第217話 本物の力

私にの中に、大量の魔力が流れ込んでくる。

全ての力が強化され、生命力の流出とフェニクスによる補充が釣り合う様になった。

…よし!これでとりあえず死にはしない!


『いや〜、流石は私が見込んだ組み合わせ。同時に習得したか』

(同時……じゃあやっぱりあの燃えたぎるような魔力は…)

『そうだよ。まあ、とは言っても咲島恭子と同じ不完全なものだけどね』


不完全?

あれで!?


『そうだよ。咲島恭子の場合は生きたいと言う意思と強烈な殺意。御島一葉の場合は強い敵意と性欲だね』

(性欲…?)

『気付いてると思ってたけど…そうでもないみたいだね。なんか傷つけ合ってる状況に興奮してるよ?あの子』

(かずちゃんらしいな…)


この命が掛かってる状況で興奮って…しかもそれが理由で習得?

…あれ?コレって私達が危惧してた習得理由じゃ?


『理由なんてどうでもいいよ。問題なのは、未だに《神威纏》を自らの意思で習得したのが1人だけって話。他2人は感情で習得してるからなぁ…不完全なんだよね…』

(何が駄目なの?見てる限り別に問題ないと思うんだけど…)


私は、荒れ狂う強大な魔力を放つかずちゃんを見て心の中で首をかしげる。


『ブレーキの使い方が分からない状態でアクセル全開にしたらどうなる?その結果がたかが15分しか使えないって話になっちゃうんだよ』


…なるほど。

咲島さんが強い理由は単にブレーキが一切掛かってないアクセル全開状態だから。

ブレーキなんて無いし、常に限界突破のブーストが掛かってる。

その代わり、長くは戦えない。


でも、私の場合は…


(……ああ、こうするのか。こうしたら魔力の出力が下がって調整できるわけね)

『感覚派だねぇ〜』


適当に色々やっていたら、なんか調節ができた。

確かな出力があってかつ長時間使用できる出力……こんなものかな?


『私が話す予定だったこと全部言われちゃった…仕方ない。もう全部タネは割れただろうし、最終戦に向けた種蒔きは終わりかな?』

(…今なんて?)

『聞かなかった事にしてね〜』

(ちょっと!まだ聞きたいことが!!)


私が必死に呼びかけるも無視。

仕方なく諦め、意識をかずちゃんへ向ける。


(さっき私が蝶の神と話してる間襲ってこなかった…反応的に気付いてた訳じゃないし、蝶の神が認識を引き伸ばしてたわけでもなさそう。…もしかして、扱いきれてない?)


今のかずちゃんは、ブレーキ無しでアクセルペダル全踏み状態。

なんとかして制御しようとしてるけど…初めてのかずちゃんには扱いきれないか…ちょっと待ってあげよう。


蝶の神の話が正しいなら、私は正式な方法で《神威纏》を習得し、咲島さんでさえ出来ない出力の調節を自在に出来る。

その練習と怪我の回復のためにもかずちゃんが《神威纏》の荒れ狂う魔力を制御出来るまで待つことにした。






        ◇◇◇






なんでか知らないけど《神威纏》が手に入った。

理由は分からない。

なんか死にかけてたら生えてきた。

やっぱり死にかけまで追い込むのが条件か……昨日までのアレもだいぶ死にかけだったと思うけどね!?


(習得したはいいけど…この…!制御が効かない!!)


流れ込んでくる魔力の出力が強すぎて制御しきれない。

まともな制御は諦めて強引に流そうにも、それすら出来ない。

でも確実に強くはなってるし、使える魔力が一気に増えた。


なるほど、こうやって使うわけだ。

無理に制御しようとするんじゃなくて、強化の恩恵だけ受けて後は無限に魔力が使えるようになるくらいの感覚で使うのね?

確かに咲島さんもそんな感じで使ってた。


「……よし!いける!」

「お?やっとできた?」

「出来てませんけど、使い方は分かりました。……神林さんも習得したんですね」

「まあね〜?」


……なんか様子が変だ。

私と違って荒々しくないし、出力も低い。

おまけに…びっくりするくらい波がきれいだ。


後なんか回復してない?


「いや〜、かずちゃんが遅いから私怪我がほぼ治っちゃった。悪いけど、私の勝ちだよ」

「……言ってくれますね。小屋に帰ったら全部話してもらいますから」


そう言って私は前に出る。

魔力が無限に使える事で、フェニクスの再生速度が上がってる。

全然怪我が痛くないや。


体がほぼ思い通りに動く事を確認すると、私は全力で走り出す。

その速度はさっきまでの倍はある。

あんまりにも早すぎて、私が追いつけないくらい。

これは不味い…神林さんの前で赤っ恥かくかも…


「おらおらおら!!守ってばかりでどうしたんですか!?神林さん!!」

「制御技術を上げるだけでこんなに強くなれるのか……足りてない魔力はいくらでも補強されるから使い放題。確かにこれは強い。かずちゃんや咲島さんには出来ない強みだ」

「何をブツブツと!敵はこっちですよ!」


剣域を使っている時並の速度で刀を振るうも、簡単に受け止められ、流される。

強い…何より守りが堅い。

私や動きがしっかり見えてるのか…


「アクセルベタ踏みよりも、適切な速度のほうが良いって訳だね。かずちゃんの動きがよく見える」

「…本当になんですかさっきから?」

「隙あり」

「がはっ!?」


魔力武装を使ったわけでもないのに、私の腹が爆発したかのような大ダメージを受けた。

その影響で、さっきまで痛くなかった部分まで痛みだし、動きが鈍くなる。

…でも、今更止まれない。

私は…勝つ!!


「やあぁぁぁぁっ!!!!」


全力で斬り掛かり、超高速の連撃を叩き込む。

しかしそれを神林さんは笑顔で受け切る。

どうやってるの?

なんでそんな事が…


くそっ!なんで私だけ!!


「くっ…!……わああああああああああああああああああ!!!!」

「それは破れかぶれが過ぎる」


刀を放り捨てて殴りかかるも、簡単に手首を掴まれて止められた。

くそっ!このまま顎を蹴り飛ばして…!


「動きが見え見え。当たらない」

「なんで!!」

「今言ったこと、聞こえなかった?」


……許さない。

2度も3度も私を馬鹿にして…

結局そうだよ。

神林さんは私のことを愛してる。

それに嘘偽りはないけれど、私のことを見下してるんだ。


私は怒りを胸に無理矢理前に出る。

しかし当然阻まれて意味無し。

押してダメなら引いてみようの精神で離れようとするけれど、神林さんの力は相当強い。

…でも、全くどうにもならないくらいのとんでもパワーではないね。

今の私なら抜け出せる。


「っ!?流石に抜けられるか…」

「やああああ!!!」

「それは効かないって、さっき試したでしょ?別の方法で来な」


斬りかかるもやっぱり全部受け止められて効かない。

別の方法…魔力がまともに制御できないから技も使えないし魔法を使おうにもやっぱり魔力が制御できない。

…この状態である程度制御できてた咲島さんは、きっと相当な努力をしたに違いない。


「他の手段なんて……いや、あるか」


私はアイテムボックスに手を入れると……咲島さんに頼んで用意してもらった消火器を用意する。

それを見た神林さんは訝しげな表情をした。


「…何に使うの?」

「攻撃です」


そう言ってピンを引き抜き、ノズルを神林さんに向けると……


「消火!!」


躊躇いなく中の粉末を噴射する。

神林さんは薄ピンク色の粉末に包まれてその姿が見えなくなる。

私がコレをする意味は、単なる目眩ましをしたい訳じゃない。

いくら強くなっても、息を吸わないと生きられないわけで…

あの粉が舞っている状態ではまともに呼吸もできない。

窒息死なんてしないだろうけど、ちょっとした嫌がらせだ。

粉がある程度マシになったらこっちから……って、あれ?


「えっ!?えっ?そ、そんな!?」

「もう時間切れか…早いね」


一気に体がだるくなり、さっきまでの溢れるような魔力が一切なくなった。

《神威纏》の時間切れ。

あんまりにも…早すぎる。


《鋼の体》を使った粉を防いでいた神林さんも出て来て、“自分の意志で”《神威纏》を解除した。


「とりあえず目的は達成したし、一旦帰ろう。まだ全身が痛いし、かずちゃんなんかは全然傷が治ってないんだから」

「………」

「そんなに不貞腐れないでよ。今夜は最高の夜になるのにさ」

「最高の夜!?」

「そこには食いつくんだね…」


大怪我をしている私を抱えて小屋へ向う神林さん。

小屋に戻ってくるとポーションともう1種類の瓶が置かれていた。

その内容物は今日も手紙に記されていて、私にポーションを飲ませながら神林さんが手紙を読む。


すると、険しい表情になって手紙をビリビリに破って捨てた。

内容が気になるところではあったけど、神林さんは触れて欲しく無さそうにしていたので一旦無視。

それよりも、私は神林さんに聞きたいことがある。

私は神林さんから《神威纏》について情報を引き出そうとしたけれど、難しい話ができない神林さんは私に教えることができず、結局脳がバグって諦めた。


はぁ…後は夜に期待しよう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る