第237話 邪神の悪戯

ダンジョン最奥。

蝶の神の許可を得た者か、ダンジョンの全てを攻略した者しか入ることのできない不可侵領域。

そこに1人立つ、蝶の羽を持つ女性。

彼女はその空間の何処でもない場所を見て微笑んでいた。


『なかなかやるじゃん、人間。いや、アイツの素体が悪かったかなぁ?』


番外階層にて戦う人間とスベルカミの様子を観察し、愉しんでいる様子。

命を懸けて戦う姿を見て、純粋な邪悪に塗れた笑みを浮かべている。


『すぐに倒されたら面白くない…かと言って、このまま何もしないとなんの面白みもなく終わる。あんまり干渉はしたくないけど、今更か』


女性はそう呟くとその力の一部を使う。

そして、上手く攻め切れないスベルカミの精神に干渉し、その思考の片隅に暗示をかける。

すると、スベルカミはそれまで使っていなかったモンスターを召喚する能力を使い始めた。


『これで人数不利に押しつぶされることは無い。膠着していた戦況にもスパイスを加えられたし、あとは様子見か』


多数のモンスターを召喚するよう促し、戦況を大きく変える。

それは劇的に、人間側にとって悪い方向へと傾く事となった。







           ◇◇◇






状況は良くない。

まず大幹部を戦力として数えられなくなった。

突然スベルカミが行ったモンスターの召喚。

これによって、大幹部は総出でモンスターの対応をしなければならず、今なお新たに出現するモンスターの対処に追われている。


そして、その影響で人数が減った事でスベルカミが狙う相手を簡単に絞れる様になった。

さっきまでは私が攻撃を仕掛ける時以外はほとんどの場合で、複数人が同時に攻撃していた。

理由は、『簡単に反撃されない状況』を作るため。


一度に複数人に攻撃されたら、当然どっちの対処もしないといけない。

同格なら片方の対処しか出来ないからよし。

同時に対処できる程の実力の差があったとしても、『片方に集中して反撃する』と言うことをさせないための同時攻撃。


それが出来なくなったせいで、油断すると咲島さんかかずちゃんがやられる。


『戦闘中に余計な事を考えるか……余裕だな?』

「くっ!?」


そして、かずちゃん達のことを意識しながら戦うと、私の動きにムラが出来てスベルカミに狙われる。

今この場でスベルカミが一番狙っているのは私だ。

私がいなくなれば、攻撃を防御できない、回避できない者からやられていく。

そして、最終的に全滅だ。


だから、私は絶対に死ねない。


「こっちを…見ろッ!!」


咲島さんが左後ろから攻撃を仕掛ける。

しかし、スベルカミは慌てることなく冷静に咲島さんの斬撃を受け止めた。


『《神威纏》が使えないのなら、さほど脅威にはならん。冷気は効かぬのだからな』


ゼロノツルギの放つ冷気を触れる前に破壊して無力化する。


そんなスベルカミの正面からかずちゃんが刀を構えて突っ込んでくる。


「じゃあ、私は!!」

『なんだ?賑やかしか?』


しかし、咲島さんよりも簡単に止められてしまい、賑やかし扱いを受けている。

さらに……


『なんだ。その刀、壊せそうだな』

「っ!?」


スベルカミはなんと、かずちゃんの刀を破壊出来ると言い出した。

そんな事を聞いたかずちゃんは急いで逃げようとするも、刀を掴まれてしまう。


『それなりに強い武器のようだが……所詮上級。破壊耐性があろうが関係ない』

「なっ!!」


かずちゃんの刀は粉々に砕け散り、持ち手の近くにわずかに残った刃が暗い光を放つのみ。

それを見てスベルカミはニヤニヤと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。


「よくも私の刀をッ!!」

『なんだそれは?そんなおもちゃで我を傷付けられると?』


激昂したかずちゃんが予備の刀を取り出して斬りかかるも、今度は刀が振れた瞬間破壊される。

そして、スベルカミに蹴り飛ばされ―――私が助けに入った事で遠くへ飛ばされることはない無かった。


「落ち着いてかずちゃん。まだ私達は負けてない」

「分かってますよそんな事!!でも!!」

「…『菊』の刀を借りよう。あっちには魔法を扱うモンスターは居ない」

「私、大太刀も小太刀も使えませんよ。使い慣れた長さと言うものがあるんですから」


相棒を破壊され不機嫌が頂点に達しているかずちゃん。

怒りはなんとか抑えられたけど…本調子は出せない上にそもそも武器がない。

どうしたものか…


『良いのか?この女を放置して』

「っ!!ごめん!先に行ってるよ!かずちゃん!!」


私は咲島さんを1人にさせない為にかずちゃんを置いて戦闘に戻る。

たった10数秒戦闘に関与していなかっただけなのに、咲島さんはかなり追い詰められている。

私の防御が無ければ死んでいたかも知れない程には…


「咲島さん。予備の刀ってあります?」

「あるけどアレを見る限りあげても即破壊されるわよ。おそらく、最上級アーティファクトじゃないと全部壊される」

「そうですか…」


スベルカミをフィジカルで追い払い咲島さんを救助すると、刀が無いか聞いてみた。

しかし、スベルカミを相手にできそうな刀は無いらしく、どうにもならないらしい。

やっぱり『菊』を頼らないと…


そう思った瞬間――


『がっ!?』


空から刀が降ってきて、スベルカミを貫いた。

更に、その刀に雷が落ち、スベルカミを電撃で焼く。


「タケルカミ…?」


この攻撃をしたであろう存在の名前を呟く。

しかし、タケルカミの姿は見えない。

その代わりなのか、スベルカミを貫いた刀からカミに匹敵する巨大な気配がする。

まさか、武器になったとでも言うの?


タケルカミが武器になった。

その信じがたい事に呆気に取られていると、私の横をかずちゃんが通り過ぎた。

そして、スベルカミの体を貫通し、地面に突き刺さった刀を引き抜いた。


「分かった。これで、このクソ野郎をぶっ殺せばいいんだね…!」


刀を構えたかずちゃんは《神威纏》を発動し、強い電撃を帯びた刀を振りぬく。

再生しかけたスベルカミの体を真っ二つにすると、飛び上がってその場を離れる。


「なんか置いてかれてる気がするからね!ここで爪痕を残す!!」


《神威纏》を使った咲島さんがかずちゃんに代わって攻撃を仕掛ける。

ただの強攻撃として魔力を大量にまとった斬撃を飛ばす咲島さん。

しかしその一撃はかずちゃんの『鳴神之太刀』に匹敵する破壊力がある。


火力が一気に上がった!

この《神威纏》が使えているうちに決めきる!!


私も魔力を拳にためて、咲島さんの攻撃を受けたばかりのスベルカミを殴り、体を破壊する。

もう何もさせない。

あの邪神のシナリオを破壊するんだ。

その域を強くもち、一切攻撃の手を緩めずスベルカミを攻撃し続けた。






           ◇◇◇





『ほ~ん?そこから巻き返すか。なら、もう少し歯ごたえがあった方がいいか』


遥か高みから見下ろす邪神は次の災いを齎す。


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