第8話 古代文明の跡
それから更に随分と時間が過ぎ、夜も更けた頃。
疲れ果てて、もう本当に「戦う事になるかもしれなくても地上に降りるしか手がない」と、そう決断しそうになったその時。
目が覚めた時に最初に見た、広い空の中にぽつんと浮かんでいた、謎の石造りの建物と同じような建物が、突然目の前に現れた。
浮かんでいるという不可解さを除けば、寂れて今にも崩れそうな古城らしきその建物は、陽奈子の身体を休ませるには、絶好の場所のように思えた。
ボロボロという印象は否めなくて、とても丈夫そうな場所だとはとても言えなかったけれど、広さだけを見れば十分この巨体を、受け入れてくれそうだ。
きょろきょろと辺りを見回してみるが、キメラのような空飛ぶ魔物の姿も見かけない。
鳥達が数羽飛んではいるが、巣を作り集団で生活している、いわゆる縄張り争いの発生する場所の様には思えない、閑散さだった。
(も、もうここしかない……!)
よろよろと落ちるように着地したそこは、真っ暗で建物全体が蔦の様なものに覆われていた。
数十年、もしかしたら数百年単位で、使われていないのではないだろうかと想像する。
何か、目に見えないものが出そうで恐ろしかったけれど、その「何か」というのは、よくよく考えると今の自分の姿である事が一番しっくり来てしまう。
バルコニーか何かだろうか、ぽっかりと空いた空間に、崩れ落ちる勢いで身体を滑り込ませた。
ほんの少し抱いていた、「着地した途端に、ガラガラと音を立てて城が崩れてしまったらどうしよう」という不安も、どうやら取り越し苦労だったようで、ほっと息をつく。
降り立った場所から城の中へと、視線を向けてみる。
使われていた当時は、ガラス等がはまっていた大きな窓なのか扉なのか、この場所と部屋の中を遮っていたらしいそれは、すでに機能を失って風に煽られ、小さく開いたり閉まったりを繰り返していた。
それが余計に、古城の寂しさを増長させたけれど、目を細めて薄暗い部屋の中を覗いてみる。
見知った形のベッドや机、クローゼットの様なものが、古びてはいるが原型を止めていて、どうやらここは恐ろしい魔物の巣窟ではなく、以前は人間が住んでいたのではないかと思われる姿だった。
こんな空中に浮かぶ古城に、どのように人が辿りついて、どう生活していたのか想像もできない。
誰かが暮らしていた形跡がある事と、寂れてしまっているという事実から、ゆっくりと廃れていったのだろうと予想が付く。
ここに辿り着くまで、少なくない時間をかけたと思うけれど、ドラゴンだけではなく空を飛ぶ飛行機のような人工的乗り物とも、一切出会わなかった。
空を飛ぶ魔法でも存在するのなら話は別だが、この場所で生活するには、空飛ぶ機械もしくは、乗せて運んでくれる優しい動物の存在が不可欠だろう。
ドラゴンや、キメラといった普通ではない生き物が存在しているのだ。
魔法くらい普及していてもおかしくはないけれど、この世界で最初に出会った敵意むき出しの騎士様率いる人間達の集団に、それらしい動きをする人物は見られなかった。
例え使える人がいるとしても、全員が全員魔法を上手く扱える訳ではないのだろう。
魔法使いとしての訓練が必要なのか、生まれながらに能力が必要なのかはわからないが、誰にでも使えるものではないのかもしれない。
となれば、やはり人を運べる存在が何かなければおかしい。
それに、この不思議な浮かぶ古城を建てる、高等な技術も必要だと思う。
もしかしたら太古の昔、この世界に存在していたのは、今地上に住む人たちとは種族が違ったのかもしれない。
遙か遠い昔、今よりもずっと発達していた文明が、存在していた可能性はある。
解き明かされていない滅びた古代文明は、元いた世界にだってあった。
人を運べる程の大きさをもつ空飛ぶ生き物、例えば今の陽奈子のようなドラゴンと意思疎通出来る人達が、当時生きていた人の中に沢山いたのかもしれない。
今現在の状態から考えて、この場所で生き残りなど期待は出来ないかもしれないけれど、そういう人達がもしかしたらこの世界の何処かに、まだ存在しているかもしれないという、僅かな希望が湧いて来る。
どんな姿でもいい。せめて、言葉が通じる誰かと会いたかった。
異世界に飛ばされて、「目が覚めたらドラゴンになっていた」なんて、訳のわからない状況をわかってもらえるとまでは思わない。
何でも良い、少しだけでも良いから、誰かと会話をしたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます