第20話 仲の良い二人

「貴方が何を考えているのか、なんとなく察しはつきます。ですが今は、状況説明をお願い出来ますか?」

「ご、ごめんなさい」

「なんだよロベルト。俺が不在の短い間に、随分ヒナの事を理解したんだな」

「マティス様が、鈍感なのです」

「どういう意味だ?」

「だから、彼女は……」

「なんでもありませんから!」


 このままではロベルトが、マティスに陽奈子の気持ちを告げてしまいそうで慌てる。

 マティスが無自覚にモテる事がよくあるのか、「はっきり言わないと通じないぞ?」と、ロベルトに暗に視線で告げられたような気がしたが、陽奈子はぶんぶんと首を横に振った。


 元より、マティスとどうにかなれるなんて思っているわけではない。

 それに、会ったばかりの陽奈子から、突然に想いを告げられても困るだけだろう。

 実際のところ陽奈子自身も、この世界に来て初めて優しくされたマティスに、依存に似た感情を抱いているだけかもしれないというのを、否定もできない。


 知らない世界に突然飛ばされ、凶悪なドラゴンとなった身体を持て余し、人間や魔物達に敵意を向けられ襲われて疲弊しているところに、突然王子様みたいなかっこいい男の人が現れて優しくされたら、大概の女の子が勘違いしてしまうだろう。

 マティスが優しいのは、きっと「陽奈子だから」ではなく、誰に対しても平等なものに違いない。


 自分の立場や状況、それにこれから先の事をきちんと見据える事が出来た後に、改めて自分の気持ちと向き合っても、遅くはないはずだ。

 今はまず、好きとか嫌いとかそういう恋愛感情は脇に置いておいて、自分ではどうしようもないこの状況を打破する為に、力を貸してもらう努力をする方が先なのである。


「よくわかんねぇけど、ヒナが良いって言うなら、まぁ良いか」

「私は元々、話を先に進めていただきたかっただけですので、どちらでも構いません」

「はい、そうですよね。ごめんなさい」

「ヒナが謝る必要はないだろ。元はといえば、お前が……」

「そうですね、私が悪かったです。申し訳ございません」


 延々ループしそうな会話が再発しそうな気配を感じたロベルトが、打ち切るように先んじて謝罪する。

 マティスは納得していない顔をしていたものの、謝罪の言葉を向けられてしまっては口を紡ぐしかなかったのか、非難がぴたりと止まる。


(こういうの、よくあるのかな? 仲良さそう)


 ロベルトの慣れた対応に感心しながら、「このやり取りまでが、自己紹介だったのかも」と苦笑する。

 微笑ましく思っていたら、二人の視線が陽奈子に戻ってきた。

 その表情は、既に真剣な話をするモードへと移り変わっていて、陽奈子も気を引き締める。 


「それじゃ、腹ごしらえも自己紹介も終わったことだし、ゆっくり話を聞かせてくれるかな?」


 陽奈子を受け入れ、話を聞いてくれる姿勢が嬉しい。

 頷き返した陽奈子の心は、昨日と違って随分軽くなっていた。

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