第235話 カミとカミ

スベルカミVSタケルカミ

その戦闘は私達との戦いとは理由が違う。


高火力かつ即死効果を付与した魔法を連射し、物量と威力で押し切ろうとするスベルカミ。

私達が扱える技術の遥か高みにある技術を持ち、卓越した魔力制御によってステータスの大きな差を物ともしないタケルカミ。


万全の状態ならタケルカミが圧倒していたように思える。

けれど、スベルカミだって負けてはいない。


『大したものだ。魔力の制御技術だけでここまでやるとは…だが、だからこそ対策は容易だ。遊びは終わりにしよう』


そう言ってスベルカミが使ったのは、破壊の力。

さらには神威も併用してるから、その破壊対象は本来壊せないものにまで至る。

スベルカミはその破壊の力を魔法に付与する。


すると、タケルカミはそれまでのように魔法を叩き斬るのではなく、避けるようになった。


『触れればお前の魔力が破壊される。今までのように剣で切断するなどはさせんぞ』


タケルカミの強さの秘訣は魔力だ。

魔力が十分に扱えなければスベルカミを相手するのは厳しい。

魔法を叩き斬る事が出来なくなったタケルカミは、魔法をひたすら避ける。


ただ、その避ける動作も私達にとって色々な学びになる。

足の動きに技術を感じる。

軽やかに相手の攻撃を躱し、自分の刃が届く間合いまで距離を詰める技術。

あの足捌き……よし、覚えた。


「…何してるんですか?」

「タケルカミの技術を盗んでる。多分…こんな感じ」

「見た動きをその場で完コピしないでくださいよ…私だってあの動きしてみたいのに」

「やってみると意外と簡単だよ?私の真似をしてごらん?」

「むぅ…」


かずちゃんと一緒に弾幕をくぐり抜けて相手との距離を詰める技術を練習していると、あっちにも進展があったみたい。


見ると、スベルカミが距離を詰められて八つ裂きにされてる。

やっぱり、スベルカミは近接戦闘だとタケルカミに絶対勝てないね。

技術力に差があり過ぎる。


「相変わらず惚れ惚れするほど綺麗な太刀筋ですね…あの動きを出来たら私の攻撃ももっと強くなるのに……」

「今以上の火力って…何?核攻撃でもするつもり?」

「実際そのくらいの火力は出せますよ?」

「……剣術だよね?」

「剣術です」


おかしい。

私の知ってる剣術は核攻撃並の破壊力なんて無い。

…そもそも、剣を振って渓谷を作れる時点でおかしいんだ。

どうかしてるよ、あの火力。


「まあ、魔力を使ってますから。それに、あのくらいの火力ならタケルカミはノーモーションで撃てますよ?」

「はっ?」


とんでもない発言に呆気にとられた瞬間、眩い閃光と鼓膜がイカれそうな轟音が鳴り響く。

目を細めながらそっちを見ると、かずちゃんの『鳴神之太刀』並の火力の攻撃がスベルカミを飲み込んで、山を破壊していた。


「アレで奥義じゃなくて、一ノ太刀の『轟』なんですよ?」

「待って?タケルカミってさ……弱体化してるんだよね?」

「はい」

「…弱体化してない状態で奥義使ったらどうなるの?」

「それこそ核攻撃並の火力何じゃないですか?私も、太刀筋を見てアレが奥義じゃないって事しか分からないので」


あんまりにも強すぎる。

そりゃあ、私達2人と《神威纏》を使った咲島さんが同時に相手しても余裕で勝てるわけだ。


魔力の奔流を見て、もはや恐ろしさまで感じていると…突然『轟』の魔力が消え去る。


『魔力を使った超破壊斬撃か…それは効かんぞ?』


スベルカミの破壊の力によって、タケルカミの攻撃は無力化された。

あの攻撃すら壊してノーダメージに抑えるのか……高火力範囲攻撃は効かないって考えたほうが良いね。


となるとやっぱりアイツに触るしかないんだけど…それをすると私が破壊されそう。

《鋼の体》がクッションになってくれるなら嬉しいけど…はたしてそんなに上手くいくか。

タケルカミの戦闘の仕方で何か参考になりそうなモノはあるかな?


