第221話 久し振りの家

「うわぁ〜!帰ってきたぁ〜!」

「ふふっ…嬉しそうね?」

「やっぱり我が家に勝る安心感は無いですよ!どんなに環境を整えようとも、やっぱり住み慣れた我が家が一番です!」


1週間とちょっと…いや、ほぼ2週間近く家を空けていた私達。

帰ってきた我が家はいつもの景色で、とても落ち着く。

…でも、何故か何処か新鮮に思えるのだ。


「しばらくあっちにいたからかな?なんか変な感じがするね」

「ですね〜。でも、やっぱり安心感が違いますよ。プライベートの空間に帰ってきた開放感。堪りませんね」

「……まあ、どうやら空けている間に人の出入りはあったみたいだけど」


部屋があまりにもキレイだ。

きっと、私達がいつ帰ってきても良いように咲島さんが定期的に家政婦的な人を送ってくれてたんだろうね。

しかし、あまりにもキレイに片付けられすぎて逆に落ち着かない。


「キレイにしてくれてるのは嬉しいけど…やっぱり他人に片付けられると何処に何があるか分からなくなるわね」

「まあいいじゃないですか。そのうちもとに戻りますよ」

「まあ、それもそうね。……さっそくだけど、寝てきてもいいかしら?」

「全然いいですよ。私も自分の家のベッドで寝たかったところなので、一緒にいきましょう。……もちろん、変な意味はありませんよ」


疲れが取れていない私達は、とにかく自分の家のベッドで寝たかった。

淫乱性欲モンスター娘のかずちゃんでさえ、普通にベッドで寝たいと言います始末。

想像以上に自分達が疲れていることを自覚すると、その疲れを取るべくベッドに向う。

そして、そのまま2人で倒れ込み、気を失うように寝てしまった。







「起きなさい。何時間寝るつもり?」

「うぅ〜ん…?」


気持ちよく眠っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

目をこすりながら体を起こすと、なんだか含みのある笑みを浮かべた咲島さんの幻影が見える。

…寝ぼけてるのかな?


まだ眠たいんだと思い、体を横にしてもう一度寝ようとすると……


「いい度胸じゃない。…コールドスリープを体験する気は無い?」

「「っ!?」」


強烈な殺意を感じ、飛び起きて臨戦態勢を取る私とかずちゃん。

しかし、その殺気の源が咲島さんである事に気が付くと、すぐにその臨戦態勢を解いた。


「なんだ、咲島さんですか…脅かさないでくださいよ」

「ほんとほんと。神林さんと私は気持ちよく寝てたんですよ?」

「……まだ寝ぼけてるようね。氷風呂に入る気はない?」

「何言ってるんですか?…と言うかどうしてここに?」

「ようやく頭が回り始めたようね」


咲島さんが額に手を当てて溜息をつく。

この人なんで人の家に勝手に上がってるんだろう?

しかも、寝室にまで侵入してきて…


思わず首を傾げそうになっていると、咲島さんが怒りを顕にしながら口を開く。


「2週間近く行方不明になった挙げ句、帰ってきたと思った何も言わず丸一日爆睡。…さて、どうしてくれようかしら?」

「…え?そんなに寝てたんですか?」

「丸一日どころかプラス半日寝てるわよ。そんなに寝られちゃ話にならないし、わざわざここまで来てあげたのに…」


怒りが霧散してまた呆れた表情の咲島さん。

どうやら私達は想像の数倍は疲れていたみたいだ。

…そう考えるとまた眠くなってきた。

もう少し寝ちゃ駄目かな?


