第25話 空に浮かんだ古城を後に
「そのリディさんという方に会えば、何かわかるんでしょうか……」
「ヒナの話を聞く限り、自分の意思でこの世界に来たとはとても思えないから、召喚されたと考えるのが妥当だろう。となると、リディの専門分野だからな」
「何者かが、陽奈子を呼び寄せたと考えると、目的が気になりますね」
「リディは世界全体に結界を張ってるから、何か異常な力が働いたのなら異変に気づいているはずだ。原因を特定出来なくても、異常が発生した場所くらいわかるさ」
「正直、リディにはあまり会いたくはありませんが……確かに一度、彼女に確認する必要はありそうです」
(ロベルトさんとリディさんという人は、あまり仲が良くないのかな?)
ぼそりと続けたロベルトの言葉を、発達したドラゴンの耳は難なく捕らえた。
ロベルトは嫌そうにしているが、必要だと判断したのか、はたまたマティスが行くと言っているからか、一緒に来てくれるつもりでいるらしい。
マティスは陽奈子に協力すると宣言してくれたけれど、正直ロベルトには「ここでお別れだ」と言われても、引き留める術なんてなかった。
マティスとロベルトは、主従関係にはある様だし、いつも一緒にいるような気がする。
けれど、陽奈子が二人に会ってから、まだほんの数時間程しか経っていないので、二人の関係を的確に判断するにはまだ浅過ぎる。
マティスは一人で何でも出来そうなタイプだし、絶対に二人でいないと駄目だという事はないはずだ。
危険を顧みず突っ込んでいきそうなマティスの側に、冷静そうなロベルトがいるだけで安心感が違うのだけれど、陽奈子の中のイメージとは違う種族っぽいとはいえ、ロベルトは魔族である。
出会い頭に、ドラゴンである陽奈子を的と見なして攻撃を仕掛けてきたのは、マティスではなくロベルトだ。
冷静なのか好戦的なのかは、まだ判断がつきかねた。
二人の会話から推察するに、マティスが「ついて来い」と言えば、ロベルトに拒否権はないような気もするが、助けて貰う側の陽奈子がそれを望むのは、あまりにも自分勝手である。
だからこそロベルト自身の意思で、陽奈子を助けようとしてくれているのがわかって、単純に嬉しかった。
「決まりな。ヒナも、それでいいだろ?」
「もちろんです」
陽奈子が拒否する理由なんて、どこにもない。
陽奈子一人では、帰る方法どころかこの先どう生きていけば良いのか、何一つ見通しが立っていなかったのだ。
少しでも今の状況から抜け出すヒントがあるというのなら、藁にもすがる気持ちである。
「よし。じゃあ案内するから、ヒナは俺たちの後に続いてくれ。ゆっくり飛ぶから、離れるなよ」
「え? 飛ぶ?」
「ロベルト」
「かしこまりました」
陽奈子の疑問が最後まで言葉になる前に、ロベルトの身体がみるみるうちに変化していく。
やがて数分も経たない内に、ロベルトの身体は、巨大な鳥へと姿を変えていた。
陽奈子が実際に見たことのある大きな鳥と言えば、鷲や鷹辺りが最大だ。
けれどロベルトのその姿は、それよりももっとずっと大きくて、人を運べる位の怪鳥と呼べる大きさだった。
かといって今の陽奈子のようなドラゴンとは違う、とても綺麗な羽を持った、真っ白な鳥がそこにいる。
ロベルトの、凜としたイメージそのままの真っ白な姿は、陽奈子の巨大で恐ろしいドラゴンの姿と違って、とても美しい。
呆然とその変化を眺めている陽奈子の前で、マティスが颯爽とその背に乗り、白い鳥になったロベルトが、ふわりと優雅に飛び立つ。
「ゆっくり飛ぶから、離れずについて来い」と言われた意味がやっとわかって、慌ててその後を追うように、陽奈子も巨大な翼を必死に動かせて巨体を浮かせる。
二体の大きな羽ばたきに、古城が震えた。
近くで休んでいたのであろう小さな鳥たちが、驚いたように一斉に飛び立つ。
だが三人が立ち去った後は、まるで何事もなかったかのように、空に浮いた古城はすぐに静寂を取り戻していた。
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