がオススメすると興味津々に葵は優の説明を聞いていた。
オススメするたびに葵が良いリアクションをしてくれるので、優自身も教えがいがあった。
「久しぶりにこういうのに触れたけど、やっぱり楽しいわね」
「それは良かったです。もし、良かったら漫画とか貸すのでたまに読んでみますか」
「えっ、良いのっ。読みたい。今度貸して」
「はい。でも私たちの学校って勉強に使う物以外に持ち込みってオッケーなんでしたっけ」
「大丈夫よ。そういう規則とかないから。生徒会長の私が言うのだから間違いないわ」
生徒会長がそう言うのなら問題ないのだろう。
アニメショップを出た二人は帰路につく。
葵の隣を歩いていて思ったが、葵はかなり大きい。
だが、威圧感はなくむしろ心地良かった。
「楠先輩は高校三年生だから受験生ですね」
「そうなのよ~。今年一年で高校生が終わると思うとなんだか寂しいわね」
「私はまだ入学したばかりなので、まだ分かりませんが去年中学生だったので、それと同じ気持ちだったら分かります」
「そっか~中村さんは先月まで中学生だったんだよね~。若いわっ」
葵は高校三年生だから今年で高校生は終わりである。
一方、優は入学したばかりなのでまだまだ高校生の時間は残っている。
葵は残り一年しか残っていない高校生活を惜しむような声を出す。
「楠先輩もまだ若いでしょ。高校生なんだから」
先月まで中学生だった優を見て若さに当てられている葵に優はツッコみを入れる。
「そうだけど私、もう十八で大人になったからその分歳を感じるわ。高校生なのに。同じ同級生といても先に自分だけ大人になっているのは変な感じ」
成人年齢が二十歳から十八歳に引き下げられて世の中は大きく変わった。
十八歳で大人になり、タバコやお酒なども飲めるようになった。
葵の言うとおり、同じ教室でしかも同級生なのに大人と子供が入り乱れているのはなんだか変な感じがする。
「おめでとうございます。お誕生日終わってますけど」
「ありがとう。でも大人なのに制服着てるのはなんだが変な感じがするわ。高校生なんだから別に変じゃないんだけど」
葵の言うとおり響きだけ聞けば、大人が制服を着ているのはなんだが変な感じである。
二十歳の大人が高校の制服を来ていれば間違いなくコスプレだが現役の高校生が制服を着ることはなんの違和感もない。
「ちなみに中村さんの誕生日はいつなの」
「私は三月二十一日です」
「えっ、そうなの。私四月二日。私と中村さんは約三年も歳が離れているのね……」
誕生日を聞かれた優は素直に答えると、葵は自分と優の年齢差を知り唖然としていた。
学年的には二年しか離れていないが、年齢的には三年も違う。
「三年も離れているとますます楠先輩が大人っぽく感じます」
「そう言われると私も嬉しいわ。人生の先輩として分からなかったことがあればなんでも相談してね。私、先輩だから」
十五歳の優にとって十八歳の葵はとても大人っぽく見えた。
成人年齢が変わり、十八歳の葵はもう立派な大人だ。
同じ高校生なのに、大人っぽさや色っぽさを感じる。
葵は世話焼きな性格をしているのか、胸に手を当てながら優のことを気づかってくれる。
「なんかそう言ってもらえると心強いです」
葵の言葉はクラスメイトのグループに入り遅れた優にとってとても心強い言葉だった。
その言葉を聞いた葵は微かに笑みを浮かべる。
その後も優は葵と他愛もない会話をしながら歩く。
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