第232話 御使い
禍々しい気配を纏うスベルカミ。
その気配は私の直感が、アレは駄目だと警告をし続けるほどの代物。
「…不味いかも」
根拠とかは無いし、なにが起こるかも分からない。
だけど、なにか良くない事が起こるってことが分かる。
急いで前に飛び出し、《鋼の体》《鋼の心》を最大出力で使う。
その直後、スベルカミの纏う気配が私達に向かって放たれ、それを私が一人で受ける。
猛烈に嫌な感覚が私を飲み込もうとして…弾かれた。
『ほう…?我の支配に抵抗するか…』
「その言い方、何か私達を一気に負かす方法があったみたいじゃない」
『勘の良い女だ。今の我の力を持ってすれば、いかなる耐性を持とうがあらゆる人間を支配出来るはずなのだが…』
顎に手を当て、余裕を見せながら首を傾げるスベルカミ。
耐性があっても支配される?
耐性を無視する力…あるいは耐性を貫通する?
……そうか、コワスカミの神威。
アレを使えばスキル効果すらも破壊出来るらしい。
それによって、耐性を破壊して確実に支配できると……それは不味いわね。
『《神威纏》の影響か?偉大なる主の恩恵を多大に受ける《神威纏》なら、我の支配を弾くのも納得だが…』
大真面目に私達の目の前で今起こった事の考察をするスベルカミ。
そこへ咲島さんが背後から現れる。
「随分余裕ね。こっちは待つ気はないのに」
そう言って大量の魔力が込められたゼロノツルギを振り下ろし、スベルカミを氷漬けにした。
しかし…
『実際、余裕だからな』
氷はいとも容易く破壊され、スベルカミは一切のダメージを受けていない。
《破壊》のスキルで魔法やスキルによる攻撃は効きにくい。
かと言って触れたら神威と《破壊》のコンボで体を破壊されるかもしれない。
これ、どうやってダメージを与えるの?
「…神林さん。私もやります」
かずちゃんが背後から声をかけてくる。
軽く振り返ると、覚悟を決めた顔で余裕のスベルカミを睨んでいる。
「無理はしないでね。正直、今の私達に勝ち目なんて……」
「無いなら作ればいいんですよ。…私はしばらく戦えなくなりますけどね?」
「待って。何をする気?」
何か策があるのか、私の前に出るかずちゃん。
ゆっくりと歩いてスベルカミの目の前にやって来る。
『精神支配に対する耐性を持っていることは知っているぞ?だが、お前は話を聞いていなかったのか?』
「必要ないからね。多分、私は支配できないから」
『ほう?大した自信じゃないか』
敵が目の前にいるというのに構えすらしないスベルカミ。
何かあったら絶対にかずちゃんを助ける。
いつでも動けるように構え、咲島さんには次の冷気攻撃を。
大幹部の面々には私の時間稼ぎのフォローをしてもらえるように視線で意思疎通を取っておく。
『お前の策を受けてやってもいいが…それで負けてはただのバカだ。我のシモベとなるが良い』
禍々しい気配を纏い、かずちゃんを支配しようとする。
でも、かずちゃんはピクリとも動かない。
その様子は、私達からみても不気味だ。
スベルカミもそれに違和感と不気味さを覚えたのか、一瞬支配を躊躇した。
しかし、すぐにかずちゃんを支配するべく、その力を向ける。
「良いのかな?私の魂に触れて」
『何を……っ!?』
かずちゃんの全身が禍々しい気配に包まれ、その姿が見えなくなった……その直後。
眩い光がその気配を吹き飛ばし、さらには強烈な衝撃波がスベルカミを、私を、咲島さんを巻き込んで放たれ、全てを吹き飛ばした。
「さっき、蝶の神の恩恵を強く受ける《神威纏》は支配を弾くとか言ってたけど…万が一にも、能力が暴走しないように封印が施されている私の魂に触れるのは、こういう事を意味するみたいだね」
『なるほど…お前の自信の原因はそれか……なら、わざわざ支配する必要はない』
吹き飛ばされたスベルカミは、かずちゃんを支配することを諦めたみたい。
しかし、それは状況がなお悪くなった事を意味する。
「かずちゃん!!」
かずちゃんの盾になるべく走るも、吹き飛ばされたせいで距離がある。
その間に、ホロボスカミを吸収して魔法が使えるようになったスベルカミが即死攻撃の魔法をかずちゃんに向け、今にも放たれそうだ。
…間に合わない。
そんな考えが脳裏をよぎった。
……が、その心配は杞憂だったと。
かずちゃんがどうしてあれだけ自信満々だったのかすぐに私達は理解する事になる。
