第22話 種族の差異

(つまり、ロベルトさんは魔族……って事になる?)


 魔族と言えば、陽奈子の中では世界を滅ぼす魔王軍的な種族のイメージだ。

 最終的には、「勇者に倒されて、世界は平和になりました。めでたしめでたし」といった、わかりやすい悪役を想像していた。

 けれどもしロベルトが魔族だというのなら、この世界において魔族という存在は、そういうものではないのかもしれない。


 マティスが魔法を使うところは、今のところ見てはいない。

 だが、ロベルトとの間にある主従関係のような立ち位置を考えると、もしかすると王子様や勇者ではなくて、魔王と呼ばれる存在である可能性の方が、大きかったりするのだろうか。


 そんな不安がふとよぎったが、ドラゴンである陽奈子への優しい対応を見る限り、マティスは陽奈子のイメージする魔王とはかけ離れている。

 どう見ても王子様でしかないのは変わらないから、あまりピンとは来なかった。


 例えばこの世界では、人間と魔族は普通に共存していて、種族の垣根なく仲良くしているのだとしたら。

 人間のマティスと魔族のロベルトという組み合わせも、別に特別な事ではない。


 物語の中の世界では、人間と魔族が争い合っている事が大多数なので、勝手に殺伐とした世界を思い描いていた。

 けれど、陽奈子の予想とは裏腹にこの世界は、優しくて穏やかなのかもしれない。


(人間と魔族は敵対なんかしていなくて、手を取り合って生きているのだとしたら……種族の間に、大差はないのかも)


 二人の説明を聞きながら、世界の常識を飲み込んで……そして、ぞっとした。

 もし、人間と魔族が仲良くしているのだとしても、ドラゴンは別なのだと気付いたから。


「ドラゴンは、人間でも動物でも魔族でも、ないんですよね?」

「あぁ。存在する個体が希少という事もあるが……ドラゴンはどの種族にも属さない、未知なる第四の種族と言うべき存在だ」

「昨日、人里近くで襲われたんです。そして、今日はロベルトさんにも攻撃された」

「あの時は、突然申し訳ございませんでした」

「マティスが助けてくれたので、怪我もありませんでしたし……って、そうじゃなくて」


 素直に謝罪するロベルトに、慌てる。

 謝って欲しくて上げた話題ではなくて、確認しておきたい事があったから、事実を口にしただけだ。

 ぶんぶんと首を左右に振って、恐る恐る質問を続ける。


「お話を聞く限りロベルトさんは、魔族……で、良いんでしょうか?」

「そうですが?」

「つまりドラゴンは、人間にも魔族にも問答無用で攻撃されるだけの理由がある存在だ、ってことになりますよね?」


 昨日の人間の騎士様ご一行も、魔族であるロベルトも、陽奈子の話など最初から全く聞く気もなく、「ドラゴンだから」という理由だけで、敵意をあからさまに向けてきた。

 無作為に暴れているのならばともかく、陽奈子に全く戦う意思はなかったにも関わらず、だ。

 本来ならマティスのようにまず声をかけて、話が通じる相手かどうか確認してしかるべきだと思うのだけれど、そうはなっていない。


 むしろ、マティスの行動の方がこの世界では特異だと考える方が自然なのだろう。

 つまりそれは、ドラゴンという種族そのものが、この世界では「悪」と判定されているという事だ。


 陽奈子のイメージする様な魔王は、この世界においては魔族ではなく、ドラゴンに当てはまる名詞なのだとしたら、納得も出来る。

 となると、この世界においての一番の悪者は、陽奈子という結論に達してしまうのだけれど。

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