第233話 可能性を見出す
なんとかスベルカミに食らいつき、戦い続けることおよそ10分程度。
全員体力を大きく消耗し、『菊』に関しては魔力も戦いは始める前の半分以下まで減っている。
『動きに余裕がなくなってきたな。さて、あとどの程度戦える?』
スベルカミは、魔力爆発で《隠蔽》と《偽装》をかき消しながら、ニヤニヤと不愉快な表情をする。
こっちはもうみんなボロボロなのに、スベルカミはあれだけ攻撃されてまだ余裕がある様子。
魔力の量も…回復と消耗が若干上回っているくらいなせいでほとんど減ってない。
私も戦闘に参加する?
でも、私が入ったところで大して変わるとも思えない。
もっと根本的に、スベルカミと対等に戦えるような圧倒的な力が無いと無理だ。
『……そこか?』
「ぐうっ!?」
スベルカミがあらぬ方向に拳を振るう。
すると、咲島さんがその姿を現す。
…スベルカミに殴られ、大ダメージを受けている形で。
『居場所はわからずとも、これだけ戦えば次何処から攻撃を仕掛けてくるかくらいのパターンはわかる。特に、お前に関してはな?』
「はぁ……はぁ……それは良かったわね…」
咲島さんを捉え、攻撃する事に成功したスベルカミはかなり上機嫌だ。
戦闘力って意味ではこの場で一番強い相手に一撃食らわせた。
そりゃあ、気分も良くなるか……こっちは最悪の気分だけど。
「咲島さん。私が代わります」
「ごめんなさい。すぐに戻るわ」
急いで咲島さんを助けに動くと、負傷して戦力として数えにくくなった咲島さんを一旦退かせる。
フェニクスの効果で怪我を癒すまでは私が代役をしようと思う。
『神林紫。格闘戦に持ち込まれれば最も厄介と言っても良い相手だ。まあ、こちらに格闘戦以外の手段がなければの話だがな?』
スベルカミが何か言ってるけど無視。
一瞬で距離を詰めて私の間合いに入ると…まず、魔力爆発はさせない。
魔力を込めたパンチを撃ち込み、体の中で魔力を暴れさせる。
そうすれば、魔力爆発を起こすために圧縮されていた魔力が刺激されて中途半端に爆発するんだ。
魔力爆発で雑に私を吹き飛ばそうとしたスベルカミの考えを改めさせる。
「物量に逃げるな。私は単純な物量で押し勝てるような人間じゃない」
そう啖呵を切る。
さっきと同じように連撃を叩き込み、反撃を許さない。
ヒキイルカミだった時はこれで抑えられた。
でも…スベルカミとなった今はそうもいかないらしい。
『やはり格闘戦では我に勝ち目はないな。これだけレベルに差があると言うのに』
「………」
『だが、今は先のような脅威には感じないな。やはり、これだけ差が開けばいくら劣っていようとどうにでも出来る』
私の攻撃のほとんどが捌かれ、尽く無力化されていく。
純粋なステータスの差で圧倒され、私の攻撃が届かないんだ。
その上…
『チクチクと面倒な…消し飛ぶが良い』
「チッ…間に合わないか!」
攻撃が当たらないせいで、魔力爆発を使われてしまった。
皆の気配が分かるようになってしまうけど…私からすればチャンス。
《鋼の体》を使って身を守り、魔力爆発直後の硬直で動けないスベルカミを殴り飛ばす。
さらに、殴られた事で少しは怯んでるはず。
魔力武装を込めた蹴りを撃ち込み、内部で魔力を拡散させて内側からダメージを食らわせた。
でも…
「…実質効いてないか」
魔力で出来ている霊体のスベルカミは、肝心の魔力の回復速度が速すぎて受けたダメージよりも回復が上回ってる。
私の攻撃が実質効いてないようなもの。
普通に戦ったら避けられて効かないか受け流されて無力化。
そして当たってもほとんどダメージがないようなものだから効かない。
やっぱり、この異常な回復速度に勝てるだけの火力を常時出せるようなパワーがこっちにもないと厳しい。
でも、そんなの時間制限付きの
「使い方は分かんないけど…絶対これが活路になる!!」
そう言って取り出したのは『至高の種子』。
人からカミへと至るために使うらしいけど…どうやって?
『やはり持っていたか。だが、そんなものを使ってなんになる?』
「やってみないと分かんないでしょ。かずちゃん!これ!!」
2つある至高の種子の片方を渡す。
…でも、私と同じく使い方が分からない模様。
う~ん、でも本当にどんな使い方をすればいいのか…
前にスベルカミが至高の種子が使った時は…なんか食べてた気がする。
私も食べてみるか…すごく嫌だけど。
念のためスベルカミから距離を取る。
私が使っても意味がないという確信があるのか、スベルカミは追ってこない。
それを確認すると、かずちゃんの隣まで逃げて至高の種子を見つめる。
「じゃあ…食べるよ」
「え?食べるんですか?」
困惑するかずちゃんを置いて、私は先に至高の種子を放り込み、飲み込む。
明らかな異物を飲み込んだ感触が喉を通り抜ける。
それをこらえて喉を通り抜けていったことを感じ……特に変化は起こらなかった。
「だめ?」
「何か条件を満たしてないとか…レベルが足りないとかですかね?」
「だったら!」
私は《神威纏》を暴走させ、一気に戦闘力を上げる。
…でも、特に変化が起こる様子はない。
『当たり前だ。至高の種子と《神威纏》だけでカミへと至れるのなら、あまりにもハードルが低すぎるだろう。カミへと至るには至高の種子と膨大な量の魔力、そしてカミから力を受け取る必要がある』
あきれた様子で条件を教えてくれるスベルカミ。
カミの力…私に足りないものはそれか……ん?
「え?何とかなりそうじゃない?」
『話を聞いていなかったのか?カミから力を受け取る。カミを倒して従わせるか、友好的なカミがいなければ意味がないのだぞ?』
「だから何とかなる。ありがとう、教えてくれて。アンタの口がヘリウムガスくらい軽くて助かったよ」
もはやここまでくると蝶の神が仕組んでるんじゃないかってくらいバカなことをしでかしたスベルカミ。
あいつは大事なことを見落としてる。
活路はある。
それが分かっただけで、私は希望を取り戻すことが出来た。
まだ勝てると決まった訳じゃないけど…この度を超えたバカが相手なら何とかなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます