第203話 激戦

ヒキイルカミに斬り掛かった私は、魔法を紙一重で躱しながら、どうにか私から距離を取ろうとするヒキイルカミを追いかける。


「突っ走らないで欲しいね。私が援護できない」

「アンタの援護なんか要らない。オカマは大人しくモンスターの相手でもしてて」

「それは姉さんがやってるから問題ない。あと、その言い方は配慮に欠けるんじゃないの?」

「うるさい」


あっという間に私の隣までやって来た『菊』が私に襲いかかる魔法を破壊してくれる。

別にコイツに援護されなくたって私はやれるのに余計な事を…


私の手柄が減っちゃうじゃん。

…いや?もしかして、それが狙いで私の援護に来たのか?

自分も手柄が欲しくて、援護と称して良いところで掻っ攫っていくつもりなんじゃ…


「変な事考えてる暇があったら前を見なさい。かずちゃんの悪い癖が出てるわよ」

「むぅ…」


愛しの神林さんも私の隣までやって来た。

私に《鋼の体》の防御を付与すると、よく練られた魔力を爆発させるように使って一気に前に出て、ヒキイルカミに肉薄する神林さん。

それに表情を歪め、魔法を多数放つも…全部無視でノーガードカウンターを決められたヒキイルカミ。

流石の近接戦闘力。

インファイトは私よりも遥かに上だね。


「私も負けてられない!」

「ちょっと!!」


神林さんの真似をして一気に加速すると、ヒキイルカミの腕を切り落とす。

コイツの体は魔力で出来ている霊体。

なら、吸えるんじゃないだろうか?


切り落とした腕に刀を突き刺すと、しっかり何かが発動して私の中に大量の魔力が流れ込んでくる。 


『吸収だと…?だが、そんな能力は――』

「どこ見てる!?私はこっちだ!!」

『くっ!鬱陶しい!!』


切り落とされた自分の腕が吸収される様を見て、ヒキイルカミは少し動揺している。

どうやら、この吸収能力はただのスキルじゃないっぽいね。

…まあ、私自身も武器にもこんな吸収能力無いし、未だにコレは謎なんだけど…使えるもの全部使わないとコイツには勝てない。

だって…


『ええい!鬱陶しいぞ!人間どもッ!!!』

「くっ!?」

「きゃっ!?」

「チィッ!」


広範囲に破壊をもたらす魔力爆発。

コレは魔法じゃないから魔王の大太刀でも破壊出来ない。

私と神林さんは《鋼の体》で守られていたけれど、『菊』は攻撃を回避するために逃げる他ない。

それはつまり…魔法アタッカー相手にアンチ魔法アタッカーと分断された状態で戦わないといけないって事だ。


『消し炭になるがいい!!!』

「ヤバイ!!」

「くっ!かずちゃん!!」


おっそろしい破壊力の魔法を連射してくるヒキイルカミ。

あんなのを喰らえば《鋼の体》を容易くぶち抜いてやられる。

それは神林さんも一緒。


私達は魔法の回避に専念し、なんとか隙を伺う。

一方の『菊』はと言うと…


「くっそ!!鬱陶しいんだよ雑魚どもが!!」


ヒキイルカミが召喚したモンスターの群れに囲まれてすぐにはこっちに来れない。

援護は期待出来ないか…なら、私の力でなんとかするしかない!


「……ここっ!!」


五月雨の如く降り注ぐ魔法の穴を掻い潜り、なんとか一太刀届かせる。

当然、一太刀程度ではヒキイルカミは痛くも痒くもない。

私はヒキイルカミを前に大きな隙を晒す事になったが…こっちは一人じゃないんでね!!


