第222話 それぞれの成長

仙台ダンジョン第80階層


「―――じゃあ、私と神林さんがあっちに居る間ずっとダンジョンに通ってたの?」

「休暇はどうしたんですか?せっかくの休みなのに…」


私とかずちゃんの実力が見たいと言う咲島さんの要望で、仙台ダンジョンの第80階層にやって来た私達。

その途中、私達が居ない間咲島さんが何をしていたか教えてくれた。


どうやら咲島さんはずっとダンジョンに通っていたらしく、ダンジョン攻略を10階層分押し進めたらしい。

つまり、第90階層まで攻略が進んでるんだとか。


「休むって事自体に私は慣れてないし、蝶の神があなた達に《神威纏》を習得させたって事は、絶対に何か裏がある。そんな中で、じっとしているわけには行かないでしょう?」

「そうかもだけど…」

「休む時はしっかり休んでくださいね?何かあってからでは遅いんですから」


咲島さんが過労死したらおしまいだ。

咲島さんは今でも私達の中での最高戦力で、最後の切り札的存在。

そんな咲島さんを失うような事になったら、もう私達に明るい未来は来ないと思う。


「大丈夫よ。ちゃんと暗くなる前には帰ってるから」

「そんな子供みたいな…」

「そうしないと、みんなが口うるさいのよね…5分でも遅れたら電話が鳴り止まないんだもの」

「大幹部の面々に怒られるって事か……いいじゃないですか、上司の体調を心配してくれる優しい部下に恵まれて」

「まあ、それはそうね」


大幹部は咲島さんが帰るのが遅れるとかなり怒るようだ。

電話が鳴り止まないって言うあたり、全員から怒られるてるんだろうね。

信頼されてるなぁ…咲島さんは。


「さて…このあたりでいいでしょう。あなた達の本気を見せてちょうだい」

「分かりました。かずちゃん…行くよ」

「はいっ!!」


開けた場所でゼロノツルギを構える咲島さん。

私とかずちゃんはすぐに魔力を整えて戦闘態勢を取る。

かずちゃんも刀を抜いたし…私もやりますか。


「「《神威纏》」」


同時に《神威纏》を発動すると、かずちゃんはすぐに地を蹴って咲島さんに肉薄する。

咲島さんはかずちゃんの初撃を剣で受けた。

《神威纏》を使ったかずちゃんと咲島さんではパワーに差が大きくある。

咲島さんは弾き飛ばされ、50メートル程離れた場所に着地した。


「中々のパワーね。神林さんの方は…」

「ふっ…!」

「くっ!?…ステータスの上がり具合が低い割には高火力ね。人間サイズ相手ならまあ十分」


私達のパワーを測った咲島さんは、軽く両腕を伸ばし首を鳴らすと不敵な笑みを浮かべる。

それを見て何が始まるのか?

