第198話 究極!無敵の布陣5

『青薔薇』がコワスカミのハメ殺しを始めた。


《加速》を使った『青薔薇』は咲島さんでも止めるのが大変なほど強い。

その気になればあの早川だってすぐに倒せただろうに…まあ、石橋を叩いて渡る咲島さんが『使うな』って言ってたから仕方ないんだけどね?


私達のスキルは、本当にやばい事が起こった時の切り札だと考えてるみたいだから、ダンジョンの外では使わせてくれないんだよね。

情報が重要なのはわかるけど、そこまでして隠すことなのか…?


「私にはよくわからないわね。あなたは分かるかしら?」


動きを止められて、もう倒されること待つのみのホロボスカミに問いかける。

こいつは魔法使いタイプだから、動きを封じられても魔法が使えるけれど、こいつ程度の魔法に遅れを取ることはない。


冷静に対処すればどうとでもなる。


「即死魔法…まあ、使われる前に倒せばいいだけの話」


即死効果の付与された魔法を私に放とうとしてきたが、使われる前に倒す。

神威で付与された即死効果だと言うことを考えると、弱い魔法でも十分私を死に至らしめる威力があるはず。

それなのに弱い魔法を使わない理由はいったい?


「弱い魔法だと私を即死させられないと思ってるのかな?そんなこと無いんだけどね」


『青薔薇』がやったように、わざと聞こえるように弱い魔法でも効くことを強調する。


ホロボスカミは私のことをかなり警戒している。

その警戒を解さないと、正直ガードが硬いから手札を見られない。


(どうせ即復活の回数制限を使い切ったところでまた復活するんだ。それに備えて、少しでも行動を見たかったんだけどね…仕方ない)


過度に様子見をして大きな隙を晒し、早川のように逃げられては困るんでね。


『青薔薇』と同じく、スキルの併用で何もさせることなく倒し続ける。

復活の時間はいくらでも操作できるはずだから、時間稼ぎをすれば良いだろうに。

それもせず馬鹿みたいに即復活を繰り返してやられるなんて…弱い。

何より頭が弱い。


…弱い?


(そうだ…レベル300のカミにしては弱すぎる。レベル100程度のモンスターを相手してるみたいだ)


魔法を主に使うモンスターは打たれ弱くなるとは言え…あまりにも弱すぎる。

頭を刎ねれば死ぬのは間違いないとは言え、なんでこんなに分かりやすくしてやられている?

…私達が隙を晒すのを待っているのか?


「…『青薔薇』。“油断するなよ?”」

「……。…!」


あえて敬語を使わず、命令口調で伝える。

私が命令口調を使うなんて何かあった証拠。

普段は意地悪の為に敬語を使ってるからね。


そんな私が命令口調を使うと言うことは…何か伝えたい事や言葉以上の他意があるという事。


今回の場合は『油断するな』。

これは、“もっと気を張れ”とか、“警戒度を上げろ”と言う事を伝えたい。

それを瞬時に理解した『青薔薇』は、私の意図を汲んでコワスカミと向き合う姿勢を変える。


すると、その直後『青薔薇』より少し遅いくらいの高速でコワスカミが動き、距離を取った。


こっちでもホロボスカミが復活した瞬間高速移動をしたけれど――あらかじめなんとなく予想していた私は、飛び上がられる前に拘束する。


「私の相手をするなら、その程度で逃げられると思わない事。そして――」


速射でかなりの量の魔法を飛ばしてくるホロボスカミ。

もちろん、即死効果が付与されている。


「相手の言葉を鵜呑みにしない事。こんな弱腰の魔法、効くとでも思った?」


私に当たりそうな魔法だけ全て叩き斬り、全部捌き切る。

そして、ホロボスカミの首を刎ねて仕切り直した。


どうせ3秒で蘇るだろうし、ちょっとだけよそ見。


「それが本気か?その程度の速さで私と競おうだなんてよく思ったな?」


『青薔薇』も順調。

速さで上回っているから、一旦逃げられても優位に立ち回れてる。

僅かな隙を見逃さず、首を刎ねてあっちも仕切り直し。


「おっと!逃さないよ」


復活したホロボスカミを再度拘束。

今度はすぐに剣を振って魔法を使われる前に倒した。


この調子で復活の回数を削ろう。

あと何回か知らないけど、2、3時間もやれば勝てるでしょ?


