第238話 逆転、そして…
最高火力で攻め続ける事10分。
もうすぐかずちゃんの《神威纏》が切れると言うところまで来た。
進捗としては、スベルカミのあの莫大な量の魔力が覚醒時の半分以下……いや、3分の1程度までに落ち込んでいる。
一度こちらのペースに持ち込んでしまえばあっという間に削れるのはヒキイルカミの時から変わっておらず、急激な成長の難しさを体感した。
「くっ…!すいません、もうおしまいです」
「よく頑張ったわ。あとは私と咲島さんに任せて」
「この調子なら2人でも削りきれる。今度こそ最後よ。スベルカミ」
かずちゃんの《神威纏》が時間切れとなり戦線離脱。
タケルカミの恩恵を得て少しは時間が伸びるかと思ったけど…流石にそこまでは出来ないみたい。
あと、かずちゃんがこの《神威纏》でカミになれるかなと思ったけど……タケルカミは自分を刀に変えて戦闘に間接的に加わってくるだけで、かずちゃんをカミにはしてくれなかった。
ただでさえ私の為にその力を大きく落とし、弱体化しているのだから次は無かったのかも知れない。
そう考えると、やっぱりカミへと至るハードルは高いね。
「一葉ちゃんの離脱…ここで決めきらないと次は無いわよ。あなたも、それほど魔力は残っていないでしょう?」
「もう半分は消費してますからね。《神威纏》のスキルは残ってますけど、再使用制限中なのかうんともすんとも言わないし」
カミへと至ったらてっきり消えるものだと思っていた《神威纏》。
それが生き残っているんだ。
だからてっきり使えるのかと思ったけど、しっかりと再使用制限中。
使えたらもっと有利に戦えたんだけどね。
とは言え今でも十分圧倒出来てる。
これ以上無理に強くなる必要もないし、あんまり無茶なことをしないために、使えても使わないつもりだ。
「3分の1くらいまで削ったはずなのにまだ私と同じくらい魔力が残ってる。どういうタイプの化け物か聞いて良い?」
『だったら―――話す―――余裕くらい―――よこせ―――』
「悪いけど聞こえないわ。はっきり喋って?」
『くたばれ』
「オーケー。死ね」
迫真の『くたばれ』。
いつもなら笑うところだけど今はそんな余裕はない。
雑に返してまた話す余裕すらないほどボコボコにする。
こんなに殴り心地の悪い不出来なサンドバッグは即刻クーリングオフして製造業者に叩き返したいところだけど…それをしたらどんな改悪をして返ってくるか分かんないからこの場で倒す。
……とは言っても、仮に倒す事が成功したとしても問題はある。
スベルカミに限らず、カミは倒されても復活する。
復活させないためには吸収される・するなどして消滅させる必要があるみたいなんだけど…今の私達にそれが出来る人はいない。
出来たかも知れないかずちゃんはその力を封印されてるからね。
結局のところ、倒してもいずれ復活するんだ。
ここで勝つことは大前提として、次に復活する時に危なげなく勝てる程私達は力をつけなきゃいけない。
なんとかしてかずちゃんにもカミになってもらわないと。
「このまま押し切れば私達の勝ち。また復活して出直してきなさい」
スベルカミの上半身を消し飛ばしてそんな事を言う咲島さん。
あと何十回倒す必要があるかはわからないけど…勝利は目前だ。
……けれど、ここで私は違和感を敏感に察知した。
魔力が妙な動きをし、1点へと集まっている。
この状況で反撃の準備をしているんだ。
でも、そんな事させない。
「見逃されるとは思わない事だね」
主に魔力が集まっている下半身を蹴り、魔力の集中を妨害する。
しかし、内部で私の魔力が暴れているはずなのにスベルカミの魔力操作に衰えが無い。
再生を遅らせてまで魔力を……でもこれは好都合。
「咲島さん!氷漬けにして!!」
「了解!!」
魔力に集中するスベルカミを、咲島さんの一撃で氷漬けにする。
モンスターは例外なく全身が凍り付くと死ぬ。即死だ。
それはもちろんカミも含まれる特徴だ。
ボロボロの下半身と再生途中の上半身が氷の像となり、硬直している。