分からないほど私達は馬鹿なじゃない。


「これは、躱せるかしら?」

「っ!?」


走る途中で《神威纏》を使い、一瞬で距離を詰めてきた咲島さんの凶刃がかずちゃんへ振るわれる。

かずちゃんはそれを紙一重で躱すと、すかさず反撃しようとするも、牽制の投げナイフで邪魔された。


「じゃあこれは防げる?」

「ぐっ…!」


雷のように速い蹴りが私の腹を直撃する。

腹を蹴られることをなんとなく予測していた私は、全ての防御を腹に集中していたお陰で無傷。

…ただ、余波だけで十分な破壊力があり、その余波で私はダメージを受けた。


「浮気、ダメッ!!」

「っ!?」

「――ぶなっ!?」


かずちゃんがいきなり斬り掛かってきて、堪らず咲島さんは逃げた。

…私も危うく首をはねられるところだった。


「恋人ごとやるなんて怖いね!神林さんが泣いてるわよ!?」

「うるさい!!泥棒猫ババア!!」

「オーケイ。殺す」


激しい切り合いに発展する2人。

私を傷付けられて怒るかずちゃんと、ババア呼ばわりされて怒る咲島さん。

一歩間違えば本当にどちらかに大きな怪我…或いは命の危険がある程の打ち合い。

その優劣は、やはり総合的なステータスで勝る咲島さんに軍配が上がった。


「パワーもスピードも技術も。タケルカミを相手してると思えば怖くないわね!」

「アレと比べられたら私なんて下位互換も良いところ!でも…私にはアレにはない強味がある!!」


かずちゃんがそう叫んだ直後、私も戦闘に参加する。

ステータスでは圧倒的に届かないけど…そんな私でも今の状態の咲島さんと張り合える物がある。


「チッ…!私の動きにしがみつけるようになったのね…」

「邪魔そうですね。でも、こんなものじゃないですよ」


咲島さんが剣を振りにくく、私にとっては攻撃がしやすい距離間。

ここまで来れば私は咲島さんを相手に圧倒出来る。


「……この間合いは良くないわ。2人とも、ちょっと我慢してちょうだい」


堪らず咲島さんは後ろに飛ぶと、ゼロノツルギに魔力を流し、大量の氷を作り出して私達にぶつけてくる。

氷の質量が攻撃自体は避けてしまえば問題ない。

咲島さんとの間に距離ができてしまうけれど…こっちは人数有利だから、2人で距離を詰めれば良い。

問題は…


「流石に寒いですね…」

「肺が凍る…」


咲島さんが放ったのは氷だけじゃない。

マイナス数十度の極低温の冷気だ。

冷気は流石に防げない。

しかもタチの悪い事に、あの人常に冷気を垂れ流してる。

自分が冷気耐性あるからって…!


「人の嫌がることを率先してする…かずちゃんはああなっちゃ駄目よ?」

「はい」

「余計な事言わないでちょうだい」


空気中の水分が凝固し、まるで霧をまとったかのような状態で斬り掛かってくる咲島さん。

私はかずちゃんに咲島さんを任せると、後ろに回って2方向から攻撃しようとする。


「悪いけど、それで不利になるほど私弱くないから」

「くっ!?」

「きゃっ!?」


かずちゃんの刀が弾き飛ばされ、私は《鋼の体》を叩き割る蹴りを食らった。

かずちゃんはメインウェポンを失ったし、私は結構痛い一撃をもらった。

それに、もうすぐかずちゃんの《神威纏》が切れる。

私達の負けだね。


「《神威纏》で強くなり、素のレベルも上がったようだけど…まだまだ負けないわよ」

「…勝てる条件のはずなのに」

「条件はね?年季が違うのよ年季が。一葉のババア発言は何も間違ってないわ」


経験の差か…

私達はまだ1年も経たないひよっこだけど、咲島さんはこの道20年以上のベテラン。

戦い慣れてるってことだ。


「あなた達の成長はだいたいわかった。レベルに関しては…もう私と並ぶくらいには上がってるんじゃないの?」

「よくわかりましたね…私達のレベルは巨竜を倒した事でかなり上がりました。具体的には私が126、かずちゃんが132です」

「おおぅ…ついに追い抜かれる一歩手前まで来たわね…」


流石に3倍以上レベル差がある相手を倒せば、かなりレベルも上がった。

かずちゃんなんて10以上上がってるし。

もう咲島さんを目前に捉えるくらいには強くなってる。


…でも、やっぱりレベルが上がっただけじゃ咲島さんには勝てないね。

まだ咲島さんの方が強い。


「私ももう大きな顔はできないわね…世代交代の時期が来たということか」

「後は私達に任せて、おばあちゃんは家で休んでなさい!」

「ふんっ!まだまだ若い子には負けないわよ!」


お互い好戦的な笑みを浮かべて睨み合う2人。

かずちゃんはもう少しで目標を超えられそうでやる気に満ちてるし、咲島さんは久し振りに競い合える相手が出来て楽しそうだ。

2人のやり取りを眺め、再度神威纏が使えるようになるまで休憩する。

その後、この日は4回模擬戦をして咲島さんの指導を受けることができた。

私もかずちゃんも得るものがあった気がする。あとはコレを、忘れる前に活かしたいところだね。



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