「ナイスだよ!かずちゃん!!」

『チッ…』


私に注目した一瞬で神林さんに向けられる魔法の数が減った。

そうなれば、神林さんがその隙を見逃すはずがない。

ヒキイルカミが神林さんにも攻撃を向ける頃には既に目の前にいる。


『――くっ!!』


神林さんのパンチが炸裂し、ヒキイルカミは大きくぶっ飛んだ。

魔力武装によって内部に衝撃が伝わり、内側から魔力で破壊してくる神林さんのパンチ。

霊体のヒキイルカミと言えど、その効果は絶大。

相当ダメージを受けている様子だ。


『小癪な!!』

「うぐっ!?」


風の魔法で吹き飛ばされる神林さん。

かなり嫌がってるね…案外神林さんが切り札になったりする?


…霊体だから、肉体よりも内部へのダメージが大きいのかな?

魔力を纏った攻撃しか効かない霊体だけど、すごく脆い。

霊体は言わば魔力の塊だ。

神林さんの魔力武装は、内側から荒れ狂う魔力で破壊する攻撃。


…腕を切り落とされるような攻撃は新しく腕を生やせばいいけれど、内側からの複雑な破壊は再生が難しいとか?


「じゃあ、コレにも弱かったりする?」


刀を突き刺すと、体内で魔法を発動して内側から燃やす。

ヒキイルカミは分かりやすく嫌そうな顔をして、神林さんと同じように風の魔法で私を追い払おうとする。

でも、それはもう見てるから効かないよ。


「はい。それダメ」

『なにっ!?』 


魔力を流して魔法の発動を阻害する。

霊体の悪いところだね。

魔力で構成された体だから、魔法抵抗が低いんだよね。

簡単に魔力を通せるから、自分を発動の触媒にした魔法を簡単に破壊できる。


魔法は武器や杖を発動の触媒にしたやり方と、自分を触媒にしたやり方、あとは魔法陣を使ってたやり方がある。

例えるなら、魔法を『箱を棚に仕舞う動作』だと考えるた場合、武器や杖を使うやり方は道具を使って箱を持ち上げ片付けるというやり方。

精密な動きはし辛いけど、より重たく、より大きい物を持ち上げられる。


自分を触媒にしたやり方は、普通に手で持って持ち上げ片付けるようなもの。

持てる重さ、サイズに限界はあるけれど、置きたい場所にピッタリ置ける。


魔法陣を使ったやり方は、遠隔操作のロボットで箱の出し入れをしてる感じ。

魔法陣の性能…機械の性能で持てる重さサイズに違いが生まれるけれど、自分は遠くから操作してるだけでいいって利点がある。


ヒキイルカミは目の前に居る私に対し、直接自分の身体を使って魔法を発動しようとしたけれど…肉体よりも魔法抵抗が低い霊体だと簡単に弄れちゃうんだよねぇ〜。

この距離まで近付いちゃえば、もう魔法は怖くない。


『勝ち誇るには早いぞ』

「あ〜…それはまずい」


すぐにタネを暴かれ、魔法陣を使う事で対策してきたヒキイルカミ。

流石に魔法陣への干渉は無理だなぁ…そこまで魔法に詳しくないもん。

しかも、しっかり即死級の攻撃魔法。

自分があの程度では死なないことをいい事に、自分ごと私を殺るつもりだね。


…でも、コイツ視野狭いよね。

敵見つけるとすぐに突っ込む私みたい。


「させるかっ!!」


戻ってきた神林さんが魔法陣を強引に破壊して、私のことを守ってくれた。

かっこいい神林さんの姿にキュンキュンしながらヒキイルカミの方を見ると…おお〜、怒ってる怒ってる。


たかが私達に完封されて悔しいねぇ?悔しいねぇ!


『……ふぅ。まずは貴様の薄ら笑いを消すとしよう』

「あっ、冷静になった?」

『いや。今も怒りでどうにかなりそうだ。…だが、その余裕はいつまで持つ?』


そう言った直後、ヒキイルカミの魔力が高まる。

魔力爆発か…なら、私の魔力を流して発動を阻害。

そして、神林さんに攻撃をしてもらえば……いや違う!!