「まさか、もう少し寝ようとか思ってないわよね?」

「…まさか。そんな事思ってませんよ」

「思ってたのね」


どうやら寝させては貰えないらしい。

私達はリビングへ行くと、咲島さんにコーヒーを出してリビングでくつろぐ。


「さて……もう習得したって事でいいのかしら?」

「はい。2人とも習得していますよ」

「そう…ちなみにどんな試練内容だったのかしら?」


咲島さんはおおよそ事情を把握しているらしい。

蝶の神が与えた試練がどんなものだったか興味があるようで、私に試練の内容を尋ねてくる。


「まずいきなり異空間の小屋に飛ばされました」

「小屋か…周囲の環境は?」

「小屋の周りは森、そこから少し離れると延々と続く平原がありましたね。あと、平原と反対方向は延々と続く森でした」

「なるほど…モンスターは居たかしら?」

「レベル100以上のドラゴンが複数居ました。ですが、数はそこまで多くはありませんよ」


レベル100以上のドラゴン。

そう聞いて咲島さんの表情が険しくなる。

まあ、普通に考えて頭おかしいからね。

私や咲島さんクラスじゃないと倒せないような化け物が、そこらの雑魚としてうようよいるんだから。


「あの異空間のボスは、とても大きなドラゴンでした。レベルは450。魔法、物理共にほぼ効きません。そしていざ口を開けば咲島さんの本気の攻撃に匹敵する破壊力を持つブレスを連射してきます」

「…待って?そのドラゴンは――」

「倒しましたよ。かずちゃんが2発で」

「ふふん!」


私は自分の功績かのように自信満々で咲島さんに報告し、当のかずちゃんは手を腰に当てて誇らしげだ。

それを見た咲島さんは、もはやドン引きしている。


「2発って…何したの?」

「なんか…奥義を当てました」

「奥義?……待って。まさかタケルカミの切り札を使ったとか言わないわよね?」

「まさにそれだよ。一番弟子は咲島さんではなく、わ・た・し」


自分の活躍を見せびらかしたいかずちゃんは、とってもノリノリだ。

私の膝の上でとても楽しそうにしている。

…普段咲島さんに煽られ馬鹿にされてるから、その鬱憤を晴らすって意味もあるだろうけど。


「……あの技は私でも使えないのよ?それをそんな…」

「才能の違いですかねぇ〜?いや〜!天才って辛いなぁ〜!」

「……よし。こっち来なさい。一発殴る」

「まあまあ。落ち着いてください…かずちゃんもいい加減にしなさい」

「は〜い…」


咲島さんを止め、かずちゃんを軽く叱る。

大人な咲島さんはすぐに怒りを抑え、それでも不快そうな様子でふんぞり返って話を再開する。


「まあ奥義については後で個人的に聞くからいいわ。それより、2人の…特に神林さんの魔力制御が格段に上がっているように見えるのだけど、何かあった?」

「《魔闘法》がレベル10になったからだと思います。あと、私は《神威纏》を制御できるようになったからかもしれせません」

「………はぁ。コーヒーのおかわりと何かお茶菓子を貰えないかしら?」

「分かりました。かずちゃん」

「は〜い」


頭を抱えて全身の力を抜いた咲島さん。

コーヒーのおかわりとお茶菓子を要求していた。

私の膝の上に乗っていたかずちゃんにお願いすると、すぐにコーヒーと私の買っていたモンブランを渡すかずちゃん。


…あれ2週間近く前のやつだから腐ってないよね?


