第236話 鋼鉄を司るもの
カミへと至った私が戦闘に加わる。
その事にスベルカミはかなり苛立っている。
『…面倒な』
私の周囲に破壊と即死が付与された、触れれば連鎖的に爆発を起こす魔法が作られる。
これを食らえばタケルカミでさえただでは済まない。
でも、私は違う。
「即死と破壊…私には効かないね」
『だろうな。おそらく守ることに特化したカミ。防御性能が異常に高いに違いない。そして、《鋼の加護》か…また厄介なものを』
そう言ってスベルカミは自分の手の上に一つの魔法を作り出す。
それをかずちゃんへ向けた。
避けようと構えるかずちゃんだけど、私の力の影響を受けて何かに気付いたように胸を張って仁王立ちの姿勢をとる。
そこへ即死と破壊の魔法が放たれたが…かずちゃんは全くの無傷。
カミになる前の私ならかずちゃんを守り切れなかったと思う。
でも、今の私なら話は別。
神威の効果によって強化された《鋼の体》を《鋼の加護》によって誰にでも付与できる。
つまり、実質私のバリアと同じ強度を持つバリアを味方全員に付与できるって事。
防御性能だけなら最強の軍団が出来上がった訳だね。
もうみんなスベルカミの攻撃に怯える必要はない。
このまま人数差を活かして押し切る!
「もう即死も破壊も効かない。勝ちに行くよ」
「カッコイイこと言うじゃない。じゃあ、防御は任せるからね」
咲島さんが私の防御を信頼して攻撃を仕掛ける。
タケルカミとの戦闘をした後では、あらゆる面で彼に劣る咲島さんの攻撃はほとんど当たらない。
でも、攻撃が当たらない事はそれほど重要じゃない。
何故なら…
『…チッ!視認以外ではまともに察知できないか』
「私の厄介さは常に頭の片隅に置いておかないと勝てる戦いも勝てないよ。スベルカミ」
こっちには『菊』がいる。
私達の気配を完全に消せる『菊』がいる限り、必ず誰かが攻撃を当てられる。
だから私は『菊』の防御に集中しつつ…
「まだこのステータスに体が慣れてないけど…実戦で慣れればいいよね」
『くっ!?やはり単発の火力は恐ろしいな…タケルカミ並みか』
私も戦闘に参加する。
魔力をほぼ無制限に使えるようになった私は、多少雑でも魔力武装に大量の魔力を流し込むことが出来る。
更に、レベルが300にまで上昇したことで素のステータスが爆発的に上昇。
多分、ただのパンチでさえカミになる前の魔力武装と同等の火力があるみたい。
私はこの場において防御の要でありながら、一番のアタッカー。
この無双感、スベルカミが調子に乗って私達にしてやられるのが納得できる。
ステータスが爆発的に上昇したことによる全能感。
それに酔いしれながら戦っていると、スベルカミにぎりぎり届かない場所で拳が空振った。
スベルカミは回避行動をとっていないのに…
「ん?」
『…?』
私の空振りにスベルカミも困惑している。
……ステータスの上昇で距離感を測るのが難しくなったかな?
まだスピードとパワーに慣れてない私。
感覚で戦うせいで、ちょっと感覚が狂うとこういう事も起こるのか…
「まあ、なんとかなるでしょう」
構わず攻撃し続けると、やっぱり数回に1回は空振る。
急激なステータスの上昇に追いつけない。
でも、反撃を食らったところでただの攻撃じゃ私は傷一つつかないから何ともない。
それに、私に集中してくれるならかずちゃんや咲島さんが攻撃をする隙が生まれてむしろいいかも?
