第3話 平原への着地
(どこかで、休みたい……)
本当はわめきちらして、弱音を全部吐き出してしまいたかった。
けれど、それらを言葉に乗せようとすると、また先ほどの様な自分の声とは程遠い「咆哮」になる事は目に見えていたので、心の中で呟くに止める。
辛い気持ちを、声にさえ出せないのは、結構きつい。
言葉にして吐き出す事が、どれほど大きなストレス発散になっていたのかを、陽奈子は今更ながら知る事になった。
(あの辺りなら、大丈夫かな?)
海の上から抜けた先に大地が見えた事に、まずはほっとする。
この世界が、空と海と空に浮かぶ謎の地だけで構成されていなくて、本当に良かった。
ほんの少しだけでも、自分の知っている世界と同じものがあるだけで、安心感は抜群に違ってくる。
上空から確認する限り、人の営みを感じられる場所もいくつかあった。
人が暮らしているとわかったら、今度は「何故人間のままではなくドラゴンになっているのか」というわけのわからなさで、理不尽さが募るのだがけれど、今は文句を言っている場合ではない。
港らしき街を超えて、街道からも逸れ、人里離れた場所にあると思われる平原に目標を定める。
今は忙しなく動かしている巨大な翼を少しずつ緩やかにして、高度を下げていく。
ドラゴンどころか、自力で飛ぶなんて体験をした事もないのだから、まず着地が上手く出来るかどうかが問題だ。
気がついた時には空を飛んでいたから、飛び方を気にする暇がなかったけれど、よくよく考えると墜落せずにちゃんと飛べていた事さえ、奇跡の様な気がする。
羽ばたきを緩めると上手く高度が下がり、目的とする平原は近そうだ。
途中までは良かったのだけれど、地面が近づくと急に怖くなってくる。
迫って来る大地に、身体からぶつかるのではないかと慄きながら、足をじたばた動かした。
テレビで見たパラグライダー体験ものの中で、確か着地した後も「そのまま走るイメージで」という様な事を言っていたような記憶が、微かにあったからだ。
飛び立つ際のアドバイスだった予感もするけれど、今思いつく動きがそれだけなので仕方がない。
日常的に見かける鳥達が、着地の度に足をばたつかせているイメージはなかったから、今回の例では役に立たない知識かもしれなかったが、何もしないでいる不安を払拭するには十分効果があった。
もし今の陽奈子の姿を誰かが見ていたとしたら、巨大な身体をしているくせに、随分不格好で不自然極まりない姿だと感じるだろう事は、簡単に予測できる。
けれど、刻一刻と迫りくる、大地にぶつかるかもしれないという恐怖には勝てなかった。
スピードが段々と落ち、大地に足が着いたと思った瞬間。
よたよたと身体をグラつかせながらたたらを踏んだが、なんとか目標の地点に降り立てた。
(よかったぁぁぁぁぁ……)
ほっとした途端、腰に力が入らなくなりそのままへたり込む。
降り立った場所は、大草原と言って良い広く豊かな場所だったので、身体には直接土が当たって痛いという事もなく、ふんわりとした感覚が疲れた身体には気持ち良い。
もしかしたら、この頑丈な身体はどこにぶつけても、大きな痛みは感じないかもしれないのだけれど、無事に済むならその方が良いに決まっている。
休むというよりは、座ったら二度と立ち上がれないという表現の方が、正しいかもしれない。
仮に、もしここに布団が敷かれていたとしたら、確実に倒れたまま動けなくなる事は明白だった。
今置かれたこの状況では、あるはずがない望みだったけれど、このまま少し眠るという案は案外良いかもしれない。
落ちて来る瞼に逆らわず、ゆっくりと目を閉じようとしたその瞬間、複数の声が耳に届いた。
しかもその内容は、陽奈子にとって全然優しくない、鋭い言葉の数々だった。
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