「これで死んでくれるなら万々歳だけど…」
「……そんなに美味しい話はないらしいですよ」
「みたいね…」
氷漬けになったスベルカミは死ぬ事なく魔力がどんどん膨れ上がっている。
残りの魔力を解放して周囲の何もかもを破壊するつもりか。
「止められそう?」
「無理ですね。攻撃しても止まりませんし、あの出力は結界では止めきれない」
「仕方ない。一旦退きましょう」
私と咲島さんはかずちゃんと大幹部を回収してその場を離れる。
何処まで破壊の余波が来るか分からないけど、あまり距離を取りすぎない方が―――
「っ!?私の後ろに隠れて!!」
魔力が今にも爆発しそうなその瞬間、私は背筋が凍り付くような嫌な気配に襲われた。
《鋼の体》を最大出力で結界状に展開し、構えると……
「ぐぅっ―――!!!」
「なっ!?」
「嘘っ!!?」
全てを破壊する最強の破壊光線が私たちに向けて放たれた。
その破壊力は、振れた瞬間結界が悲鳴を上げ、数秒でヒビが入る程の恐ろしいもの。
止めようにも止めきれるか分からない。
最悪このまま全滅だってあり得る。
「……私が結界を広げてコイツを弾く。その隙に逃げて」
「止めきれるの…?」
「……分からない」
「なら逃げるわけにはいかないわ。私も支える」
そう言って、私の《鋼の体》に干渉し、魔力を流し込んでくる咲島さん。
その力のおかげでほんの少しだけ私の負担が減った。
「私は絶対に逃げませんよ。死ぬときは一緒ですから」
「かずちゃん…」
かずちゃんも私の《鋼の体》の負担を軽減してくれる。
それにつられ、後ろからも魔力が送られてきた。
「この状況で何もしないは流石に無いね」
「微力ながら私も」
「本当に微力ね。私はもっとできる」
「こんな状況で張り合わないの。神林さん、頼みますよ」
大幹部の面々も私の《鋼の体》の結界の維持を支援をしてくれる。
おかげでだいぶ抑えやすくなった。
それにより出来上がった余裕をさらに結界の強度上昇につぎ込み、さらに守りを固める。
そうして出来上がった盤石な結界は少しずつ削られながらも確実に破壊光線を耐えた。
そして、破壊光線が止まるまで突破されることは無く、私達は無事に全員生き残ることに成功した。
「よし…!なんとか生き残れたわね」
「でも油断はできない。あの破壊光線の魔力に隠れてスベルカミの位置がわからなくなった」
「逆に言えば、隠れられるくらい弱ってるって事ですよ。大幹部とも合流できましたし、今度こそ押し切って―――「危ないっ!!」―――えっ?」
勝利を目前に捉え、味方の戦力も復活した。
その心の余裕が、致命的な隙を生んだ。
スベルカミの力と……そうでない何かの、とんでもなく邪悪で純粋な底の見えない暗黒のような悪意。
それを感じ取り、反射的にかずちゃんを突き飛ばす。
その直後、結界を容易く貫通する破壊光線が私の《鋼の体》の防御を破壊し、左肩を貫いた。
「ぐうっ…!!」
「神林さん!!?」
「純粋な破壊の力…!まだそんな余力を!!」
破壊光線が触れた部分がまるで消滅したかのように消し飛んだ。
肉体が完全に破壊されなかったのは、触れた部分だけを破壊する様に特化させた影響だろう。
でも、これは不味い。
「咲島さん!最上級ポーションを!!」
「そんなものポンポン持ってないわよ!盃はギルドのジジイ共が隠し持ってるし」
「でもここで神林さんの腕を治さないと…!!」
『我に勝てないと?』
「―――ッ!?」
言葉とともに現れたスベルカミは、大きく力を落とし再生も不完全。
もはや満身創痍と言っていい程には消耗している。
しかしその目はまだ死んでおらず、確実に私たちを殺すと言う強い殺意が感じられる。
『偉大なる主を愉しませる人形としての役割。貴様らはそれを全うした。あとは死ぬだけだ』
「よくもまあその状態でそんな大口が叩けるわね…なぜそこまで戦える?」
向かってくるスベルカミに冷や汗を流しながらそう問う咲島さん。
確かに…ここまでボロボロにやられ、このまま挑めば負けてもおかしくない相手になぜ挑めるのか?