攻撃の空振りを良い方向に捉え、私は一旦退いたりしない。
その効果があったのか、スベルカミの動きがさっきまでに比べて単調になった気がする。
「せあっ!!」
『チッ…』
「ナイスかずちゃん!」
「私は《神威纏》を使わなくたってやれますよ!!」
その隙を見逃さず、かずちゃんがスベルカミの左腕を切り落とした。
どうせすぐに再生されるけど、魔力を少しでも削りたいからには、大事な一撃だ。
…魔力を削り切る以外で、今のところ私達に霊体のカミを倒す手段は存在しない。
無限に思えるような魔力を持つスベルカミに、果たしてその方法が効くかは別として、だけど。
『忌々しい『菊』を先に始末したかったが…やはり守りを固めているか』
「当然。『菊』には絶対手出しさせない」
『そうか……ならこっちだな』
「―――っ!?」
そう言って、スベルカミが狙ったのは、攻撃を仕掛けた直後の『青薔薇』。
でも、彼女にも防御を付与してる。
そう簡単に破壊出来ない防御。
たった一撃で倒せると思ったら大間違いだ。
『その厄介な防御を壊すとしよう』
「なっ!?」
「くっ!!」
スベルカミは攻撃を破壊の力全振りで放つと、本当に私の防御を破壊してみせた。
攻撃の対象を私の防御だけに絞って、確実に破壊したのか…いや、それはまずい。
「避けなさい!『青薔薇』!!」
咲島さんの声が響き、それに弾かれたように『青薔薇』が全力で回避をする。
スベルカミの攻撃をギリギリで躱した『青薔薇』は、そのままスベルカミから距離をとって警戒態勢に入る。
私は『青薔薇』の防御を掛け直すと、スベルカミに変な真似をさせないためにまたインファイトを仕掛けた。
「驚いたわ。そんなに簡単に壊されるとは思わなかった」
『ここを守っていた結界に比べればお前の防御は脆い。壊せないはずが無いだろう』
「結界ね……じゃあこうしましょうか!!」
私は、《鋼の体》の防御を結界のように広げてスベルカミを押し出すと、そのまま神社の外まで押していく。
スベルカミは結界を押し返してなんとか留まろうとするけれど、結界を押し返したところで私には影響がないから、そのまま押されてしまう。
すぐに諦めて破壊を試みるスベルカミ。
ものの数秒で私の《鋼の体》の防御は破壊され砕け散るが…好都合。
「はあっ!!」
『ぐっ!?』
一瞬で距離を詰めて全力で殴り飛ばし、斜面を転がり落ちていくスベルカミを追いかける。
体勢を立て直そうとすれば容赦なく蹴って落とすだけ。
そのまま山の麓までスベルカミを落とすと、魔力武装を超圧縮して思いっきり殴る。
その一撃で上半身が消し飛び、大ダメージを食らわせられたはず。
復活する前に下半身も消し飛ばして……いや!まずい!!
「神林さ―――」
「来ないでッ!!!」
私達を追いかけてきた全員にそう言うと、私は皆と合流して《鋼の体》の防御最大出力で発動し、結界を作る。
その直後、スベルカミの魔力がまるで大爆発でも起こしたかのように絶大な破壊力を伴って拡散し、私達に襲いかかる。
「―――――っ!!!!」
全力で結界を支え、中に居る皆に危害が無いように耐える。
耐えて、耐えて、結界を維持する。
なんとか魔力の波が収まり、ようやくマシになったかと思えば…今度はスベルカミが直接攻撃してきた。
その攻撃によって結界が砕かれ、私達に襲いかかってくる。
『やはり全員に防御を張っているか。だが、壊すだけなら容易』
高威力の魔法を連射して私の防御を壊そうとしてくるスベルカミ。
みんななんとか魔法を避けようとしてくれるけど…数が多い。
結局数発は魔法があたって防御が大きく削られる。
「面倒くさい事を…」
『効果はあるようだな?』
「嫌がらせとしてはね。すぐに直せば良いだけ」
絶妙に削られているせいで全員の防御を張り直さないといけない。
放置したらそれが原因でやられた、なんてことになっては困る。
破られてないのに張り直さないといけないのは、嫌がらせとしてはめっちゃウザい部類。
でもなんでこんな嫌がらせを―――
「っ!?」
「神林さん!!?」
全員の防御を張り直した瞬間、私が攻撃された。
《鋼の体》の防御を破壊され、すぐに即死攻撃を構えるスベルカミ。
本命は私狙い。
…でも、この速度なら間に合う。
「私に…触れるなッ!!」
スベルカミを蹴り飛ばして距離を取る。
すぐに防御を張り直すと、私から攻撃を仕掛ける。
…でも、さっきのでちょっとでも油断すれば即死することが分かった。
皆の心配だけでなく、私の心配もしなくちゃいけない。
警戒心を強め、少しずつ慣れてきたステータスを活かし、スベルカミを倒すべく戦闘を続けた。
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