0426「ファンシー」

 詩人のペンギンが女性ファンと郵便配達員の男性に振り回されて、何か悟りを開くお話。


 なんだか物語を短くどういう内容だったのかを伝えるのって難しいな。そこを自分の感じた部分を抽出してまとめるという方法にするのか、客観的にみて大事だと思った箇所を重点的にまとめていくって感じにするのか。もちろんそのどちらもを取り入れた中庸とかいう言葉で形容される方法が一番いいんだろうけれども。


 とまぁ。なんだか、うまく「~というお話」とすることができなかったものだから、こういうことを書いているんだけれど。


 ファンシー(fancy)という言葉は、結構この作品を象徴しているとも思っていて。山本直樹先生って、結構タイトルと内容が直接的な関係になかったりすることも多いと思っていて、これは結構結びついているほうだとも思っている。(なんだか上からの態度になってしまっている感があるけど、まぁいいか。いや、よくないか。知らんがな。)


 fancy : 空想(力)、想像(力)、夢、幻想、気まぐれ、思い付き、〔気まぐれで一時的な〕好み、〔しっかりした〕鑑識眼、判断力、装飾的な、意匠を凝らした、しゃれた、手が込んだ、派手な、気まぐれの、風変わりな、奇遇の、空想的な、〈米〉高級な、豪華な、〔食品が〕極上の、〔価格が〕法外な、心に描く、想像する、空想する(英辞郎 on the WEB より引用)


 〔気まぐれで一時的な〕好み、という意味合いが一番、この作品にしっくりくると思う。特にペンギンさんを好きになった女の子の態度に似ている。一時的には好きだけれど、実はこういう経緯があって、こうこうこういう誘惑もあって、という。そんな彼女の生きざまというか、そんなものが、この≪fancy≫に凝縮されている感じがする。


 でも、結構こういう英単語をそのまま作品をタイトルにするということは、結構日本語に解釈するときに、いろいろな意味を帯びやすいと思っていて。日本語タイトルでもそれは同じことかもしれないけれど、日本語英語になっている英単語は特に、意味が固定されて認識されがちなところもあると思うので、特にその多意味性という意味では、それが顕著だと思う。


 手が込んだ、というのは、郵便配達員に当てはまる態度だと思うし。


 幻想、というのは、山本直樹先生の作品全体に漂う、メタファーという基底的存在であるし。


 なんだか、タイトル一つをとっても、いろいろなことが考えられるな。楽しい。


 思春期の少女の感化されやすい存在としてのメタファーとか。その雰囲気のなかにある芸術性とか。なんだか、そういうものをいろいろと含んだ作品だった。ペンギンさんが途中で外にでるシーンもいい。振り回されている姿がいい。どうしてペンギンにしたんだろう。というか、どうしてペンギンでも成り立ってしまうのだろう。いや、あの作品の世界のなかでは、成り立っていないのか。


 詩人とその本人の人間性というところに観点を当てているのかもしれないとも思った。どんなに作品を生み出す存在としてすごい人でも、その中身は、みたいな。そんなこともメタファーとして、そこに込められているのかなと。とにかく、なんだろう。山本直樹先生の作品はメタファーがいっぱいある。それでいて、陳腐な表現というか、ほんとうにどこにでもある言葉が、ある瞬間は輝いてみえたり、そのまま平凡に見えたり、読む態度や雰囲気や、演出によって、その見え方がころころ変わるんだから、すごい。


 なんだか、わかったようなことを書いている、だけの気もするが。なんだろう。言葉が単純なんだけれども、なにやら、そこにもメタファーがあるような気がしてしまうんです。


 物語全体が、その創作世界を為していて、幻想のなかで全てが進行しているような、その感覚。


 常にどこの作品においても、それを抜け切ることなく、感じる。感じながら読む。


 まだ、言語化が難しい作家さんだ。


 また、読みにこよう。しばらくは、ちょっと離れる予定。(手元に紙の媒体がない関係で。)

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