この私達に対する殺意は一体何処から来るのやら…
すると、スベルカミは魔力を練りながら真剣な表情で口を開く。
『貴様らのように漠然と生きる人間共にはわかるまい。我は貴様ら人間を適度に間引き、滅ぼし、再生させる。そうして偉大なる主を愉しませる為の土台作りをする者として生み出された存在。貴様らと敵対し、殺す事が我の存在意義なのだ』
……なるほど。
自分の役割を全うする。
それが、スベルカミの戦いに対する考えなのか…
ある程度私は理解した。
しかし、スベルカミはまだ話を続ける。
『逆に問おう。鍋に調理器具以外の役割を与えるのか?洗濯機を服を洗う以外の用途で使うのか?時を刻まぬ時計になんの意味がある?』
言いたいことはよく理解できる。
スベルカミはジェネシスによって明確な役割を与えられて創られた存在。
その役割を全うできない者はゴミ。
生きる価値のない脛齧り。
そんな者になりたくないからスベルカミは戦うんだ。
「役割とか面倒くさいなぁ…働かなきゃいいのに。ニート万歳!」
「かずちゃん……じゃあ、かずちゃんは『なんの価値もないゴミだ』って言われて恥ずかしくないの?誰からも期待されない、当てにもされない生活は苦じゃないの?」
「………むぅ」
考え無しに発言する若さゆえに考えが至らないかずちゃんを咎める。
私も、スベルカミの言い分には思うところがある。
……だならと言って、ヤツを見逃す理由にはならないし、ここで決着をつけるつもりだけど。
それはヤツも同じなようで、何故か突然口角を釣り上げてこちらを見つめる。
『貴様らは今ここで死ぬ。そう、神託が下ったのだ』
「蝶の神が何か言ったと?」
『ああ。『例え刺し違えようとも構わない。必ず1人殺せ』とな』
「そう……あのクソ邪神、余計な真似を」
スベルカミがやる気に満ちている。
戦場では戦いに対するモチベーション、いわゆる士気の高さが勝敗に如実関わってくる。
こっちはただでさえ消耗して心身ともに疲労してるってのに、アイツは精神が健全を通り越して覚醒状態。
それに、今のアイツは狂信者のそれ。
主の威光を知らしめる聖戦だとか、異端者を懲罰する戦いだとか、そう言う自分の信じて疑わない大義を持って攻撃してくる、こっちが何を言っても止まらないタイプ。
「一葉。無理にでもいい。《神威纏》を使いなさい」
「決めきれなかったら負けるのはこっちだよ…?」
「構わないわ。使わなきゃ勝てるかどうかも分からない」
「分かった…」
咲島さんとかずちゃんが私達の前に立ち、
もう本来の出力は出せてないけど、それでもステータスを強化できるなら十分。
『そんな不完全な《神威纏》で我に勝つと?笑わせるな。まとめて死ぬがいい!!』
スベルカミはさっきから練っていた魔力を解放し、破壊光線を放つ。
すぐさま私も結界を張って破壊光線を防御する。
その隙に2人が両サイドから攻撃を仕掛けに動いた。
攻撃こそ最大の防御。
私が耐えているうちに攻撃を仕掛けてスベルカミを倒す。
「『虚構』は張った。これで気付かれにくくはなる」
「『停止』もすぐに使えるようにしてる。2人は結界の補助を」
「言われなくてもやってるよ。もちろん、『紫陽花』姉さんも」
「あなたは1人じゃないわ。神林さん」
『菊』と『牡丹』が咲島さんとかずちゃんの支援を、『青薔薇』と『紫陽花』が私の結界補助をしてくれている。
おかげでなんとか破壊光線を耐えきり、無傷で済んだ。
今のうちに少しでもダメージを稼いでほしいけど……いや、待って?
「よし!破壊光線を耐えきった!」
「いや違う。これはッ!!!」
私はスベルカミの策にいち早く気付き、誰よりも早く動く。
進行方向に居るのはもちろんかずちゃん。
私が動いてすぐにかずちゃんも気が付いた。
スベルカミは、元々私達を倒すつもりなんかなかった事に。
奴はただ、命令通り『刺し違えてでも1人殺す』つもりだと言う事に。
そしてその牙は、かずちゃんに向けられている事に…
「絶対に、させないッ!!!」
全力で距離を詰め、スベルカミに飛びかかる。
片腕だけでもがっしりとスベルカミを掴み、タックルを仕掛けた。
…スベルカミは笑っていた。
そして、私は知らなかった。
死を覚悟し恐れぬ者の強さを。
刺し違えてでも敵を倒そうとする者の恐ろしさを。
『お前なら、そうするだろうと思ったよ。神林紫』
「まさか…!!」
気付いた時にはもう遅かった。
ヤツの手に握られた破壊と死の黒い魔力。
私はそれを避けることも防御することも出来ず、その一撃を食らってしまう。
そして、今までに感じたことのない妙な感覚が全身を駆け巡り…まるで眠りにつくように全身の力が抜け意識を失った。
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