「その魔力、私に頂戴」
『何を―――まさかッ!!!』
「奪え『強欲』」
かずちゃんから、スベルカミの支配の力が可愛く見えるくらいの禍々しいオーラが放たれ、その全てがスベルカミへ向かう。
一度この攻撃を受けているスベルカミはその攻撃から逃れようとするが…『強欲』はヤツを逃さない。
一瞬で黒いオーラに拘束され、絶望的にさえ思えた量の魔力があっという間になくなってしまう。
『貴様ッ!!!』
「う〜ん…やっぱり私の体が持たないね。返すよ」
怒り心頭のスベルカミに『強欲』で奪った魔力を向けるかずちゃん。
それで体内に抑えきれない魔力を放出しつつ、ダメージを与えようという算段なんだろう。
しかし、一瞬にして距離を詰められ、それ破綻する。
『死ぬがいい!忌々しい小娘がッ!!』
「それは無いね。今の私に対しては」
即死攻撃と《破壊》の二段構え。
確実に殺すと言う強い殺意を感じる。
でも、それでもかずちゃんは恐れない。
スベルカミの強烈な一撃が、無防備なかずちゃんを捉え、まるで弾丸のような速度で吹き飛ばされていく。
即死攻撃と《破壊》はなんとか出来る策があったのかもだけど、あれ普通に死ぬんじゃ……いやいや!流石にそれは無い。
じゃないとあんな自信満々に無防備に立つわけがないんだから。
「よーし。かなりの賭けだったけど大成功。神林さんを信じてよかった」
「……えっ?《鋼の体》?」
「…え?自分で使ったのに気付いてないの?」
……使ったっけ?
そんな記憶ないんだけど……
かずちゃんは《鋼の体》の防御によって身を守っていた。
私は発動した覚えないんだけど…もしかして無意識?
「無意識に使ってたのかな…?」
「……ま、まあ!結果オーライ!ホントはヤバイと思った神林さんが私に《鋼の体》を使ってくれると思ってたんだけど」
多分私が無意識に使ってた。
いっつもかずちゃんを守るために動いてたから、わざわざ意識しなくてもかずちゃんの前に立ってる事とかよくあるし。
それに、確かにあの《鋼の体》は私のモノ。
使ってる感触もあるし。
……と言うか、ついに私は脊髄反射でかずちゃんを守るようになったのか。
自分でもびっくりするくらい惚れ込んでるね。
『ふざけた真似を…真の化け物はどちらか分からんな』
「不用心に受け入れてたとしても、本気で警戒してたとしても問答無用で私は魔力を奪える。この結果は変わらないね」
『………最初からそれを使えばもっと早く終わっていただろうに』
「……確かに」
……確かに。
なんか、スベルカミがめっちゃまともなこと言ってる。
蝶の神介入でスベルカミになる前に強欲で魔力を奪ってたら、そもそも私があの時間稼ぎをするまでもなくボコボコに出来て勝てたんじゃ?
そうなったらわざわざ蝶の神からしてもコイツを生かす理由無いし…あれ?もしかして千載一遇のチャンスを逃した感じ?
「……ごめんなさい、神林さん」
「いや、今謝られても……」
謝られても仕方ない。
失敗した過去はやり直せないんだから。
今こうやってスベルカミを弱体化させられただけでも十分……ん?
「…なんか、魔力回復してない?」
「え?」
よーく見てみると、さっきよりも明らかに魔力が増えてる。
さっきはもっと少なかったような…
『外から流れ込んできている訳では無いようだな……なるほどなるほど。結果的に奪われて良かったな、自分でも気付けていない強味に気付けたのだから』
スベルカミの魔力が恐ろしい勢いで回復している。
しかも、外から流れ込んできている訳では無い……蝶の神が話が面白くなくならないように魔力を送り込んでる訳では無いと言う…
魔力を回復するためか、すぐには襲ってこないスベルカミ。
それを利用して、こっちも作戦会議だ。
「自然回復にしては早すぎるでしょ…」
「あんなの削りきれませんよ…『強欲』はもう使えません」
「咲島さんのゼロノツルギでなんとか…」
「無茶言わないで」
「じゃあ、『紫陽花』の…」
「……逆にこっちから聞くわ。アレが対象になってると思う?」
「……『菊』」
「『虚構』は1回見せてるから対策されてるよ。なんだったらうまくはめても《破壊》でワンパン」
「『青薔薇』と『牡丹』は…」
「私達は戦闘力が高いだけだから…」
「《停止》はいの一番に破壊されてたよ」
……どうやって勝てと?