「離れて!!」

「っ!?」


刀を抜いてヒキイルカミの体を蹴る。

作用反作用で私とヒキイルカミの距離が離れ私は全力で走る。

神林さんも何か起こる事を察したようで、ヒキイルカミから距離を取ってくれる。


「何事!?」

「強引な魔力爆発ですよ!ここは一帯が吹き飛ぶ!!」

「ええっ!?」


Q、魔力爆発を阻害されない為にはどうすれば良いですか?


A、阻害できないくらいの魔力で無理矢理爆発させればいい。


簡単な話、妨害が意味をなさないほど強引でめちゃくちゃな事をすれば、どうにでもなるんだ。

それができるのは圧倒的な魔力差が必要だけど…カミならそれができる。


「2人も逃げて!そこも爆発の範囲内だよ!!」

「言われなくても分かってるよ!!」


2人にも逃げるように言って、とにかくヒキイルカミから距離を取る。

魔力爆発のためにその場を動けないのが救いだけど…っ!!


「来る!!」


予想できる範囲内から逃げられていない状況で、最大まで高まった魔力が解放される。

紫色の閃光が私達を包み、強大な魔力の波が私達の数倍の速度で迫ってくる。

これ…逃げられなくない?


「駄目だね。逃げられない。私の後ろに隠れて!!」

「はい!」

「頼もしいね…私もその力欲しいよ」

「あなたにはもっとイカれた能力があるじゃない」


逃げられない事を察したのは私だけじゃないみたい。

神林さんが受け止める方向にシフトした。

私達は神林さんの後ろに隠れる。


次の瞬間、大地震のような激しい揺れが私達を襲い、耳が潰れそうな轟音が響く…いや、音が消えた。


「あ〜、うるさいうるさい。消して正解だね。これは」

「コレを受け止められる神林さんも凄いけど、あなたもだいぶイカれてるわよね…」

「人の苦労も知らないでヘラヘラと…かずちゃん、ちょっと手伝って」

「は〜い」


『菊』が《隠蔽》か《偽装》か何かを使って音を消した。

なんか…なんでこんなに凄いことが出来るのに精神がアレなのか不思議なんだけど。

もう少し精神面が大人なら褒めちぎれたのに……私の言えたことじゃないか。


神林さんに手伝ってと言われた私は、後ろから抱き着いて頬を擦りつける。

邪魔してるようにしか見えないかもしれないけど、立派なお手伝いだ。


「一葉ちゃん…?ほんとに手伝ってる?」

「手伝ってますよ。私、《鋼の体》の使い方なんてわかんないし、支えることも出来ないので。こうやって抱き着いて、精神的に支えるしかできませんよ」

「あると無いとじゃ大違いだよ。守るべき人がすぐ後ろに居るって言う意識が持てるから」

「なるほど…」


精神的なバフを付与していると…揺れが弱まってきて、神林さんの苦しそうな顔が少しマシになる。

なんとか耐えきれたね。

やっぱり神林さんの《鋼の体》は強力だなぁ。


私も神林さんも『菊』も『紫陽花』もなんとか耐えきった事で気が抜ける。

…それがまずいと知るのは、すぐノ事だった。


「っ!?下だ!!?」


『菊』がそう警告した直後、地面が爆発して全員吹き飛ばされる。

爆発自体ではそれ程ダメージを受けなかったけど…問題はその後だ。


「なっ!?」


突然金縛りでも受けたかのように体が動かなくなった。

見ると魔力の縄で全身が縛られていて、何もできない。

魔法は撃てるけど…私程度の魔法だとなんの意味もない。

誰かに拘束を解いてもらおうとするけれど、見た感じ全員囚われてる。


…いや、神林さんだけは避けてるね。

勘で逃げたか。


でも、ヤバイ状況に変わりはない。

この拘束…普通に強すぎる。

一瞬で発動する魔法にしては強度が異常だ。


『1人逃げたか…まあいい。3人拘束出来ただけでも大金星。まずは1人、減らすとしよう』

「神林さん!!」


ヒキイルカミはまず神林さんを倒そうと狙いを定めている。

助けに入りたいけど動けない…


沢山の魔法が神林さんを狙っている状態で…私は何も出来ずにいた。

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