「賞味期限大丈夫だった?」

「1週間くらい切れてたので丁度いいと思います」

「客人になんてもの出すのよ…」

「いいじゃないですか、いきなり家に押し掛けてきた非常識な客人なんですから」

「聞こえてるぞバカップル。後で私の力を試す相手になってもらうからな、一葉」


咲島さんは文句を言いつつも、出されたモンブランを食べる。

…食べるんだ。


「うわぁ…」

「なんでかずちゃんがそんな顔するのよ…」

「普通あんなの食べませんよ…」

「いきなり家に押し掛けて、叩き起こして飲み物やお菓子まで要求してるのよ?非常識は認めるわ」

「だからって食べないでしょ普通…」

「出された物を捨てるなんて勿体ない。最近の子はこれだから」


…これが噂の勿体ないババアってやつか。


「…神林さんも私のサンドバッグになりたいようね」

「飛び火した…」

「いや、今のは神林さんが悪いと思いますよ、私も」


視線で全てを察した咲島さんに死刑宣告を食らった。

しかもかずちゃんも弁明してくれない。

この裏切り者。


「ふぅ……さて、《神威纏》を制御できるって話だけど……今この場で使えるかしら?」

「使えますよ。ほら」


躊躇いなく《神威纏》を発動し、周囲に影響が出ないように抑える。

それを、咲島さんは興味深そうに見ている。


「……本当に制御出来てるわね。これ、どうやってるの?」

「こう…なんかギューッと」

「はぁ?」

「神林さんにまともな答えを求めるのは間違いだよ。この人にはついてけない」

「まあ、そうだな」

「酷くない…?」


咲島さんは私に制御の仕方を聞いてきたけど…伝わらなかった。

そして、かずちゃんからもまともじゃない扱いされた。

とりあえずこの子には後でキツイお仕置きが必要ね。


「…ここまで制御できるなら、何時間も使えそうね。私は15分しか使えないのに」

「私は10分くらい」

「逆にもう10分も使えるのね…本当、末恐ろしい。……まあ、それはともかくとして、神林さんの《神威纏》。それあんまり強くなってないんじゃないの?」

「そうですね。出力を抑えているので、今はプラス30レベルくらいです」

「最大でどのくらいかしら?」

「…多分プラス70が限界ですね。それ以上となると、かずちゃんや咲島さんのように制御を捨てて一時的な強化に振ることになるので」


私も制御を捨てれば咲島さんのような超パワーアップは見込める。

でも、咲島さんと同じく長くは使えない。

今の私は超パワーアップをしない代わりに、強化状態を長く維持できるのが強味。


「私が自分から制御を捨てることはなかなか無いと思いますよ」

「でしょうね。その状態で魔力武装や魔力装甲を使えばどうなるか」

「試練に出てきたドラゴンは普通に無効化してきましたけどね?」

「…まあ、カミ以上の化け物だもの。仕方ないわ。…逆に言うと、それくらい強くないと現段階の神林さんを止められないって事ね」


そう考えると、今の私って咲島さんやかずちゃんよりも強い?


「それは無いわ」

「…咲島さん、新しく心を読む能力でも手に入れました?」

「あなたは単純だから何考えてるか分かりやすいのよ。…話を戻して、《神威纏》を使っていると言う条件なら、私達の火力の高さはよく知っているでしょう?」

「まあ…はい」


2人の火力の高さ。

天変地異のような広範囲殲滅攻撃をしてくる咲島さんと、平原が渓谷に変わるような攻撃をしてくるかずちゃん。

…うん、耐えられる気しない。


「確かに戦い方次第では私達を圧倒出来るでしょうけど……まあ、負ける気はしないわね」

「私も、神林さんには負けませんよ」

「……30分も使えないくせに偉そうに」

「でも、30秒もあればあなたを倒せるわよ?」

「私も!」


…やっぱり、持久力よりも瞬間的な爆発力のほうが正義なのかな?

私も制御を捨てた戦い方の練習したほうが良いかも。


「……まあ、何事も一長一短だし、気にすることないと思うわ。自分の強味を活かしなさい」

「そうですね」

「……それはそうとちょっとトイレ貸してもらえる?」

「…食あたりですか?」


…さっきまでの威厳が完全に消えたね。

咲島さんでも食あたりにはなるんだ…


「なんか妙に酸っぱいとは思ってたけど…駄目なやつだったわ」

「あ〜あ。もう若くないのに無茶するから…」

「一葉。お前、五体満足で修行から帰れると思うなよ」


煽られてキレる咲島さんだけど、そんな青い顔でお腹押さえながら怒られても怖くない。

とりあえずトイレに案内して、かずちゃんを叱っておく。

トイレから出てきた咲島さんは、かずちゃんを一度睨んでいたけれど…まだ顔が青かったからそんなに怖くなかったのは内緒。

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