そんな考えのもと、私と『青薔薇』は2体のカミをハメ殺しにした。









あれから多分2時間半。

ホロボスカミが復活しなくなった。

どうやら『青薔薇』の考察は当たっていたらしい。


コワスカミは度々逃げ出して倒すのに時間がかかっていたからまだだけど…まあ、私も戦闘に加わったから無問題。

《静止》は破壊されるとしても、効果が発動した瞬間破壊されたり、そもそも発動しないみたいな事はない。

だから、ほんの一瞬。

1秒に届くか届かないかの僅かな時間、隙が生まれる。


1秒に満たない時間でも、トップアスリートの世界では勝敗を分けなる鍵になる。

それが人の身で音速を超え、素手で車をスクラップにし、拳銃程度ならダメージすら受けない私達の世界となれば…どれほどの隙かは言うまでもない。


逃げようとも、這い回ろうとも。

私がこの戦闘に参加した時点でコワスカミに勝ち目なんて無い。

どうあがいても私達の勝ちだ。


……とは言っても慢心はしない。

もうあんな失敗は御免だからね。


(万が一『青薔薇』が油断しても良いように…私だけは絶対に油断しない)


確実に復活しなくなるまで私は警戒を解かない。

何度だってハメ殺しにしてやる。


私が戦闘に参加してから16回コワスカミを倒した時。

ついにコワスカミも復活しなくなった。


「…勝ち、かな?」

「10分経ったけど、復活の兆候は見られない。煙も霧散したし、勝ちでしょうね」


煙が集まって形を作らない。

それどころか、煙すら見えない。

経験値が入って来ないのは、本当の意味で倒したわけじゃないからだと思う。

…じゃないと今の2時間半で信じられないくらいレベルが上がってないとおかしいし。


「なんとかなったみたいだな」

「『天秤』…『紅天狗』は?」

「お前らの仲間とモンスターの制圧に向かったよ。俺は万が一に備えて近くで待機してたんだ」


私達の相手をしつつ、《天秤》を破壊するのはそう簡単じゃない。

その気になれば、さらに有利に立ち回れるように動けたって事か。

流石は日本最強の冒険者ね。


「それより、コワスカミもホロボスカミも本当に倒せたのか?」

「……倒せた、と思いたいな。私も『牡丹』もこう見えてボロボロだ。もう体力も魔力も残ってないさ」

「私をあなたと同列にしないでいただきたい」

「はいはい。普通に話せば良いんでしょ?全く……ん?」


軽く『青薔薇』を煽っていると、カミの気配を感じた。

『青薔薇』と『天秤』も同じなようで、警戒レベルを上げる。


そんな中、現れたのはホロボスカミ。

それも、かなり弱っていて無理矢理復活したような身体も不安定。

何がしたいんだろう?


「往生際の悪い…終わらせる」

「私が終わらせても良いんだよ?相手してたのは私だし」

「一番仕事してない俺が相手してやっても良いんだぜ?」

「今でさえMVPの活躍をしてるくせにまだ成果が欲しいと?まあ、譲ってもいいけど」


『天秤』が私達の前に出る。

彼は私達の到着までカミを止めるだけのバフとデバフを撒き、戦線を維持し続けて来たMVP。

直接戦闘に参加していた訳ではないにしても…彼がいなかったらここまでカミを抑えられはしなかったはず。

そんな彼に成果を譲る。


…まあ、失った評価をある程度回復するには十分な仕事をしたし、これ以上する事は無いか。


「即死攻撃…それもあんな大規模で分かりやすい魔法…『天秤』が対処できないはずないね」

「無理矢理復活したんだし、そんなものでしょ」


かなりの魔力を持った、大規模な魔法。

それに即死効果を乗せて私達を倒そうという魂胆。

しかし、『天秤』がその程度に焦るはずもなく。

冷静にアンチマジックを出されておしまい――と思った直後。


「――っ!?」

「っ!!危ない!?」


突然地面にホロボスカミの魔力を感じ、私達は『天秤』に警告する。

…が、時既に遅し。


「くそっ!!」

「この範囲はっ!?」


私達も地面からの攻撃の範囲内。

助けに入ることはできず、範囲外まで撤退せざるを得なかった。


いくつかの《天秤》の発動を感じ、それでなんとかしようと試みているのがわかったものの…


「ミンナ……シネッ…!!」


そんな掠れた声が聞こえ、地面が爆発した。



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