第220話 圧倒的破壊力

「いたた…どうなったの…?」


かずちゃんの奥義が炸裂した。

その瞬間、光が全てを包み込み、全てが飲み込まれる。

でも、ヤバイと思って退避していた私は無事だったけど……巨竜はどうなった―――は?


「なに…これ…」


瓦礫の山を掻き分けて外に出てきた私は、地平線の彼方まで続く大地の亀裂を見つけた。

…ついさっきまで、何も無い平原だった場所で。


「あ、神林さん」

「かずちゃん…これは?」

「奥義の余波ですね。自分でもびっくりしてますよ。まさかここまでとは…」


奥義…人の力で…ここまで出来るのか…

これを開発したタケルカミは本当に化け物だね…同じ技が使えると考えると、味方側で良かった。


「…そうだ。巨竜は?」

「レベルが上がってないので、まだ生きてると思いますよ。…まあ、私の魔力に隠れてどこに居るのか探知出来ませんせど」

「そうね…この魔力が霧散しない事にはどうにも――っ!?危ない!!」

「わわっ!?」


かずちゃんの魔力が充満した渓谷の中に探知を使っていると、かずちゃん以外の魔力を感じた。

それが分かった瞬間、凄く嫌な予感がして私はかずちゃんを抱きかかえて走る。


その直後、私達がいた場所が魔力の破壊光線によって吹き飛ばされる。


「ブレス…やっぱり生きてたか…」

「ありがとうございます、神林さん」

「安心するにはまだ早いよ。こうしてるうちにも2発目が…くっ!」


破壊光線が私目掛けて飛んでくる。

かずちゃんを抱えたまま走ってかわす。

でも、躱してるだけじゃ駄目だね。


「まだ攻撃出来る?」

「あの距離まで届くほどの攻撃は無理ですよ…魔力は殆ど使っちゃったので…」

「そうよね……かと言って、ここで逃げるわけにもいかない…かずちゃんはここで待機してて」

「ちょっと!?それは無茶ですよ!!」


後ろで叫ぶかずちゃんを無視し、私は渓谷の中へ飛び込む。

ここで巨竜を倒しておきたい。

かずちゃんは魔力をだいぶ消耗しているし、私がやる。

そう思っていたけれど…


「なんでついて来たの!?」

「当たり前じゃないですか!!神林さんだけで挑むなんて無茶にも程があります!」


かずちゃんが残り少ない魔力を使って私についてきた。

その事を怒ろうとしたけれど…


「っ!?くそっ!!」

「わぁっ!」


ブレスが飛んでくる気配を感じ、かずちゃんをお姫様抱っこして回避する。

そしてそのままダッシュ。

少しでも魔力を温存してほしいからね。


「……そういう意味は無いからね?そんな期待に満ちた顔しても無駄だからね?」

「全少女の夢…」

「お〜い。現実に戻っておいで」


まあ、お姫様抱っこなんてしたらかずちゃんが大喜びするわけで。

頬を赤く染めて世迷言を吐いてる。


とりあえずそんなかずちゃんの相手は後でするとして、巨竜に向かって走る。

それなりに距離はあるけど…私の身体能力にかかればこんな距離10秒もあれば十分。

すぐに巨竜の姿が見えた。


「…いいじゃん。かっこよくなったんじゃないの?」

「なかなか泊が付いたんじゃないですか?まあ、それを披露する相手はいませんけど…ね?神林さん」


巨竜は全身がボロボロで、立派な翼はほぼ燃え尽き、鱗はほとんど剥がれ落ちている。

それに、正面から見て縦に深い傷を負っていて、かずちゃんの奥義を受けた事が一目で分かる姿だ。


「そうだね。その無様な姿を全世界に広めたいところだけど…生憎こっちにもそんな余裕は無いから。早速だけど死んでもらおうか」


私は《神威纏》を使用して、一気にステータスをあげる。

そして、かずちゃんに攻撃が届かないように《鋼の体》を展開してバリアを張っておく。


巨竜がブレスを放とうとした瞬間、私はもうやつの懐にいて、強烈なアッパーを放つ。


「鱗が無ければ怖くないね」

「ガッ!?」


鱗が剥がれ落ち、無くなっている部分を殴ればスキルの恩恵は受けないらしい。

魔力は霧散することなく内側へ浸透し、内部で爆発して大ダメージを受けた巨竜。

予想以上の威力に怯んだ巨竜。

それを見逃さず、私は連撃を撃ち込む。


「はぁあああああ!!!!」


数百の爆弾が次々と爆発したような衝撃を受ける巨竜。

しかし、強引に動いて私のことを振りほどいてきた。


「くっ!?やっぱりデカイ奴はタフね!!」

「神林さん!下がって!!」

「――っ!?」


巨竜はその名の通り体がデカイ。

だから、私の攻撃も通りはしても致命傷には至らない。

振りほどかれ、体勢を立て直せていない私に巨竜が尻尾で攻撃してきた。

《鋼の体》で防御しようとするも…尻尾はそれ程鱗が剥がれ落ちていない。


《鋼の体》が中和され、ほとんど直撃と変わらない攻撃を受けた。

その攻撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「ぐっ!!…ゲホッ!ゲホッ!」

「神林さん!!」

「かずちゃ…っ!?避けて!!」


まともに攻撃を受けた私を心配して駆け寄ってくるかずちゃん。

そこに巨竜がブレスを放とうとしてきた。

私は警告するが、かずちゃんは逃げない。

そして、私もダメージがまだ響いて体が思うように動かない…


「まさか、そんな攻撃で私達を倒せると?もっと威力を上げてくれないと心許ないなぁ。だって…」


かずちゃんは私の目の前で刀を構えると、残っている魔力を全て突っ込む勢いで刀に魔力を溜める。


「私の技のほうが強いよ?それは、よく知ってるでしょ?」


…まさか、ブレスと真っ向から撃ち合うつもり?

そんなの…許容出来ない!

あまりにも無謀だ!


「逃げて…戦っちゃだめ!」

「神林さんは怪我を治すことに集中してください。私は、守られるだけの人間じゃありませんよ」


私の呼びかけに聞く耳を持たないかずちゃん。

その間にも巨竜のブレスの溜め時間が伸び、どんどん魔力が溜まっていく。


かずちゃんの残り魔力で弾き返せる量はもうとっくに超えてる。

でも、それでも魔力を高める巨竜。


「そうそう。それでいいんだよ」


巨竜の口が眩い光を放ち、その先がこちらへ向けられる。


無理だ…せめて…かずちゃんだけでも…


私はなんとか体を動かそうと力を入れるが、それをかずちゃんが首を振って静止する。


「忘れましたか?私の力を」


そう言った直後、かずちゃんから禍々しい気配が漏れ出す。

その気配は黒い靄となり、巨竜へと向う。


「奪え、『強欲』」


巨竜が逃げようとした時にはもう遅かった。

かずちゃんの『強欲』によってブレスの魔力が全て吸い取られ、それどころか巨竜の持つ魔力すら奪われている。

周囲の魔力も凄まじい勢いで吸収し、僅かだけど私の魔力も吸っている。


吸収が落ち着くと、今度は刀が眩い光を放つ。


「流石に吸いすぎたからお返しするよ。受け取ってくれると嬉しいな」


奥義程じゃないにしても、膨大な量の魔力。

流石の巨竜もヤバイと感じたのか、焼け落ちた翼で飛び上がろうとするが、思うように飛べない。

諦めて崖をよじ登ろうとするも時すでに遅し。


「やっぱり火力は正義。攻撃こそ最大の防御。ね?神林さん?……一ノ太刀『轟』」


かずちゃんは刀を振り、その膨大な量の魔力を解放する。

必死に崖をよじ登るも逃げることは叶わず…

《龍鱗》も《鋼鉄の鱗》も、全てを貫通して巨大な光の刃によって真っ二つにされた。


「ふふふ…やはり持つべきものは圧倒的な破壊力。他の追随を許さない圧倒的な力。そう思いませんか?神林さん」

「そんな悪役みたいなこと言わないでよ…」

「何を言ってるんですか。これは守るための力ですよ」

「とてもそうは見えないし、だとしたら過剰な気がするけどね」


ボロボロと崩れていく巨竜の肉体を見ながらそんな話をする。

たった2発。

かずちゃんが巨竜を倒すのに行った攻撃の回数。


…これならもうカミなんかに遅れは取らないね。

レベルに対して火力が高すぎるもん。


「…結局、《神威纏》を習得してもかずちゃんの攻撃は耐えられそうにないね」

「まあ、発動までに倒されそうですけどね?」

「そこだけが難点だけど…時間稼ぎならいくらでも出来るよ?」

「あと、ダンジョンの中でないと使えません。あんまりにも…その、被害が出過ぎるので」

「それはそう」


ダンジョンの中じゃ無いと使えない。

あんまりにも火力が高過ぎて、周囲への被害が計り知れないからね。

…この渓谷のような大地の亀裂を見れば分かる事だけど。


「とりあえず、魔石を回収して小屋に戻ろうか。多分、帰れるはず」

「ですね〜」

「…どうしたの?そんなにくっついてきて?」


かずちゃんが妙にくっついてくる。

甘えん坊な子猫くらいくっついてくる。


「神林さんの言うことを聞いて正解でしたね。まさか、こんなに簡単に巨竜を倒せるとは」

「かずちゃんの火力がおかしかっただけ。本気を出した時の火力だけはカミと同等かもね」

「まあ、カミに匹敵する力を全て一つの技に詰めればそれくらいは…咲島さんだってえげつない範囲を凍らせてましたし…」

「確かに…」


……一発限りのロマン砲ではあるけれど、成功させた時のリターンはそのリスクに見合ったもの。

…このままヒキイルカミに挑んでも勝てるかも。


「…シナリオを回避する術は見つかったかもね」

「はい?」

「なんでもないよ。さあ、帰ろう。私達の家に」

「はい!……夜は期待してますね?」

「そうだった……やっぱり明日で良いかな?」

「それは無しですよ〜。まさか、怖気づいたとは言いませんよね?」


もう完全に目がその気になってるかずちゃん。

どうやら私の戦いは今から始まるようだ。

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