『この間合いはお前にとって最適の間合いなのかもしれないが、同時にリスクを賭ける間合いでもある。例えば、これは嫌だろう?』


スベルカミがそう言った直後、破壊の力を付与された大量の魔法が、タケルカミを囲うように全方位に出現する。

近接戦闘をするとアレで不可避の魔法攻撃をされる可能性があるのか。

あんなの私でも耐えられない。

タケルカミはどうやってコレを切り抜けるのか…


『さあ、どう切り抜ける?』


わざと魔法をその場にとどまらせてタケルカミが足掻く姿を見ようとするスベルカミ。

……そう言う油断が敗北を招くと学習しないのかな?

スベルカミってリアクション芸人か何かなの?


心のなかでそうツッコミを入れていると、案の定スベルカミはタケルカミの攻撃を受けた。

魔法を避けられない?

しかし術者は自分の刃が届く位置にいる。

なら、術者を斬ればいい。

簡単な話だね。


……でも、何か様子がおかしい。


私が違和感に気付いた直後、その場にとどまっていた魔法が全てタケルカミへと放たれ、大爆発が起こる。


『ふっ…自らが餌になるというのも悪くないな』


タケルカミの攻撃によって受けたダメージを癒しながら、してやったりと言う顔を見せるスベルカミ。


しかし、その表情も煙の中から飛び出したタケルカミを見て真剣なものに変わる。

雷のような…本当に雷のようになったタケルカミが電光石火の早業でスベルカミの首を切り落とす。


そう言えば、タケルカミの神威には雷を操る物があったはず…それを使ったのか。

……でも―――


『切り札を遂に見せたか……だが、少し遅かったようだな。その傷では本来の力は発揮できまい』


即座に首が復活したスベルカミが余裕の笑みを見せる。


確かにタケルカミの鎧はボロボロだ。

むしろ、あの数の破壊の力が付与された魔法を受けて形を保ててるだけでもすごいけど……逆に言ってしまえばそれだけの重症。

タケルカミの肉体は鎧の中身ではなく鎧そのもの。

その分防御力は高いけど…その鎧がボロボロになってる。


『霊体化すれば逃げられるなどと勘違いするなよ。むしろ破壊しやすくて助かる』


カミの特権とも言える霊体化。

それは、破壊の力で霊体を壊され、即死する事になる。

かと言って、タケルカミにはまだ余裕がありそう。

私達が代わりたいところだけど…まだ《神威纏》は使えない。

…いや、《神威纏》が使えなくなって私は―――


前に出ようと一歩進むと同時、私は腕を掴まれた。


「神林さん。我慢してください」

「でも…!」

「時間を稼ぐだけなら、タケルカミはまだまだやれるはずです。だから…《神威纏》が使えるまで待ちましょう」


かずちゃんに止められた。

確かに、耐えるだけならタケルカミはまだやれる。

無茶をしなければまだきっと…!


『次はどうする?』


先ほどと同じように、逃げ場のない全方位への魔法の発動。

アレを食らえばタケルカミでもタダじゃ済まない。

でも、逃げ道を作れるだけの魔法を破壊してすぐに逃げれば……


『1つでも破壊すれば連鎖的に全てが爆発するようにした。ようやくこの魔法の使い心地が馴染んできたところだ。粋なプレゼントを用意してやろうと思ってな?』


……流石にそんな簡単に逃げられないか。

私なら……《鋼の体》のゴリ押しで抜け出すけど、タケルカミはどうするのか…

武を司るカミはどのようにアレを切り抜けるのか…あとに控えるスベルカミとの戦いの参考にしたい。


私達もタケルカミがどうするのかを注意深く観察していると…タケルカミは虚空から大きな盾を取り出した。

全身を容易に隠せる程大きな盾。

……アレで爆破を耐えようって事?


『まさかその盾で身を守ろうと言う魂胆か?流石に芸がないぞ、タケルカミ』


スベルカミも、予想外の策に困惑している。

しかし、タケルカミは盾での突破を強行しようとしている。


『はぁ…興醒めだな、タケルカミ』


そう言って、魔法をタケルカミに向けて放つスベルカミ。

その瞬間、タケルカミが待っていましたと言わんばかりに左手に握られていた刀を振るい、前方の魔法を破壊する。

そして、そのまま背後に盾を構えると、爆発を盾で受け止めその勢いで飛んでスベルカミとの距離を詰めた。


『ほう!面白い!!』


タケルカミの攻撃を、体が両断されない程度に外しながら喜ぶスベルカミ。

ダメージを喰らい、タケルカミにとって有利な間合いに居るにも関わらず余裕。

やっぱりステータスの差が大きいね。

それに何より…


『ふむ…やはり逃げられるか』


即死効果が付与された強力な魔法を至近距離で放つも、危険を察知したタケルカミはすぐに距離を取った。


即死攻撃と、即死級の破壊攻撃を持つスベルカミ。

何でもないパンチや、連射可能な小さな魔法さえ私達の命を奪う要因になりえる恐怖。

そしてその攻撃をかいくぐったとしても、待っているのは耐性を貫通する最強の支配能力。

あまりにもインチキすぎる。

これで咲島さん達が本当に支配されていたら絶望だったんだけど、まだ私達には可能性がある。

それに…


「…よし、行ける」

「もうですか?まだ15分くらいしか経ってませんけど」

「私のはかずちゃんたちの制御の利かない《神威纏》とは違うからね。もちろん、もう少し休まないと戦闘を始めたばかりのころのような出力は出せないけど…これだけでも十分」


私は再び使えるようになった《神威纏》を発動する。

体の奥底から大量の魔力が湧き上がり、全身が軽くなる。

でも、今はそれだけじゃない。


「…熱い」

「はい?」

「体が…熱い…」


体が今まで感じたことないほど強い熱を放ってる。

全身から汗が噴き出して、その汗がすぐに乾く。

その結果まるで体から蒸気が噴き出しているように見える。


それに、この状態はかなりキツイ。

得体のしれない倦怠感が私の気力をごっそりと奪い、熱も相まって立っていられなくなった。

膝をついて荒い呼吸で耐える。


「神林さん!?大丈夫ですか!?」

『まさかこれほど早く使えるようになるとは…やはり制御できるか否かで大きく変わるようだな』

「っ!?させない!!」


動けない私の前に現れたのは、気配を感じ取って優先順位の変化を感じ取ったスベルカミ。

かずちゃんが私の前に庇うように立ってくれたけど…かずちゃんはまだ神威纏が使えない。

このままだと無残に殺される。


かずちゃんに逃げえるように伝えようとした瞬間、雷鳴が轟き空から雷共にタケルカミが降ってきた。

しかし…


『今はお前と遊んでいる暇はないのでな。失せろ』


スベルカミは雷を纏ったタケルカミの攻撃をいとも容易く受け止め、衝撃波を魔法で発生させてタケルカミを吹き飛ばした。

そして、私達の方へ向き直ると、かずちゃんを睨む。


『次はお前だ。死ぬがいい』


タケルカミ人も使った、触れれば連鎖的に爆発する魔法。

それでかずちゃんを囲い、爆殺する。

そして、次は私だと言わんばかりに強い殺意の籠った目を向けてくる。

まだ動けない。

…でも、まだ負けてない。


「後ろ、気にしなくていいの?」

『なんだと?』

「まあ、はったりだと思うなら無視してくれていいけど」

『……』


意味深にそう言うと、スベルカミは一応振り向いて誰もいないことを確認する。


『何もないではない、か…』


その隙に私は回収され、スベルカミの視界から消える。

スベルカミは突然気配ごと消えた私の行方が分からず困惑している。

そして、ようやく違和感に気が付いた。


『小娘の死体がない…!まさか…嫌そんなはずは…!』


ようやく何が起こったのか理解したタケルカミは、膨大な量の魔力を拡散し『虚構』を吹き飛ばす。

そこでようやく何が起こったのかを知った。


『『菊』…やはり貴様かッ!!!』


怒りに身を任せて超高速で突っ込むタケルカミ。

『菊』はそれを『虚構』を使いながら避ける。

そこへ『青薔薇』がスベルカミ以上の速度で攻撃を仕掛け、小さなダメージを与える。

更に『牡丹』がスベルカミの動きを止めると、『紫陽花』と共に量でを切り落とす。


『忌々しい!いい加減にせよ!!愚かな人間ど――』

「カルシュウムが足りてないぞ、自称高位の存在」

「視野狭量なんじゃないの?眼科紹介しようか?」


総攻撃を受けるスベルカミ。

ひとりひとりはタケルカミに遥かに劣る存在でも、力を合わせればタケルカミ以上。

スベルカミにとっては、私達はタケルカミ以上に厄介な存在のはず。


そして、そんな頑張りによってついに…


「ごめん、出遅れた」


―――――――――――――――――――――――


名前 神林紫

   ハガネノカミ

種族 神霊

レベル300

スキル

  《鋼の体》

  《鋼の心》

  《神威纏》

  《神威・鋼》

  《神体》

  《鋼の加護》


―――――――――――――――――――――――


私の神化が終わり、私も晴れてカミへと至った。

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