第231話 最強とヒキイルカミ3

30分の時間稼ぎ。

ひたすら何もさせず、私が殴り続ける事30分。


「よく耐えたわ。本当、大したものね」

「流石は神林さんです!私は、信じてましたよ!」

「ふぅ…ふぅ…本気で疲れた……」


《鋼の心》を解除して人の感情を取り戻すと、2人と合流する。

ヒキイルカミは、忌々しそうに2人を睨んでいるけれど、その表情にはまだ何処か余裕がある。


『お前たち2人の《神威纏》が終わればこちらの勝ちは確実。さあ、最後の戦いを始めよう』

「とか言って、随分と弱腰じゃない。どうせ私達の《神威纏》が終わるまで逃げるつもり何でしょう?させないわよ」


そう言って、《神威纏》を使わずにヒキイルカミと距離を詰める咲島さん。

ゼロノツルギを構えると、ヒキイルカミの攻撃を皮一枚のスレスレで躱し、冷気攻撃をする。


こんなにも易易と反撃され、目を見開くヒキイルカミ。


「あれだけ長く目の前で戦われて、私が何もしてないと?お前がいつ生まれ、どんな技術を習得してきたか知らないけど……私はね?戦闘経験だけは、誰にも負けない!!」

『くっ!小癪な!!』


怒りを露わにするヒキイルカミ。

《神威纏》を使われない事が相当屈辱的らしい。

まあでも、当然と言えば当然。

私だって同じ状況ならキレる自信がある。

だって、300近いレベル差があるのに、それ。埋める手段を使わず戦う。

と言うか戦えるって言われているようなものなんだから。

正直、馬鹿にしているとしか言いようがない。


…でも、それが出来てしまうのが咲島さんクオリティ。


『くっ!何故戦える!?』

「さあ?何故かしらね?」


ヒキイルカミの攻撃はハッキリ言って分かりやすい。

確かに、パワーもスピードも技術もある。

でも、それだけじゃ駄目。

そう言った力を扱いにはそれ相応の練度が必要であり、それ単体で与えられても強くはなれない、なりきれないことがよくわかる。


「お前には圧倒的に経験が足りていない。力も、速度も、技術もある。でも、経験が足りていない。そこの2人と一緒さ」

「「うっ!」」


経験が足りず、咲島さんに負けた苦い思い出が蘇る。

私達も、ヒキイルカミと近いものがある。

ヒキイルカミの方が圧倒的に強いからそれが顕著なだけで、経験と言う意味ではそんなに変わらない。

つまり、私たちはこれからも鍛錬に励まなきゃいけないって事。


そんな事を考えていると、ヒキイルカミが咲島さんに蹴り飛ばされて吹き飛ぶ。


「動きが読めるようになれば怖くないわね。2人…いや、一葉ももう動きは読めるでしょ?」

「もちろんです」

「なら、3人で畳み掛けるわよ。この戦いを終わらせる」


そう言って、咲島さんは私達を呼ぶ。

一応、私だけは《神威纏》を使って、かずちゃんは使わずに戦闘を始めた。

私1人、咲島さん1人に抑えられていたヒキイルカミが私達3人との戦闘で勝てるはずもなく。


ただ火力がバカでスピードもえぐいけど、動きがわかりやすい的となったヒキイルカミを追い詰めるのに、私達の有利が揺らぐことは無かった。


徐々にヒキイルカミを追い詰め戦い続けること数十分。


『バカな…この我が……』

「典型的なやられ役の発言ね。今、終わらせる。だから大人しくその命を差し出しなさい」


地を這う哀れなヒキイルカミ。

ゼロノツルギを向け、冷たい視線を向ける咲島さん。


『……断る。我は…まだ負けていない…』


ヒキイルカミは強情だ。

この状況でなお、まだ負けを認めず諦めてもいない。

その屈強で揺らぐことのない意識は称賛に値するし、見習いたいくらいだ。

…でも、流石に無謀でしかない。


「残念ね。じゃあ、さようなら」


《神威纏》を発動し、膨大な魔力を冷気へと変える咲島さん。

終わった。

なんとか勝つ事が出来たと安心し、私も《神威纏》を解いた。


冷気が放たれ、ヒキイルカミの全身があっという間に凍りつく。

ヒキイルカミも他のモンスターの例に漏れず、氷漬けになった瞬間体が崩れ始めた。


咲島さんも一息ついて《神威纏》を解こうとしたその瞬間―――


「っ!?何か来る!!」

「ポータル…?まさかッ!!」


突然、氷漬けのヒキイルカミの上にポータルが出現し、空間に穴が開いた。

私は再度神威纏を発動し、警戒度をマックスにする。


こんな事をするのはアイツしか居ない!


「蝶の神!このタイミングで仕掛けてくるか!!!」


咲島さんが私の考えを代弁するかのように叫ぶ。

そして氷漬けのヒキイルカミを砕こうとするが…


「硬い!?」

「えっ!?」

「ここまで直接干渉してくるって事は……咲島さん!かずちゃん!下がって!!」


私の叫びに2人が飛び退く。

その直後、空から光が降り注ぎ、氷だけを砕いてヒキイルカミを解放した。


『これは…?…おお!感謝いたします!我が主よ!!』


魔力が凄まじい勢いで回復していくヒキイルカミ。

そして、その警戒をする間もなくポータルから2つの影が現れる。


「アレは…コワスカミとホロボスカミか!!」

「随分ボロボロね…流石は大幹部総出で戦っただけはある……でも、蝶の神に茶々を入れられたか」

「冷静に考察してるとこ悪いですけど、そんな余裕ないですよ!こっちは魔力も体力も大きく消耗してるのに、あっちは完全復活しようとしてるんですから!!」


ポータルから現れたのはコワスカミとホロボスカミの2体。

『花冠』大幹部の4人との戦闘で魔力をほとんど失っているようで、傷がそのままになっている。

でも、それもすぐにもとに戻る。

これじゃあ全てが台無しだ。


「本っ当に性格が終わってる…!」

「落ち着いて。すぐに《神威纏》を使って大技で消し飛ばそう」

「……それができるならしてますよ」

「え?」


出来るならそうしてる…?

それってつまりは…


「さっきから《神威纏》が使えないんです。ポータルが開いたあたりから」

「でも、私は使えるわよ…?」

「神林さんはまとめて全部を吹き飛ばすほどの力はありませんからね。多分、咲島さんもゼロノツルギが使えないんじゃないですか?」

「よく気付いたわね。……蝶の神は意地でも私達に攻撃させたくないらしい」


…これから、何かある?

でも、奴らを回復させる以外に何かあるなんて思えないけどね。


何が起こるのか想像できず、とにかく蝶の神の待ったが解けるまで待機していると…


『お前達は用済みだ。そう、主もおっしゃっておられる』


ヒキイルカミがそんな事を言い出したかと思えば…コワスカミとホロボスカミが突然光始める。

そして…


『その命、捧げよ』


その言葉と共に、全身が光へと変化しヒキイルカミへ向かう。

…吸収。

2体のカミの力を吸収してさらに進化するつもりか!!


「不味いですよ。このままだとコワスカミとホロボスカミを吸収してヒキイルカミが完全体に!」

「なんか何処かの人造人間みたいね…」

「そんなつもりで言ってません!!」


どうせ攻撃できないからちょっとふざけたら怒られた。

しかし、このこっちから攻撃できないように抑えられてる状況…ヒーローの変身を待ってる悪役ってこんな気持ちなのかな?

“お約束”ってやつ。


悪役は明らかあっちだけど。


そんな事を考えていると、ヒキイルカミの体がどんどん変わって……いくことはなく。

ただ、気配がそれまでよりも大きく、そして心の深いところからの拒絶を感じさせるような恐ろしいものに変わっていく。


『あぁ…素晴らしい…なんという絶大な力…!』

「かずちゃん。鑑定をお願い」

「もうしてますよ。はい」


ヒキイルカミのステータスが私達に見えるように表情される。


―――――――――――――――――――――――


名前 スベルカミ

種族 神霊

レベル550

スキル

  《神威・支配》

  《神威・破》

  《神威・滅》

  《破壊》

  《魔導》

  《飛翔》

  《統べる者》

  《神体》

  《隷属支配》

  《神域結界》


―――――――――――――――――――――――


2体のカミの力を吸収し、自分の能力にする……レベルを上げてスキルを奪った感じか。

さて……冷静に考えていられるのが不思議なくらい絶望的な状況だけど、さてどうしたものか。


「……神林さん。何かプランは?」


絶望的な表情のかずちゃんが助けを求めるように私に問いかけてくる。

どう答えたものか…返答に悩んでいると。


「やっぱりここに繋がった……って、何アイツ!?」

「一足遅かった感じね…『青薔薇』が遊んでるから…」

「いや、私言うほど遊んでた?」

「姐様。無事ですか?」


ポータルから4人の女性が現れ、すぐに戦闘態勢を取る。


『大幹部か…だがもはやお前達は敵ではない』

「あっそ。じゃあこっちは作戦会議するから止まってなさい」

『……動けない?なんだ?その力は』

「誰が教えるか」


『牡丹』が何かをしてヒキイルカミ……いや、スベルカミの動きを止める。

あんな力あるのか…このレベル差で動きを止められるって相当強い。


そんな事を考えていると、4人がこちらへ合流し、スベルカミのステータスを見て絶句している。


「良い所に来たわね。手伝ってちょうだい」

「なんて無茶な事を……まあ、主君の命ならやりますけど。ね?」


『菊』が逃げようとする『青薔薇』に釘を刺し、『牡丹』と『紫陽花』が行く手を阻む。


「安心しなさい。例えどれだけ強くなろうと元はヒキイルカミ。そう変わらないわ」

「……即死攻撃とスキル効果含めた全てを破壊する攻撃を通常攻撃のように使い、マガツカミに匹敵するであろう魔法が使えてステータスがアラブルカミ並の相手ですけど…やれそうですか?」

「……まあ、なんとかなるわ」


……化け物かな?

咲島さんも流石に無理のある表情で『青薔薇』を説得してるし…


『ふむ…面白い力だ』

「チッ…《停止》を破壊された」

「さて、これで後に引けなくなったわよ。頑張りましょう」


『牡丹』の拘束が破壊され、動けるようになったスベルカミ。

流石に逃げるのは絶望的。

私もかずちゃんの手を握って戦う姿勢を見せる。


『手始めに…まずはお前達を支配してやろう。光栄に思うが良い』


その言葉と共に、スベルカミが禍々しい力を纏った。

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