いや、蝶の神のシナリオでは、誰が死ぬことは分かってたよ?
でも、勝てる見込みがあるんだよね?
…どうやって?
「今攻めるしか無いんじゃないですか?回復されたら本当に勝ち目ないですよ」
「分が悪すぎる賭けだけど…やるしかないね」
勝ち方とか勝算とか全く思い浮かばない。
だけど…このまま絶望して何もしないのは一番良くない。
これ以上魔力を回復させないためにも、とにかく攻撃を仕掛けることに。
咲島さんが一番に前に出て、ゼロノツルギを構える。
「凍れ!」
『何故効かない攻撃を繰り返す?』
《破壊》を構えるスベルカミ。
アレをされると冷気攻撃は完全に無駄打ちだ。
それどころか、かずちゃんの『鳴草薙』や『轟』なんかも無効化されそう。
「効かないなんて百も象徴。全員!とにかく私に続きなさい!!」
構わず冷気攻撃をする咲島さん。
しかし、様子がおかしい。
ただ白い白いモヤ…というか霧?が発生するだけで、氷が全くできない。
…目眩ましか!
咲島さんの意図を理解した私は、《神威纏》を発動したまま注意を引けるように大胆に動く。
それを見てかずちゃんも理解が追い付き、極力魔力を隠して行動を開始する。
大幹部達もそれぞれ動き始め、気配を消した。
『目眩まし…神林紫を囮にして攻撃を仕掛けると?だが甘いな』
魔法の気配がする。
全体攻撃の魔法で霧ごと私達を吹き飛ばすつもりか!
それに即死攻撃も乗ってるし…私以外即死させるつもりなんだろう。
…でも、甘いのはそっちだと思う。
「学ばないな、お前」
『なにっ!?』
魔法の気配消えた。
やっぱりそうなるか。
『菊』が居る限り魔法は使えない。
だから東京では真っ先に『菊』を殺そうとしてたのに。
…それに、『菊』が居るという事は――
『くっ!?全員の気配を《隠蔽》と《偽装》で隠したか!!』
「ご明察。『虚構』が使えなかろうが私は強いのよ」
対策自体は簡単だけど、出来なきゃ格下相手にフルボッコにされる。
魔力を放つ事で『菊』の《隠蔽》と《偽装》を無効化できるけど…
『忌々しい…面倒な霧ごと吹き飛ぶがいい!!』
魔力爆発を起こし、その余波で霧と《隠蔽》《偽装》を吹き飛ばすスベルカミ。
しかし…
「何度でも隠すよ私は」
吹き飛ばされたのならもう一度使えばいいだけ。
再び全員の気配が消え、視界を外せば仲間でも何処にいるのか分からない。
無法な強さを発揮する『菊』。
だけど、それだけだと私達は攻撃の機会を得ただけ。
何か大きく決定打になるようなモノは…
『―――!?』
「…あー、なるほど?それやるなら協力するよ」
「何今の…」
「『青薔薇』。私が気配と姿を隠して、『青薔薇』が超スピードで首を刎ねる」
「えっと…無法すぎない?」
攻撃の機会を得るだけでも相当やれることが今わかった。
これだけすれば魔力も削れて……ないね全然!!
『小癪な…お前達がその気なら我もただでは済ませんぞ!!』
また魔力爆発を起こすスベルカミ。
魔力の回復速度が早すぎるから高頻度で使っても余裕がある。
それに対してこっちは減る一方。
不味い…戦えるようにはなったけどジリ貧だ。
今はこれでいいかもしれない。
でも、この後はそうも行かない。
なんとか…この状況を打破できる策を…
今ある手段でスベルカミを倒す。
私はとにかく《神威纏》で見えやすい的になればいい事を良いことに、攻撃を仕掛けずに策を考える。
しかし、明確に勝てる策が思いつくのではなく…ただ時間が過ぎていくのだった。
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