第38話 最強の二人
「ロベルトが、混血だって話をしただろ? 半分を担う鳥族は、空も飛べるし判断力も高い。それにすごく賢いんだけど、記憶力に乏しい種族でさ。ロベルトは人型が基本なんだが、特徴は鳥族の方を、強く引き継いでる」
魔法における理論は、普通は得意不得意があって全属性を操れる魔法使いはいないんだけど、ロベルトはそういうのなくて全方位完璧なんだ。
けど、実際使う時の発動条件である呪文が上手く覚えられないみたいで、常に魔導書を持ち歩いてる。
続けられたマティスの言葉を受けて、大きな本を手放さないロベルトの姿が思い出された。
それ自体が武器の代わりなのかと思っていたけれど、どうやらロベルトにとってそれは、虎の巻のようなものらしい。
例えて言うなら、文法は完璧に覚えているけれど、単語が覚えられなくて常に辞書を引いているというところだろうか。
魔法に使う言語は、普段使う会話言語とは違って、もっと複雑で難しい組み立てであるらしい。
理論を完璧に把握していて、全部の属性を操る事が出来るというだけでも、本来は凄い事なのだ。
「ちなみにリディは、基本的に魔法使いって言うより研究者だから、使える魔法自体は少ない。魔力は強いから、決められた図式がある結界を、世界全体に張る事は出来るけど、ロベルトみたいにいろんな種類の魔法を使うことは出来ないんだよ。ちなみに一番得意なのは、魔導書の編纂」
「それって……」
「喧嘩せずに協力したら、最強の二人なんだけどなぁ」
視線を向けた先では未だにロベルトとリディの喧嘩は続いていて、「残念ながら、あれだから」と、マティスは肩をすくめている。
陽奈子がマティスに説明して貰っているこの短い間に、既にかなりヒートアップしているが、マティスはもうすでに止める役割を放棄し始めている様子で、言葉をかけようともしなかった。
陽奈子への解説を優先させてくれているとも取れるけれど、恐らく仲介に疲れたという心情の比率がかなり大きいような気がする。
恐らく「放っておいてもここまでは大丈夫」という線引きを、心得ているのだろう。
それに何より、信頼関係があるとわかった今は、当人達が超えてはならない境界線はわかっていて、やり取りを楽しんでいる様にも見える。
「あの……リディさんが、男の人だというのは?」
「あぁ。なんか研究の途中で、美を追究したらこうなるんだとかなんとか……出会った頃は、確か普通に男の格好してたんだけど。いつから「あぁ」なったんだったかな?」
大した事でもなさそうなマティスの呟きから、リディとマティスの深い関係性を感じながらも、疑問はつきない。
「でも、リディさんはすごくスタイル良いですし。あの、胸とか……」
まず最初に見た時、一番驚いたのはスタイルを強調する服装とその美しさだったから、本当に男性らしいという明確な答えをもらっても、まだ受け止めきれないでいる。
確かに背は高いと思ったし、声も女性にしては低いと感じた。
けれど、姿や仕草は完全に女性のそれだったし、陽奈子は何一つ勝てるところがないと凹んだのに。
もし今、陽奈子がドラゴンの姿じゃなく、元の女子高生だったとしても、悲しいが勝てない自信がある位には完璧な美女である。
負けを認めた相手が男性だったなんて、もうどうしたらいいのか。
陽奈子はこの先、マティスに好かれるためには、どこに自信をつけていけば良いのだろう。
「それも研究の成果とかなんとか言って、段々あんな感じになってたんだよ。顔とか声とかは変わってないから、変化魔法とかではないと思うんだよなぁ。まぁ、リディはリディだしな」
戸惑いもなく変化を受け入れたらしいマティスの懐の深さと共に、顔が変わっていないと言うことはリディさんが美人なのは元々なのだと知って、勝ち目を完全に潰された気がした。
例え男同士だったとしても、マティスとリディさんがお似合いなのは変わらない。
本人が気にしていないのなら、もう陽奈子の入り込む余地なんてどこにもないではないか。
(リディさんと張り合おうって少しでも思った私が、間違っていたのかもしれない)
「あの、マティスさんとリディさんって……」
「なぁに? アタシの話?」
「リ、リディさん」
つい先ほどまでロベルトとの言い合いをしていたはずのリディが、突然マティスと陽奈子の間に割って入って来た。
どうやらロベルトとの喧嘩よりも、陽奈子とマティスの会話の方が気になったらしい。
ぎゅっとマティスの腕に抱きつくその姿は、男性だと聞かされた後でも、やっぱりお似合いだと感じる。
「マティス様から、離れろ」
「何よ、いつもいつも邪魔するんだから!」
ぎゅっと胸が締め付けられて俯いた陽奈子の気持ちを、まるで慮ってくれるように、ロベルトがマティスとリディの間に割って入って、くっついていた身体を無理矢理引き剥がす。
ロベルトは最初から、マティスを好ましく思う陽奈子の気持ちに薄々気付いていた様子だったので、もしかしたら圧倒的に劣勢の陽奈子を不憫に思って、手助けをしてくれたのかもしれない。
不服そうなリディの言葉は当然だと陽奈子も思ったけれど、それでもどこかほっとしてしまった。
「あーもう、お前らが一緒にいると面倒くせぇ。さっさと行くぞ」
どうやらロベルトとリディの間にある氷が溶ける日は、遠いようだ。
二人ともきっとマティスの事が大好きで、マティスの一番になりたくて、けれどお互いの力を認め合っているからこそ、その能力を信頼しているからこそ、嫉妬に似た感情が爆発するのかもしれない。
きっと二人は、似たもの同士なのだ。
マティスの言うとおり、協力し合えば補え合えば、きっと最強の二人になる。
それが出来ないからこそ、ロベルトとリディらしいとも言えるのかもしれないが。
マティスにせっつかれて、リディに言葉を返そうとしていたロベルトが、言い争う姿勢から一転、ふわりと再び真っ白で巨大な鳥に変化する。
ロベルトにとっては、マティスが最優先なのは揺るがないらしい。
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